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[ブックトラベル] ぼくの弱虫をなおすには

本を読むのは旅だと思っています。時代や場所という制約を越えて、様々な思想・思考や文化に触れられるもの。少々冗長なタイトルかなと思いつつも、本の感想を「ブックトラベル」と名付けて投稿することにしました。

その1本目に取り上げたのが、K・L・ゴーイング作の『ぼくの弱虫をなおすには』です。

夏休みも間もなく終わり。子供が読書感想文のために選んだ1冊を、私も読んでみました。

あらすじ

さて同書はかわいらしい邦題が付けられていますが、内容はなかなかの社会派でした。ちなみに原典は『The Liberation of Gabriel King』。だいぶ印象が違いますね。

「liberation」は解放、ここでは解放運動に近い意味を想像すべきかもしれません。
舞台は独立200周年を迎えたアメリカ南部。ジミー・カーターとジェラルド・フォードが大統領の座をかけて闘った時代のお話です。

意地悪な上級生と同じ校舎になることを理由に進級を嫌がる、気弱な少年ゲイブリエル。その臆病さを何とかするため、親友である黒人の少女フリータは「こわいものリストを作って一つひとつ克服しよう」と提案したのでした。

2人はそれぞれの「こわいものリスト」を攻略することを通し、いかに印象で「こわい」と判断しているかを知ることになります。そして本当に怖いのは上級生デュークでなく、デュークの父親をはじめとする白人至上主義者たちであることが明るみになるのです。

弱虫なのは誰か?

前半は児童書らしいエピソードが続き、些か退屈でした。しかし物語が進むにつれ「弱虫なのはゲイブリエルだけではないのだ」と思わせる怒涛の展開を迎え、大人でもグッと引き込まれる内容です。

キング牧師やマルコムXが暗殺されてから、まだ10年も経っていないアメリカ南部の街。
トレーラーハウスで暮らす貧しい白人家庭と、教会を営む裕福な黒人家庭。
公民権運動を経て変わりつつあるアメリカで、不安・猜疑心・劣等感・羨望が複雑に絡み合い、大人たちに蔓延るいびつな感情が子供にまで伝播してしまう。
「本当の弱虫は大人だった」と言ってしまうのは短絡的ではありますが、理不尽な差別の土壌を作るのは大人なのかもしれません。

そんなテーマの重さとは裏腹に、読後感は実に爽やか。
終盤でゲイブリエルの父親とフリータの父親がスピーチに臨む場面で思い浮かんだのが、ワシントン大行進でも歌われた『We Shall Overcome』です。
これはゲイブリエルの「解放」が主軸なのでなく、ゲイブリエルがもたらした解放運動がメインテーマなのだと感じました。

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