見出し画像

学習アプリに求められるデザイン - DuolingoのUXリサーチとケーススタディ

Duolingoとは

Duolingoは、英語だけでなく中国語や韓国語など、さまざまな言語が学べる言語学習アプリです。スマホ版とWeb(ブラウザ)版の2種類があり、1日数分間の言語学習がテンポよくでき、世界で最も使われている言語学習アプリです。

Duolingoは、2011年にカーネギーメロン大学の教授でありReCAPTCHAの創始者のルイス・フォン・アン(Luis von Ahn)氏と、彼の大学院生であるセヴァリン・ハッカーによって研究プロジェクトとして開始されました。

研究者が作ったアプリとして、行動心理学や科学的な学習、アプリの機能、アイコン、プロダクトデザインなど、すべてにおいて根拠があって実装されている感があります。
言語学習アプリ「Lingvist」というのもありますが、こちらも素粒子物理学者が開発したものです。

DuolingoのBusiness Model Canvas

タクシードライバーやUberがパートナーとなっています。
個人タクシーのUber Brazilは、リオオリンピックに伴い急増する外国人観光客に対し、英語が話せるドライバーを多数採用する際に、Duolingoを使ったようです。
スマホで簡単にテストができるので、これに受かった人には「英語が話せるドライバー」称号が与えられ、英語話者のドライバーを希望する利用者とのマッチングにも使われました。

Duolingoのポイントの簡単なまとめ

ユーザーによる評価や二次情報、そして私自身が利用してみた感想を冒頭で簡単にまとめます。

1. Duolingoは、すでに基礎を知っているユーザーが、基礎からを思い出すようなレベル感のクイズを提供。

2. アプリの流れは一方向的であり、ユーザーは、言語選択以外で、自分で学ぶカテゴリを選択することはない。これがユーザーのストレスを軽減している。

3. Duolingoは独立したリソースとして使用するべきではない。Duolingoを使って参考書や動画、座学などを活用した学習のサポートとして非常に有益。

全体としてですが、創業者が研究者というもの影響しているのか、ビジネスサイド、開発チーム、それぞれがプロダクトとユーザーに対しての理解が深いからこそ洗練されたプロダクトができている、という印象を受けました。チームが非常に優秀だと思います。

Duolingoのインサイト

Duolingoはシンプルな言語学習アプリのように思えますが、そのインサイトは、「英語を扱えるようになりたいが、英語を勉強したくない人」

つまり、ユーザーが価値を感じているのは、「ボーッとしながら外国語が学べる」というところなんだと

https://markelabo.com/n/n45e72486c49f

学習サービスの多くは、参考書のようにより深い知識をつけて、スキルアップを狙ったようなものが多いですが、Duolingoのサービスは、第二言語の習得に興味があるが、正式な語学コースに通ったり、参考書などを使ってがっつり勉強する資金や時間がない人を中心としたマスマーケットを対象としています。
また、伝統的な学習方法を好まず、よりカジュアルな学習体験を好むユーザーに対してサービスを提供しています。

多くの人が、学校や公用語、あるいは異文化への興味から趣味として新しい言語を学んでいます。しかし、人々は怠け者で、先延ばしにしてしまうため、学習モチベーションが続きません。
Duolingoは、難しいこと、時間のかかること、精神的に負担のかかることを、「明日もまたやろう」と納得させながら、やる気を起こさせるような設計になっています。

Duolingoのアプローチは、基本的なことしか学べない非常に限定的なものです
実際により実用的な言語スキルを習得するために、Mosalinguaなどの別のアプリを利用するユーザーもいますが、このようなアプリは非常に複雑で、大衆にとっては煩雑に感じてしまうでしょう。

公式でも述べられてますが、「本格的に英語を話せるようになるため」という場合は、英会話や他の参考書などを併用することを勧められています。
Duolingoはあくまでカジュアルに英語に触れる機会を生み出すことが、ユーザーに対するサービスの価値提供であり、言語力の改善ではないのでしょう。
言語学習アプリではなく、言語慣れアプリといった方がふさわしいと思います。
あるいは、「言語学習習慣化アプリ」です。

単語やフレーズを少し覚えただけでは、実際にはあまり役に立ちません。
人は周囲の環境から学ぶものです。ただ単に派手な単語を「覚える」のではなく、その言語を「生きる」ことが必要なのです。
しかし、Duolingoのインターフェースと使いやすさは、ユーザーがこのアプリをもっと頻繁に使うようにするために特化しています

「言語を習得できること」がDuolingoのサービスの醍醐味のように見えますが、本質はユーザーが「日々隙間時間に言語学習に触れることができる」「習得してる感を得ること」にあります。
実際、スマホやPCで本格的な言語の学習をするのは、ユーザーにとっては苦痛でしょう。前述したMosalinguaなどのより本格的な言語学習をするアプリもありますが、インターフェースが複雑になる傾向があります。

高い学習意欲のあるユーザーにとっては、アプリという手軽さを入り口した中身が複雑なコンテンツよりも、座学や参考書、動画学んだほうが、学習しやすいし、実際に習得率も高くなります。
つまり、ライトユーザーには「勉強してる感を与えないポップさの高いアプリ」、ヘヴィユーザーには「本や動画、座学などの学習」が、それぞれ適していると考えることができます。

ユーザーは、選びやすくて満足できる選択肢を好む

ハーバート・サイモンが生み出したサティスファイシングという考え方は、使える(思い出せる) 選択肢のなかから、必ずしも理想的とは言えないが、限りある認知リソースを使ってその場で決断を下すという観点では満足できそうなものを受け入れる過程をいう。
まず、たいていの顧客は今やっていることを、今までよりも楽に続けたいとだけ思っている。
引用:脳の仕組みとユーザー体験

https://note.com/ryokobiyama/n/n742865d2e9bb

人間の脳は常に楽を求めています。

人はとにかく考えたくない。
学習アプリである場合、ユーザーに提供する選択肢を減らすことが、脳には最適です。
なるべく早く「分かった」状態を作ってあげることが学習アプリにおいて重要です。
なるべく脳自身にそれ以上考える必要をなくす、ストレスを与えないようにしていくべきです。
アプリという仕様上、複雑なものは使いにくく継続しないので、単純さと依存性を高めることと代償に、深い習得度を損なうというのは仕方ないことかもしれません。

選択肢を減らして、ユーザーに認知的負荷をかけない

人間は、選択肢が多くなると最適な選択が出来ないのではないか?という不安が発生し、決断自体をしなくなる傾向があります。引っ越し、転職などが身近な例です。

有名な実験の例として、スーパーで行われたジャムの実験を紹介します。
「選択の科学」の著者でコロンビア大学のシーナ・アイエンガー教授が行った実験で、24種類のジャムを試食・販売した場合と6種類のジャムを販売した場合で、売上を比較しました。

種類が多い方がユーザーにとって嬉しいじゃん、と思うかもしれませんが、結果としては、6種類のジャムの売上が明らかに高くなったのです。

脳にも一度に処理できる情報の上限があります。
選択肢が多い、どこに注意すればいいか分からない、コントラストが少なく、見つけづらいなど認知的な負荷をかけてしまうと決断を先延ばししたり、そもそも決断しないこともあります。

Duolingoはコース選択をさせないあたりなど、非常に人間の行動心理、脳科学、認知科学に基づいた設計がされています。

すべての人に優しいデザイン

Duolingoが洗練されてると感じたのは、プロダクトデザインやアプリのUIX、ゲームデザインなどのそれぞれの基礎的な部分を複合的に表現して、学習アプリに落とし込んでいる点です。

・簡単さは主観的要素に大きく左右される。実際に行う行動が難しいかどうかではなく、簡単だと感じるかどうかが鍵。
・情報はできるだけ構造化する
・〜しなければいけない系の言葉を使わない。簡単・すぐに・シンプルなどポジティブな言葉を使う
・複雑な行動を要求する時はタスクを小分けにして、その進捗を見せる

https://note.com/ryokobiyama/n/nb8227eb85a38

事実よりも感覚が最優先

簡単だなと感じるには2つの要素があるようです。

客観的要素:例えば、問い合わせフォームの記入欄や質問が少ない
主観的要素:例えば、問い合わせフォームを見て、どう感じるか

https://note.com/ryokobiyama/n/nb8227eb85a38

特に主観的要素に人はより影響されるようで、明らかに簡単であってもその人がどう知覚するかに大きく影響されてしまうということです。

この辺りは、なにかできそう感やアフォーダンスからきているのだと思いますが、主観的に脳がそのデザインからどう知覚・認識するかに配慮することが必要です。

一貫性のある一方通行な学習体験

Duolingoは他社のサービスと異なり、言語選択以外に、学ぶカテゴリを選択するステップがありません。
人間は、自分の行動や言動に一貫性を持ちたいため、一度何かに対して宣言があるとそれを達成しようとする傾向があります。

習慣支援系のサービスではユーザーに「いつやるか、どこでやるか、何をどれくらいやるか」を事前に決めさせることでこの効果を使っています。

Duolingoは言語学習アプリである以上に、言語学習習慣化アプリであると思います。

あとにも述べますが、カテゴリ選択画面ではなくTOPにコースが縦長に表示されていることから、一貫性のある一方通行な学習体験を提供していることが、価値を作っています。

競合とDuolingoの違い

Duolingoの競合には、Memrise, Babble, Mosalingua, Bussuなどがあげられます。

語学学習アプリには、基本的に2つのタイプがあります。

  1. 非常にユーザーフレンドリーで使いやすいが、BussuやMemrise、そしてDuolingoのように、実際にユーザーの言語スキルに劇的な変化をもたらすには、ちょっと足りないかなというレベルのもの。

  2. Mosalinguaのような、言語学習の手順を「本格的」なレベルで支援するもの。

人気のアプリの大半は、同じようなインターフェースとタスクフローを使用しています。特にMemriseとDuolingoは美的感覚にとても似ていると思います。

Duolingoと他の競合アプリとの目立った違いに、学びたいことを選択できる機能が、競合アプリに備わっているが、Duolingoにはその選択肢が無いということがあげられます。
学習アプリを作るとき、ユーザーが学習内容を選ぶ機能を実装することを当たり前のように考えてしまいますが、その場合、その選択画面がTOP画面に来てしまい、TOP画面がそれぞれのページに推移するためのただのHubとなってしまいます。TOP画面をサービスのコアにたどり着くためのただのHubにしてしまうのは、もったいなく、アンチパターンかなと思います。
サービスのコアをTOPページにダイレクトに持ってくるべきです。

もともとDuolingoも上記のような選択肢を多く表示するデザインだったようですが、変更が入りました。
公式にも記載されていますが、ユーザーは同じカテゴリを連続して学ぶので、ホーム画面にpathを表示した学習ページを持ってくるのは正しいかと思います。

https://blog.duolingo.com/new-duolingo-home-screen-design/#:~:text=We%20redesigned%20the%20home%20screen,goals%20with%20a%20guided%20path.&text=%E2%80%A6but%20now%20lessons%20are%20ordered,we%20made%20it%20the%20default!

また、ユーザーはカテゴリを選択したいように思えて、実際には、一方向的なレッスンを提供されることをアプリでは望んでいるのかもしれません。
DuolingoではTopページからすでにマリオのステージ選択画面のような世界が広がっており、すぐに学習を開始することができます。また、言語の切り替えはありますが、学習するカテゴリを選択するステップがないので、ユーザーを迷わせる時間が1秒もありません。
これは、スマホやPCを使った学習アプリに適したUXだと思います。

現在のtopページ(PC版)

もう1つの競合アプリとの違いは、競合アプリには学習フォローアップとプログレスレッスンがないことです。

IconographyとInfographics - Duolingoのアイコン

Duoligoアイコンは、鮮やかな緑の羽を持つ漫画の鳥のクローズアップです。このアプリは楽しい、中毒性さえあるモバイルゲームのように見えますよね。このパターンはサービスキャラが可愛かったり、愛着があるパターンで効果がありそうです。ついついタップしたくなります。

https://www.duolingo.com/

アイコンは一見些細なことに思えますが、Duolingoのビジネスモデルにとって、ユーザーが定期的にできるだけ何度もDuolingoを利用することが重要であることがわかります。
そのためには、FacebookやTwitterのような時間を浪費するアプリよりも、遊び心があり、楽しく、クリックしたくなるようなアイコンデザインから始まります。

アイコンになることを想定したキャラクター開発ができたら楽しいですね。

イラストも洗練されている

アプリは、楽しさややる気を生み出すなどの役割も担います。
最近のUIデザインは、機能だけでなく、エンターテイメント性を求められるようになりました。

Duolingoのイラストがとても洗練されています。

スムーズな画面遷移

Duolingoは、このアプリの楽しさ、ビデオゲームとしての装いを維持しています。
多くのアプリは、チュートリアルや説明のために、ユーザーがスワイプするための複数の画面を持つのが普通ですが、Duolingoはオープニングが1画面になってます。これは個人的に好きな部分です。

継続的な利用をうながすためにDuolingoアプリが工夫しているのは、スムーズな画面遷移です。アプリを起動して、まず目に入るのが「無料で楽しく語学学習」の文字。ひとめで何のアプリかがわかります。

初期画面のデザインは、フラットデザインの流れを汲んでおり、Googleのマテリアルデザインも取り入れています。

インタラクション型で、すぐにユーザーに体験を提供する

実際にDulingoを使っている方はわかると思いますが、DuolingoはアプリをDLしてから、スタートするまでのステップが非常に少ないのが特徴です。

Duolingoでは学習の目標を選ぶことができますが、注目すべき点がいくつかあります。

  • 開始時にアカウントを作成しないことでユーザーの手間を減らし、登録プロセスでのドロップアウトを防ぐ。

  • 言語の選択がスムーズにおこなえることで、より良いUXにつながる。

  • 目標設定を早めにおこなうことで、学習に専念することをうながす。

そして次の画面では自分の習熟度を選択できます。「初心者」を選ぶと、早速レッスンが開始されます。

アプリを初めて開いてから、わずか数クリックでレッスンを開始できるのはとてもスムーズな流れです。

アカウントの作成、キーボードでのタイプは、ここまで一切ありません。

Duolingoは、製品のコアをできるだけ早くユーザーに体験させるようにしています。こうすることで、「言語学習」をいち早くユーザーに体験させ、持続的に使ってもらうことにつなげているのです。

オンボーディング・アクティベーションの教科書として、海外サイトで良くとりあげられているのが「インタラクション型」です。
指示に従って操作を進めるだけで、いつの間にかサービスの価値を理解できる状態になっているものですが、Duolingoはこれが洗練されています。
質問に答えて進めるだけで、いつの間にか自分に最適なコースが提供されます。

ただこれは、設計からしてめっちゃ難しそうだなー開発サイドはよく考えて作ってるなーすごいわ……って印象を受けました。

アカウント作成のUX

最初のレッスンが終わるとアカウント作成を勧めてきますが、スキップすることもできます。
実際、最初のレベルがコンプリートするまではアカウントを作成することなく遊ぶことができます。

Duolingoの良いところは、製品を十分に体験してもらうまで、アカウント作成を強要しないことです。
アカウント作成も非常にスムーズで、年齢、名前、メールアドレス、パスワードを入力するだけで、あっという間に完了です。
アカウント作成の時点で、多くのユーザーが離脱してしまうので、先にサービスの価値を体験されることは、学習系のアプリでは効果的かと思います。

メッセージのデザイン

学習を継続していないと「まだ学習してないの…?」といったような、煽り口調のメッセージは、キャラクターから飛んできます。
友人から届いたメッセージのようで、不快感がありません。


通知の種類も多く、bot感が緩和されていることも、丁寧な配慮がされている感じです。サービスへの愛着が高まります。
アプリ内でもキャラクターを登場させる場面が多く、連続してアプリを進めるうちにキャラクターとの関係性が深まるような感覚さえします。
実際に、無くても問題ありませんが、キャラクターの「なつき度」なんかがあっても面白い気がするので、試してみて欲しいです。

ユーザーの共感を促すような演出を意識する

感情は相互に作用する習性があります。
この習性を用いて、サービス・プロダクトと接する中で、ユーザーに感じてほしい感情に、ユーザー自身を促すことができます。

カメレオン効果
動物やアニメーションを含む他の人の感情や行動を模倣または共感するという人間の習性のこと。

https://www.jcss.gr.jp/meetings/JCSS2014/proceedings/pdf/JCSS2014_P1-6.pdf

Duolingoのキャラクターからのメッセージや表情は、キャラクターの表情を効果的に用いてユーザーの継続利用を促していると言えます。

これは洗練されたインフォグラフィックスがあるから、実現できてる演出です。

Duolingoのゲームデザイン - ゲーミフィケーション

Duolingoが特に優れているのが、学習にゲーム性を持たせていることです。
行動心理学をベースとして、ユーザーがよりエンゲージできるよう工夫されています。

Duolingoでは、レッスンは同じように進み、学習している言語の文法と語彙を明示的・暗示的に教えてくれます。

最初のレッスンを終えると、「レッスン完了」の画面が表示されます。ゲーミフィケーション戦略に忠実に従っており、レッスン後には「XP」というポイントを獲得し、1日の学習目標達成までのゲージが視覚的に変化します。

ユーザーは数値化された自分の学習度や結果を確認することができるので、言語への理解が進んでいることを実感できます。表示される数字が正しいかどうかはさておき、ユーザーに与える統計的データとしては優れているでしょう。ユーザーがDuolingoを使い続けられるための設計としてうまく機能しています。

そして、実際にレッスンを終えたあとに、プロフィールを作成するように言われます。
Duolingoの「最初に遊び、次にプロフィールを作成」というUX戦略は、Duolingoの最もスマートな要素のひとつだと思います。
ユーザーは、なぜプロフィールを作る必要があるのか、ということを理解した上で、プロフィール作成に移行することができるので直感的です。
レッスンを修了し、XPを獲得し、数%の学習達成を達成することが、数分以内にユーザーは体験できます。この体験をした上で、プロフィールを作らないユーザーの方が珍しいのではないか、と思わせるような計らいです。

一つのチャプターの時間を短くすることで、やる気を与える

Duolingoでは、ひとつのカリキュラムをスキルごとに分け、そのスキルをレベルごとに分け、それをさらに細かいチャプターに分けています。そうすることで、それぞれのチャプターが数分で終わる長さとなっています。
以前、チャプターが1回につき15問程度あるものを他の学習クイズ系のサービスで試したことがありましたが、非常にめんどくさく、途中で辞めたくなりました。

それに比べると、Duolingoで提供されるそれぞれのクイズ数は適切に調整されていると感じました。
ゲーミフィケーション的要素もありますが、いきなり単語クイズ100問をこなすのではなく、まずは5問解くように小さく区切られているため、ユーザーは「お、それならできそうだし、時間もかからない」と感じます。

また、次のチャプターをアンロックするためには、そのチャプターでレベルを1にする必要があります。ユーザーはひとつひとつのチャプターに集中するため、たとえ全体のカリキュラムが長くても、それが気になることはありません。

また、それぞれのチャプターでプログレスバーが採用されています。これにより、視覚的にあとどのくらいでチャプターが終わるのかがユーザーはわかるようになってます。

「損失回避」でモチベーションを維持

Duolingoでレッスンをコンプリートするとジェムもしくはリンゴットがもらえます。リンゴットとはアプリ内で使えるお金のようなものです。
最初のゴールを達成すると、7日間チャレンジの「ダブル・オア・ナッシング」を勧めてきます。これは、7日間毎日学習すると100リンゴットをもらえて、もし1日でもミスすると、50リンゴット失ってしまうというものです。

この設計は、損失回避(人は、何かを得ることによるうれしさよりも、何かを失うことによる悲しみの方が大きいという心理バイアス)をうまく使って、ユーザーに毎日使ってもらうよう促す効果があります。

学習の履歴を可視化

前述した「損失回避」と重なりますが、この設計が学習履歴にも施されています。
「もったいない」という感情は、時に判断を誤らせることもあるものの、物事を継続するためのモチベーションとしても効果的に働きます。
ユーザーの行動履歴をバッジやログインボーナスとして可視化することで、継続的な利用を促すことができます。

参照元となる法則:コンコルド効果
それまでの努力を無駄にしたくないとの思いから、ついつい継続を選択してしまう心理的傾向のこと。

Duolingoでは縦長のマリオのステージ選択画面のような学習コース表示をすることで、自分がどこまで進んでいるかを視覚的にしかもポップに認識することができ、「ここまで進めたんだから途中で辞めるのは勿体無い!」という意識をユーザーに与えることに成功しています。

報酬によってユーザーを維持

これも行動心理学がベースとなっていて、さまざまな種類の報酬を使うことで、ユーザーがアプリにを継続できるように設計しています。

たとえば、チャプターを終わらせると、3つの箱の中からひとつを開けてリンゴットを得ることができます。リンゴットの数は毎回異なっていて、広告の動画を見るとその量を2倍にすることもできます。

人は「やり遂げること」に快感を感じます。人はどんなに小さいことでも達成する体験に満足を感じるようにできているのです

身近な例として、お皿のサイズを変えるだけで食べきったと満足し、ダイエットを無理なく続けられるという効果が挙げられます

Duolingoの場合、毎日の目標を達成したあと、報酬としてアプリ内で使えるアイテムがすぐにもらえます。これも達成感を後押ししています。

エンダウト・プログレス効果
ゴールに対して前進や進んでいる感覚を感じたときに、人はよりゴールに向かうモチベーションを上げようと努力する効果。

https://uxdaystokyo.com/articles/glossary/endowed-progress-effect/

無料でできる範囲が広い

Duolingoには無料と有料とあります。中身については広告がなくなる、間違えても永遠に回答し続けられる、という点です。
要は逆にそれだけしかないので、有料でなくても、無料で十分に楽しむことができます。
せっかくやる気が出たタイミングで、「ここからは有料会員のコンテンツです」と表示するサービスが世の中には多く、仕方なくユーザーは課金するということがありますが、これは企業の経済的合理性を優先したデザインになっており、ユーザーに全く寄り添ってません。正直嫌ですよね……
デザインというのはユーザーに寄り添うものでありコミュニケーションです。課金部分についても、ユーザーを仕方なく強制するデザインではなく、行動心理に寄り添っているところを見ると、Duolingoがいかにユーザーを配慮したデザインを意識しているかが伺えます。

ちなみに、Duolingoは当初は広告もサブスクも提供するつもりはなかったようです。

褒めのデザイン

ちょっとした事をいちいち褒めてもらえると、子供でなくてもつい嬉しくなってしまうものです。その気になれば自己判断で課金ができる大人達をその気にさせる方が実利的です。

特徴をもったキャラクターを登場させることでサービスが擬人化され、褒められる行為や応援される行為をよりリアルに感じることができます。
Duolingoでは学習したり正解したりすると、キャラクターが褒めてくれます。ただ褒めるのではなく、何を褒められているのかをユーザーに正しく認識してもらうことで、アクションの再現性を高めることができます。

こうしたちょっとした「褒めのデザイン」もユーザーのモチベーション向上に貢献してるといえます。

ライフが切れてもスマートに回復手段をサジェスト

Duolingoでは、1演習でライフ1つ消耗なのですが、ライフが切れたら回復手段を提示してきます。
ゼルダの伝説のハートの器、スマブラのマキシマムトマト、FFのポーション的な必需品を買わせるような訴求にも似ていて、課金ボタン思わずポチりそうになります。

連日記録 & 今日の目標の達成度を可視化

ユーザーが知りたいのはアプリでの学習量と成長率です。
上部メニューバータップで、明確に学習量が目に見えることはモチベアップに大きく繋がります。ダイエットでの減量記録にも似ていますが、成功体験がなかったら人間なんでも続きません。

継続できている期間を数字で表すことで、サービスにかけてきたコストを実感させ、継続意欲を煽ります。


シェアしたくなるような演出

スクリーンショットしてシェアしたくなるような演出をすることもユーザー体験を高めますし、それ自体がサービスの口コミにつながります。
学習からSNSのシェアまでが一元的になっていることも優秀なデザインだと感じます。

達成度をSNSにシェアして、学習していることを他の人に自慢したくなる承認欲求を満たす設計、そして、学習を終えたときに「お疲れ様!」のような言葉をかけてくれる画面が表示されるのもスクショしたくなります。

目的の二重性

こちらはFIATが展開したキャンペーンにシートベルト着用率を上げるタクシーWiFiというものがあります。

タクシーのシートベルトを締めるとWiFiが使えるようになるというシンプルな仕組みです。
タクシー側は安全にお客さんにシートベルトを締めさせて安全に運びたい。お客さんにとって、シートベルトを強制されるのはストレス。一方で、お客さんはタクシー内でWiFiを使いたい。

シートベルトをキッカケにしてどちらの目的も達成したのがこのキャンペーンです。

ここには、仕掛け学でも提唱されている「目的の二重性」が使われています。大切なのは考える順番です。

「シートベルトを装着してもらうにはどうするか?」ではなく、
「乗客はタクシー内で何をしたいのか?」から考えるとよい。

また、似たような別の例として、世界のあらゆるAEDの地図を作成している団体、ファーストエイド・コーがデザインしたものがあります。
当時、毎年20万人以上のアメリカ人が心停止、5分以内に脳死しています。
米国全土に配置されているAEDの場所を地図アプリに記載するのは骨の折れる作業です。
そこで一般ユーザーを巻き込むゲーミフィケーションを実施しました。
一般ユーザーはスマホを使って特殊な「シークレットオブジェクト」の写真をとり、その写真に自分のGPS現在位置をタグづけしてデータベースにアップロードするというミッションを与えられます。
このシークレットオブジェクトというのが、AEDです。

ユーザーの一人だったトムが見つけたAEDは、ポーランド州立大学のエレベーターホールにありました。彼はそこの博士課程に所属しており、それまではAEDの存在に気がつかなかった。

AEDの場所を地図アプリにアップすること自体になにか報酬が発生するわけではありませんが、もしAEDが利用された場合、そのAEDの位置情報をアップしたユーザーに「あなたのおかげで一人の命が救われました」というようなメッセージが届くようになっております。
人々の社会貢献欲をうまく取り入れたデザインで、Alternative Reality Gameの例として挙げられています。

ビジネスモデルでサブスクリプション型はとても流行っていますが、単にビジネス的に導入するのではなく、ユーザーに寄り添った課金システムを考えることが重要です。

単語帳の機能があったら私個人的には嬉しい

単語帳のような機能があればさらに便利だなーと思いました。
レッスン中に出てきたわからない単語が保存できれば、リマインドで暗記することができるかなと思います。実装は少し大変そうですが……

と思ったのですが、再度レッスンを振り返ってやればいいし、単語帳機能があっても、頻繁に使わないのでは、改めて思ったので、いらないかもです笑

まとめ

よくある失敗例として、提供するサービスを広げてしまうことがあります。
特にビジネス側のステークホルダーがプロダクトについての理解が薄いと、何でもかんでも機能を加えようとして、複雑なサービスが出来上がって、使いにくくなるという失敗をよく見ます。

問題なのは、自分のアイデアはきっと成功すると確信してしまうことです。 特に、自分が考えた機能を価値のあるものだと思ってしまいますが、結局、数人しか使わない機能を追加してしまいます。
実際、Standish Groupが歴史的なChaosレポートで公表した研究によれば、64~75%の機能は、ほとんど、あるいは全く使われていないのです。

それに比べて、DuolingoのUXは一貫しており、ゲーミフィケーションという彼らの教育戦略と完全に一致していると言えるでしょう。Store機能だけは、ちょっと後付け感がありますが……

ロゴから実際のコース画面に至るまで、Duolingoは楽しくて遊び心のあるデザインが満載です。アプリのロゴデザインの時点で、プロダクトは意識されるべきです。プロフィールの作成など、「すべてのビジネス」の部分は最小限に抑えられ、極端に強調されることはありません。

一方で、デザイン要素があまりにもシンプルなため、無味乾燥で想像力に欠けると思う方もいるかもしれません。

しかし、全体として、DuolingoのUXは、直感的で誰でも使えるユーザーフレンドリーな、一貫してよく実行されたデザイン戦略の例だと思います。












この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?