見出し画像

ストレスの節約

 おれの住む東京は美しい街なのだろうか。

 大手町、午後6時半。東西線は仕事帰りの社会人で満員となっている。朝の満員電車は殺人的な混み具合で、精神的にも窒息しそうになるが、帰りの満員電車もゾンビのような社会人で溢れかえっており、生命の匂いを感じない。
 彼らの顔に浮かぶは、やっと仕事が終わったという解放感と、帰って寝てまた明日仕事だという虚脱感、そして家に帰るとまた別のストレスが待っているという絶望感。

 久々に満員電車に乗った。
 耳から聞こえてくるは、爆音のメタル音楽。
 その攻撃的なリズムに合わせて身を揺らしながら、頭の中でこの街を他の場所と比較してみた。例えば、クウェートや、サウジアラビアのリヤド、建物がひしめくモナコのコンクリートジャングル、月面など。家賃や文化などを気にせず、とにかく場所そのものや景観を比べてみる。おれ自身は海外で5年近く生活したことがあるので、特に住む場所を東京にこだわってる訳ではない。最近は日本も貧乏な国になり、自殺者や売春も多ければ、出生率も低い。モノと人はたくさんあるが、希望だけが無い国となった。幸福度も先進国最悪。
 それでも生まれ育った街に住むのは好きだな、という結論になった。

・・・

「節税できるなら、どんなところに住んでもいい」と言う人がいる。それはなんだかケチくさくて心が狭い印象を受ける。
「お金で人は幸せになれない」なんて決まり文句があるが、お金に囚われすぎて深刻に悩みすぎるのは、胃がいくつあっても足りないだろう。
 コーヒーが普通より200円高かったり安かったりしても、気にならない。お金より、ストレスの方を節約することにした。
 お金をお金としてでなく、ホワイトノイズとでもみなせるぐらい無頓着でいられる、ささやかな額を許容基準として設定しておく。そうすれば多少の価格の差ぐらいで悩まされることはないし、もちろん、平常心を失うこともない。

 起きた出来事の「解釈」を変えることができるというのは、自分の中の好きな性格の一部かもしれない。レジの行列や、廃車での待ち時間、高速道路の渋滞にイライラしていると、あっという間に血圧は150まで上昇し、ストレスホルモンが排出される。余計なストレスを抱えなければ、人生は一年長くなる。

 失った時間とお金は取り戻せないが、起きた出来事の解釈の仕方を変えることはできる。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?