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ガキ大将のいたずら

「アハハハ!」

 母が久しぶりに、声をあげて大笑いした。

 ガキ大将だった頃の、坊主頭に鼻水を垂れ流した少年だった父の、小さな白黒写真。
 その写真は実際にあるものではなく、母の脳裏に焼き付いたものだった。

 「それを見たときは大笑いしたわ」と言って、また大笑いした。笑いすぎて、少し涙をながすほどだった。久しぶりの、笑いの涙だった。

 その写真が見つかれば、私も見てみたいと思った。
 父は、ガキ大将だった、と私は祖母から聞いていた。いじめっ子だったらしく、問題を起こしては他の学校に転校させられていた。2,3校転校したと聞いている。私が祖母から聞いた転校の話を母は知らなかったが、いじめっ子だったことは本人から聞いていたようだ。
 「カツアゲもしていたみたい。その子の家の、アレもってこい!みたいなことしていた、と聞いたことがある。」と母は言った。

 父は、(2023年)8月29日になくなった。

 11日目のこの日(9月9日)、父が昔、生まれ育った氏神様に、ご挨拶に行った。
 神事に詳しく、ある神社で宮司をしている友人から、「告別式に行く前に、氏神様に行って唱えるといい」と、直筆の祝詞が送られてきた。しかし、家に届いたのは、告別式が終わって、一息ついたころだった。
 「遅れてでも、行った方がいい、喪中なので、塩と火打石で清めていくといい」と、メールで教えてもらった。火打石はなかったので、香木のパロサントの煙をくゆらせ、塩をふって、伴侶と母と三人で出かけた。
 そうして、亡くなって7日目に今住んでいる近くの氏神様をお参りした。

 「今住んでいる氏神様だけでもいいが、昔生まれ育ったところで祝詞あげると、なお、良い」、とのことだったので、また同じ三人で、同じように身を清めてから、出かけたのだ。
 銀行に提出する書類の関係で、戸籍謄本から父の旧住所がわかったので、めぼしをつけた神社に人気のない早朝に赴いて、大祓いの祝詞と、父が亡くなったことの報告の祝詞(友人がつくってくれたものを、父の幼い頃の住所に変更したもの)をあげた。

 母が大笑いしたのは、お参りが終わって、喫茶店でモーニングを食べて、ひと段落した頃だった。話題は、父の少年時代の話になり、その頃の写真をどこかでみたことを思い出して、大笑いしたのだった。お参りは早朝に、誰もいない時を狙っていった。お参りが終わって、曇りだった空も晴れてきた。父は晴れ男だった。

 大笑いではないが、数日前、財布からある店の割引カードが出てきて、その期限の日付を見て、私も思わず、笑ってしまったことがあった。
 一か月前に弟とその店に行って、買った割引カードだったが、不思議なことに買ってから、その店には一度も行かなくなった。それまで、毎週通っていたのに。なんのために買ったのだろう…
 まぁ、そういうことはよくあることかもしれないが、私が、思わず、笑ってしまったのは、その期限の日付がまさに父のなくなった日だったからだ。

・・・8月29日・・・

 この日にむけて、他にもいろいろと符合があったから、やっぱり、なんか、父は予定通りだったんだ、と安堵の気持ちが、息をついて笑いとなった。
 その笑いが導火線を伝って、母の大笑いになったかのように、父の死を家族は徐々に受け入れていった。
 病院や葬儀での緊張、突然の悲しみ、あれでよかったのかという不安や自責の念、そういった心の疲れが徐々に癒されて、母の大笑いに繋がったのだと思う。

 大笑いした翌日、母は不思議な体験をした。母の家(実家)と私の家は隣同士にある。土曜日には弟が母の家(実家)に泊まりに来ていた。

 ・・・9月10日(日)深夜1:44・・・
 早くに寝てしまったので、母は深夜に目をさまして、2階から降りて、トイレにいった。今何時か気になったので、居間に入った。居間は仏間と繋がっており、仕切りのスライド式の扉は、開け放ったままになっている。
 ソファに腰かけて、「ああ、1時44分か」、と丸い掛け時計で確認すると、ソファの前のテーブルにあった父のケイタイが青く光った。なんだろうと思って、ケイタイを手に取ると、「着信あり」の記録メールが届く。誰からかと訝っていると、着信履歴の番号は父のケイタイの番号だった!
 なんとも不思議な気持ちで、母はそこに2時間ほど、仏壇の父の写真を眺めながら過ごした。

 朝になって、母は、弟にそのことを話し、弟はその真相を究明しようとしてくれた。それで、わかったことは、自分のケイタイの番号に自分でかけると、留守番電話になり、その直後に着信を知らせるメールが届くらしい。弟は実際に試して、その履歴を見せてくれた。
 私も自分のケイタイで、試してみると、確かにそうなった。

 でも、母は、父の携帯が青く光ったから、それを手にしたのであって、それまでケイタイを触っていない。光ったのはメールが届いたという合図だった。

 それも、母がソファに腰かけた瞬間に!
 父は「元気か?」と母を励ましたのだろうか・・・

 そのケイタイは、翌日(9月11日)の月曜日には、解約する予定でいたから、その前の連絡ができるときに、ちょっと、おちゃめに、挨拶をしたのだろうか・・・

鼻たれ小僧の、
ガキ大将の、
いたずら心が、
常世で蘇ったのかもしれない・・・・・(笑)


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