「全男子トイレをオールジェンダー化」に関する私論

 4/14に開業した東急歌舞伎町タワーのトイレを発端とする議論の中で、次のツイートを見かけた。

 『男性専用●●』のトイレをなくしてしまって、そこを『誰でも使いたければ使ってよい』トイレに変えよう、と。

 極端にも感じられるこの案について、結論だけ言えば筆者は『賛成』だが、もう少し詳しく個人的な(一男性の)見解を明かしておきたい。
 どう感じ、何を比べ、賛成という結論に至ったか。

◆私論

 男性専用トイレがなくなったとして、身の危険を感じる男性は多くないように思う。少なくとも筆者は感じない。また男性用トイレが女性用ほど長蛇の列になることは珍しい。
 つまり『実害はあまりない』と言える。では実害以外の部分はどうだろう。

◇(1/2)感情面の反応

 筆者の率直な感情は2つに整理できる。

  1. 歓迎はしにくい。

  2. 強く反対する理由は無い。

1)歓迎はしにくい
 男性用の小便器に防御力など無い。はっきり言うと、陰部を隠すほどの仕切り板は無いことが多い。見ようとすれば簡単に見えてしまう。
 同性(らしき人)からだって意図的に見られれば不快だが、異性(らしき人)となると尚のこと居心地が悪くなる。『誰も見ねえよ』という声もあるだろうが、見られうる・・だけでも落ち着かない。

 中には見られることを喜ぶ男性もいるのだろうが、筆者は嬉しくないし、そう多くもないだろうと考える。

2)強く反対する理由は無い
 『男性用トイレに女性が侵入し、陰部を見られうることに居心地の悪さを感じる』状況、実はさほど珍しくない。男性が女性用トイレの清掃をすることは無いと思うが、その逆はあるからだ。
 善し悪しは別として既にそういう状況は起こっているし、秘密裡に行われているわけでもない。

 運悪く女性(らしき)清掃員に遭遇した複数回の経験を踏まえて。
 その時に落ち着かない思いをした(1)。
 一方で、居心地が悪い以上の害も無かった(2)。

 感情面のプラスマイナスで言えばマイナスである。大きなマイナスではないがプラスでもない。

 つまり「全男子トイレをオールジェンダー化」という案には、やや強い表現をすると、個々の男性には薄っすらとしたデメリットだけが存在する

◇(2/2)納得しうる利得メリット

 脅かされている女性からすれば、身の危険を感じない程度の不愉快くらいは我慢してもらいたいだろうし、筆者の結論もそうすべきというものだ。
 が、そこに至るまでの過程を記すのが本稿の目的なので結論まで飛ばさずに一歩一歩進める。

○人の自然な反応として
 メリットがなくデメリットしかない変革に反対したりメリットを示せと求めたりするのは、自然なことだ。たとえデメリットが小さくとも。
 この一般論は男女関係なくあてはまる。

 だから上のツイートも次の論点を挙げているし──

問題は男が納得するのかという点

論点

──同時に利点も挙げている。

  1. 看板の掛け替えだけなのですぐに実現、費用も安い

  2. 女子スペースを守れる

  3. 「オールジェンダー」化する理由を国民に周知させることで理解増進も実現

  4. 世界最先端となり外圧をはねのける

 この論点を支持する。
 中には『男性の納得など不要』という方もいるし、ケースバイケースでそれを支持することもあるが、納得を得られるなら得た方が良い。

○デメリットを飲み込めるメリット
 上の4点などを受けて『そうか、そういうメリットがあるならデメリットを受け入れよう』となれば望ましい。が、挙げられた利点はそういう説得力があまり強くないように感じた。
 これで納得する男性もいるだろうが、多数派には至らないのではないかと。

 前段で述べたように、男性のデメリットは感情的で個人的なものだ。“そんな風にしたら世の中がダメになってしまう!”的な、社会的デメリットから二の足を踏んでいるわけではない。
 そこへ社会的メリットを提示しても、メリットとデメリットが噛み合わない──『感情が傷つけられている時にいきなり慰謝料の話をされる』ようなもので、求めと応えが適合マッチしない。こうなると、客観的には納得すべき利であっても納得しづらいと感じてしまう。

 挙げられた4つの内、2つ目以外は社会的メリットである。理性的には間違いなく正しいが個々人の感情に直接訴えるものではない。

  • すぐ実現できて費用も安い

  • 国民の理解増進

  • 世界最先端

 個人的・感情的メリットは2つ目だけ。

  • 女子スペースを守れる

 付け加えると、『見知らぬ女性全般の安全』という社会的メリットと『家族の安全』という個人的メリットを兼ねている。
 これが叶うことの個人的・感情的なメリットは、筆者にとって最初に挙げたデメリットを越えるので、『その為なら納得できる』と賛成に回った。

◆想定される反応

 上記の私論は色々と批判されうるだろう。

“私欲ではなく公益に従え”

 正しい指摘だ。
 が、『人は公益ただしさで導ける』という叙述には根拠が無い。人がそんなに正しかったら世の中はこんな風になっていないように思う。それなら『私欲ほしさで人を誘う』ことの方が実効性を期待できよう。
 ここでの実効性とは(直接的には)男性が納得しやすくする効果のことだが、それが(間接的でも)女性の安全に繋がるならば『過程が理屈か感情か』は大きな問題ではないと考える。

“その願望は差別的だ”

 否定はしない。
 筆者の『家族の安全』という願望は明らかに男女の扱いに差をつけている。不平等なのは確実で、定義によっては“差別”に含まれるだろう。

 もちろん合理的な理由はある。

  • 性犯罪者の男女比率には圧倒的な格差があり、男女の被害リスクは等しくない。

  • 平均的な身体能力に格差があり、男女のクライシス対処能力は等しくない。

(大雑把には、“リスク”は『ことが起こるまで』、“クライシス”は『何か起きた後』に関する問題意識を指す)

 誰かが『合理的な理由があっても差別だ』というなら、『それはそう』という話。そもそも文字通りにあらゆる差別を一律・全面的に禁じれば防犯や危機回避は著しく困難になってしまう。

“そのメリットが通じない男性は?”

 女性用トイレが女性専用に保たれることによる安全性は、(異性愛者の既婚男性である)筆者にとっては個人的・感情的なメリットだ。
 が、そうでない男性もいるだろう。女性ミソジ憎悪ニストはもちろん、そこまでいかずとも家族や近しい友人に女性が居ない人(※1)とか、背景は様々考えられる。

(※1:筆者が大学で知り合ったある男子は、中高を男子校の寮で過ごした経験から女性全般を日常の実在に含めていなかった。その時点で『女性の安全はあなたのメリットですよ』と言われて飲み込めたとは思えない)

○最善策と次善策
 そういう男性も納得できるような個人的・感情的メリットを提示できればそれが最も良い。彼らの感情を最初から抑圧して良い理由は無いからだ。

 何らかの利を提示できないかと考えてみたが……今のところ筆者は思いついていない。
 にも関わらず賛成に回っている(※2)。

※2:つまり筆者は、メリットを提示して納得してもらうという最善策を棚上げにして、下記公益のために一部の男性を抑圧することを支持すると決めた。その男性たちに対しても差別的ではある)

 これを次善とする理由は公益──つまり比較てんびん──である。『トイレに異性(らしき人)がいることの害』は、どちらの方が大きいか。

  1. 『女子スペースが守れる』ことがメリットに感じられない男性にとって

  2. 女性にとって

 これは明らかに後者だ。
 前者は恐らく筆者にとっての害より大きいけれども、やはり個人的・感情的な不利益に留まる。不愉快ではあっても恐怖ではないとか、恐怖はあっても実害は無いとか。
 女性側の害よりはずっと小さいと考えられる。

 ──但しこうした比較衡量は、社会的メリットだ。

○別ルートの説得
 上で述べたように、感情的なデメリットに社会的メリットで応じても納得はされづらいだろう。

 なのでがらりと手を変える。逆にデメリットを示す。

 『男性専用トイレがある現状』と『なくなった状態』を較べたら、男性が後者にデメリットを感じるのは当たり前だ。何らかのメリットを求めることも。
 しかしそれが(一部の男性に対しては)提示できないので、天秤に載せるものを置き換えてみる。

 『男性も女性用トイレに入りやすい現状』と『男性が女性用トイレに入れない状態』を較べたら?

 現状を認知していない男性は多数いるだろうが、知ったならば『おかしい!』と思う方が多数派だ(と信じる)。
 つまり『現状すでに多大なるデメリットが存在している』事実をただ摘示する。

 不思議なもので、社会的不公正に対して『おかしい!』と思った時、その是正には感情的メリットを感じる人が珍しくない。
 『男性が女性用トイレに入れない状態』の方が正しくスッキリして感じられるのだ。

 細かいことを言うと、これは社会的デメリット(女性が危険に晒されて云々)を摘示したというより感情的デメリット(ただただ不公正が気持ち悪い)を喚起したのに近い。
 道義的にはいまいちクリーンでないというか、ダーティプレイというか……そういう遣り口ではあるのだろうが。
 それによって「全男子トイレをオールジェンダー化」が納得される余地は大いにあると考える。

ここでの実効性とは(直接的には)男性が納得しやすくする効果のことだが、それが(間接的でも)女性の安全に繋がるならば『過程が理屈か感情か』は大きな問題ではないと考える。

セルフ引用

◆まとめ

 実現した場合のトイレについて箇条書きにまとめる。

  • 女性専用/オールジェンダー向け、最低2つのトイレを設ける。3つ目以降を作っても良いが女性専用は専用のまま残す。

  • 女性もオールジェンダー向けを使ってよい。

    • 一人でトイレができない男児(女児)を連れた女性(男性)保護者などはオールジェンダー向けを使う想定。

    • 『女性用が混んでるから』でも気軽に使える位に安全なことが望ましい。そうであればMtFもFtMも安心できよう。

  • 女性が女性用トイレを使う際、外見や服装によっては煩わしく不愉快な面倒が生じることは考えられる。

    • 防犯の必要上避けがたい。その面倒を避けるためにオールジェンダー向けを選んでも良い。

    • 意図的な男性の侵入をゼロにすることは難しい。が、今よりは減らせると考える。

以上

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