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沖縄熱帯植物図録

沖縄旅行と言ったら海。引っ越してきたばかりの頃、私自身もそうだった。そりゃそうだ、海が段違いにキレイなのは間違いない。
しかし海と同じくらい興味深いのは、自生している木々や、道端の街路樹、庭で育てられている植物だ。海にも慣れてきた頃、街を歩くと街全体が熱帯植物園のようにも見えてきた。

住んでみてその存在に気づいた、様々な植物。亜熱帯ならではの個性的な顔ぶれを写真に収めたので、沖縄旅行の際は思い出してほしい。


幹・葉・実で見分ける

■ガジュマル

お馴染みのガジュマル、街路樹としても数多く植栽されている。写真の木は戦後すぐに植えられたものだそうだが、残念ながら2022年に倒れてしまった。
道々に植えられたガジュマルには葉がみっしりと生い茂り、ときには日よけに、ときには雨宿りにと、正に傘のような存在。
なお幹の周囲にある細いヒゲ状のものは気根と呼ばれ、長く伸びて地面に届くと太くなり、木全体を支えるようになる。ガジュマルが細い幹をたくさん持っているような形状をしているのはそのためだ。

▲たくさんの気根をもってしても倒れてしまった、残念。


■トックリキワタ

秋〜冬にかけてピンクの花が咲き、花が終わるとアボガドにも似た果実をつける。そして4月下旬頃に果実が裂開し、中からワタが出てくる何とも不思議な木。
無印良品ではカポックのワタで作られた洋服を取り扱っているが、キワタもカポック同様アオイ科である。
カポックといいキワタといい、南国には実の中からワタが出てくる植物が多い印象がある。

▲那覇新都心公園にて。小さな雲が浮かんでいるかのよう。


■キワタノキ

オレンジ色の大きな花は3月頃に咲き、やがてツバキのように花ごとポトッと落ちる。その後はトックリキワタと同様にワタができるが、時期は少し遅く5月頃。どうやらワタはクッションなどの詰め物としても活用されるのだとか。
このワタは花と同様自然に落ちてくるのだが、広い範囲にフワフワ舞っていくのを見たことがない。大抵木の下に落ちている。遠くに飛ばすには重いのだろうか?
これを書いている今、ちょうどあちこちで花が咲いている。突然頭上に花が落ちてくると驚くのでやめてほしい。

▲とても大きな花が熱帯らしくて良い
▲花もワタも放っておくと落ちてしまうので、木の下はなかなか無惨なことになっている。ちょっともったいない。


■モモタマナ

大人の手よりずっと大きな葉を持つ木。沖縄では数少ない落葉樹である。ガジュマルと同様、この木もいい日陰を作ってくれる。公園などにもよく植えられている樹木だ。
アクアリウムでは、この葉が水質改善の役割を担うために重宝されるそう。メルカリなどでもそこそこの価格で販売されているから驚いた。
また東南アジアでは、この実が食用なのだと聞く。
トロピカルアーモンドという英語名のとおり、アーモンドのような香りがするそうだ。

▲冬になると落葉するが、葉が大きいので処理が大変そうである。買わなくても、山ほど落ちているのだが……。


■タコノキ

離島のホテルで朝食を食べているとき、隣席のカップルが外の風景を眺めながら「パイナップルかな」と話していたのを忘れられない。残念ながら、それはタコノキだ。
タコノキは主に海岸付近で見られ、水はけの良い土地を好むのか砂地に生えている。島によって植栽に傾向があると感じているのだが、久米島ではタコノキをたくさん見かけた記憶がある。
なおタコノキと似たものにアダンがあるが、実の形を比べるとかなり違うのが分かる(写真4枚目)。

▲根の部分を写していないが、正にタコのように支柱根が伸びている。実がなっていなくてもひと目で分かる。
▲熟してくると実がポロポロ落ちる。生栗のように硬い。
▲こちらはアダン。タコノキより低い場所に実がなる。


■フクギ

防風林として好まれる木にはいくつかあるようだが、そのうちのひとつがこのフクギだ。肉厚で丸みのある小判のような葉を持ったフクギは、防風だけでなく防潮、そして防火の役割も果たすとか。なんたるマルチプレイヤー。成長が遅い代わりにとても丈夫なのだそうだ。
あちこちで見られるフクギだが、写真1枚目は備瀬のフクギ並木。水牛車でのんびり行くのがおすすめである。
なおフクギは黄色の染料として、久米島紬にも活用されている。

▲本部町にある、備瀬のフクギ並木。水牛車は、20分ほどかけて周辺をゆっくり回っていく。もちろん徒歩でも可能だ。
▲久米島のユイマール館にて


■ヤシの木いろいろ

ヤシとひとくちに言ってもいろいろであるが、一般的にイメージが強いのはいわゆるココヤシだろう。しかし沖縄では飛び抜けて多いわけでもない。もっとも多いのは、赤く小さな実をつけるマニラヤシではないだろうか。見た目は美味しそうだが、果肉はほとんどないそうだ。
個人的にいちばん好きなのはトックリヤシ。根本が太くずんぐりとした姿が何とも愛らしい。なおこのトックリヤシと似ているのが、トックリヤシモドキだ。葉や幹などは似ているが、根本が太くならない。街路樹にもよく用いられている。
しかしヤシの木は本当に風に強い。台風の際にはユラユラとよく揺れているが、あのしなかやさが強さの理由なのだろうか。

▲ヤシは、聞くところによると2000種以上あるそうだ。
▲トックリヤシ。ずんぐりむっくりな幹がたまらない。


■ホウオウボクとギンネム

この2つ、葉の形状がとても似ている。かつマメ科でサヤが成ることからも、葉を接写したものだと見分けがつきにくい。誰が見ても違うのは花で、ホウオウボクはその名の通り華やかな赤い花を、ギンネムは白く球状の花を咲かせる。
樹高で比較すると、高く伸びている1枚目がホウオウボク、至近距離から撮影していて低木と思われる2枚目がギンネムだと思われる。
なおギンネムは外来種で、世界の侵略的外来種ワースト100にも選定されている。非常に繁殖力が強く、沖縄では防除対象になっているようだ。沖縄はこの気候ゆえに、植物にとっては天国。放っておいてもどんどん大きくなるので、防除はなかなか難しいだろう。

▲ホウオウボクは、世界三大花木のひとつだそう。
▲ギンネム。増えすぎて、沖縄では問題視されているとか。


花で見分ける

■ハイビスカスいろいろ

沖縄と聞いて、誰もが真っ先に思い浮かべるのがこの花だろう。ハイビスカスは、色や大きさなど実にたくさんの種類が存在する。八重咲きもあるが、これも華やかできれいだ。
1枚だけ変わった形のハイビスカスも載せたが、これはフウリンブッソウゲという種類だそう。なお「ブッソウゲ」とはハイビスカスの和名である。
ちなみにハイビスカスは1日花で、朝顔のように昼間に咲き、日暮れとともに畳まれた傘のようにしぼんで落ちる。
ただしこれは夏場の話で、秋冬は数日かけて咲く。つまり秋冬には夜に咲くハイビスカスが見られるということだ。

▲古くから墓地などに植えられたこともあり、後世花(グソーバナ)とも呼ばれる。今は生け垣などでよく見かける。
▲フウリンブッソウゲ。ハイビスカスの1つではあるが、夏場でも数日間咲くのだそうだ。
▲花を終えたハイビスカス。日が傾いてくると次第にしぼんでいき、最後はこのような形状でポトリと落ちる。


■月桃

私が那覇に引っ越してきてから、最初に買ったのが月桃の苗である。
非常に強い植物で、地植えされたものなら背丈より高くなる。少しスパイシーで甘みのある香りは、葉が放つもの。枯れた葉からも強く香ってくる。
甘い香りは沖縄在来種であるシマゲットウだけで、小笠原諸島原産のタイリンゲットウはより青みがかった香りだ。
ちなみに花のすぐそばに写っている葉は月桃のものではない。月桃の葉は2枚目の写真ように、笹の葉のような細長い形状をしている。

▲花もいい香りがしそうだが、芳香は葉からもたらされる。
▲ムーチーは、月桃の葉で包んで蒸した沖縄の餅。笹団子と同様、この葉の持つ抗菌・防腐作用のために用いられる。


■ブーゲンビリア

沖縄を象徴する花のひとつであるブーゲンビリアだが、この鮮やかなピンクは花びらではない。「苞(ほう)」と呼ばれる葉だ。では花はというと、その葉で包まれた中に小さく可憐に咲いている。
ハイビスカスとともに、民家の庭先などによく見かける植物だ。濃いピンクと青空のコントラストが実に素晴らしく、これぞ南国だと感じさせる花だろう。
沖縄であればどこでも見られるが、特に竹富島は生け垣に多用されている印象がある。満開のブーゲンビリアの中を散策するのは、また格別だ。

▲ずっとこのピンクの部分が花弁だと思っていた
▲ピンク色の苞(ほう)をよく見ると、確かに葉脈のようなものが走っていて、花弁でないことが分かる。


■プルメリア

これも南国を想起させる花の代表格だろう。ハワイでレイに使われるのもこの花だ。香水の世界よく聞かれるフランジパニは、このプルメリアの別名である。花の色によって香りが異なるそう。
くっきりとした葉脈を持つのが特徴でもあるが、この葉の形がまたいろいろありそうだ。3枚目はプルメリアプディカという種類のもので、宮古島で撮影したもの。葉先がまるでコブラのように広がっている。
それなら……とほかの写真も種を限定しようと調べてみたが、あまりに多すぎて特定できなかった。


■サガリバナ

沖縄での暮らしで、もっとも好きになった花がこれだ。南国の花らしくオリエンタルで濃厚な香りで、例えばイランイランやジャスミンのような、甘さと青さを持つ特徴的な芳香である。
この写真では見えにくいが、花びらは4枚。つまりたくさん生えているのはすべて雄しべだ。
可憐な見た目や香りに反して、実に男性的な花とも言える。
花が終わると2枚目の写真のように実をつけるのだが、これを植えれば芽が出てくる。一度挑戦したが、残念なことに発芽には至らなかった。

▲夜に咲くというが、意外と昼間でも開いた花を見られる。
▲熟してくると表面が乾燥して硬くなり、地面に落ちる。


■ゴクラクチョウカ科の植物たち

これまたとても好きな植物なのだが、ザッとした理解しかなかったために混乱した。
オレンジ色の華やかな花を咲かせるのは、ストレリチア・レギネ。高さは1mほどと比較的小さめで、ゆえに民家の庭先で見かけることもある。
一方、10mと大きくなるのがストレリチア・ニコライ。茎が伸びてきたときの姿がタビビトノキ(オウギバショウ)にも似ていることで知られる。よく観葉植物として流通している「オーガスタ」は、このストレリチア・ニコライだそうだ。
ただし本物のオーガスタはストレリチア・アルバを指すそうで、こちらはほぼ入手不可能とのこと。そしてストレリチア・アルバは、別名オウギバショウモドキ……ニコライはそう呼ばれないのか?アルバとニコライの違いは?謎が残ってしまった。

▲ストレリチア・レギネ。一般に「ゴクラクチョウカ」として知られるものである。
▲ストレリチア・ニコライ。ルリゴクラクチョウカとも呼ばれるそうで、一般には「オーガスタ」の名で流通している。
▲互い違いに左右へ広がる葉は、確かにタビビトノキのよう


■カンヒザクラ

沖縄で桜といえばこれである。2月頃に満開を迎える品種で、ソメイヨシノと比べると濃いピンクの花が特徴だ。花弁は釣り鐘状に下向きに開き、少し控えめな印象だ。ただ木の下から眺める身としては鑑賞しやすくてありがたい。
本土では早咲きの種として有名なカワヅザクラがあるが、実ははカンヒザクラとオオシマザクラの自然交配により生まれたものだという。

▲これが満開の状態。1つの花芽から3〜4つの花が咲く。


■オキナワシャリンバイ

桜もあれば、梅もある。ただし花をつけるのは初夏で、ひとつの枝先にいくつもの花をつけるのが特徴だ。この様子が車輪のように見えるということなのだろう。
いわゆる梅と異なり低木で、たくさんの葉の中から顔を覗かせるように花が咲く。そのため梅を想像していると少し違う印象を受けるかもしれない。
樹皮にはタンニンが含まれていて、大島紬や久米島紬などの染料に使われるそう。

▲写真だと分かりづらいが、5〜6枚の葉の中心に花が咲く。
▲久米島のユイマール館にて


■コガネノウゼン

沖縄では「イッペー」「イペー」とも呼ばれるコガネノウゼン。3月頃に花が咲き、その鮮やかな黄色は遠くからでもひと目で分かる。英名のひとつに「Sunshine Tree」があるそうだが、その名の通り存在感のある花だ。
なお本土で卒入学を思わせる花は桜(ソメイヨシノ)だが、沖縄だとこのコガネノウゼンがイメージにあるそうだ。

▲表面にシワのような凹凸があるが、これは傷んでいるわけではなく、元からこういう花弁である。
▲別の英名がGokden Trumpet Tree、なるほどラッパのよう


■モモイロノウゼン

桃色というのは、なぜか春を想起させてくれる。カンヒザクラとともに沖縄の春を彩ってくれる桃色といえばこれだ。コガネノウゼンをイッペーと呼ぶのに対し、モモイロノウゼンは「ピンクイッペー」などとも言われる。分かりやすい。
コガネノウゼンとともにメキシコ〜南米を原産とする花だそうで、沖縄と気候の近い台湾はもちろんのこと、タイやベトナムでも見られるそうだ。
花が終わると、付近にピンク色の絨毯をつくる。

▲沖縄スバル浦添店の前。ここまで立派に咲くものは少いそうだ。ただし咲くのは2月、旅行シーズンでないのが残念。


■イジュ

ツバキにも似ているが、ツバキよりは少し小さめの花。小笠原にはヒメツバキというイジュと似た花があるそうだが、分類上別とするか同一とするかは議論が分かれるらしい。かすかにだが甘い香りがする。
この花の精油も、少ないながら流通している。ザッと調べたところ、作用から察するにゲラニオールなどが含まれていると見た。ローズに近い役割を果たすかもしれない。
花が咲くのは梅雨入りの時期で、逆に言えばイジュの開花が梅雨の始まりを知らせてくれるということだ。

▲樹皮に含まれるサポニンには魚にとって毒なのだとか。かつては魚を採るために用いられたそう。


食べて美味しい

■バナナ

民家に植えられる果物No.1といえば、やはりバナナだろうか。特徴あるこの葉が軒先から見えたら、高確率でバナナだ。
これらのバナナは主に「島バナナ」と呼ばれるが、学術的には小笠原種に当たるのだそう。スーパーで一般的に見かけるフィリピン産のバナナより小さく、モンキーバナナよりは大きい。少し酸味のあるのが特徴だそうだ(筆者はバナナが苦手なので食べたことがない)。

▲いつ見ても不気味な見た目である


■パパイヤ

バナナ同様、パパイヤも民家でよく見られる。黄色く熟したものをフルーツとして食べるより、青いものを野菜として調理する方がメジャーだろうか。サラダにしたり、または炒め物(パパヤーイリチー)などにされることが多い。
この写真は既に結実しているために見られないが、白い花が咲く。

▲熟した黄色いパパイヤの味は、マンゴーなどの濃厚な風味を期待すると裏切られる。グァバと同様、非常に淡い味だ。


■パイナップル

タコノキをパイナップルだと勘違いしたカップルの話をしたが、パイナップルの実がどのように生えているかを見たことのない人は多いかもしれない。そこで、あえて味気のない写真を貼ってみた。
お分かりいただけるだろうか。
葉の部分が成長し、中心に花が咲き、そのあと実がなるのだ。つまり永久機関である。受粉していなくても結実するそうなので、食べたあとのパイナップルを栽培してみてはいかがだろうか。
なお花がつくまでに3年ほどはかかるとされている。

▲手軽に栽培できるように思えるが、この長く広がる葉がクセモノである。ベランダの幅をほぼ占領する勢いだ。
▲名護のパイナップルパークで見た畑。収穫時にはこの葉をかき分けて行くのだろうか?痛そう……。


おわりに

まだまだたくさんあるのだが、ひとまずこの辺にしておこう。撮りそこねたものも結構あったと思う。デイゴが咲いている時期に出くわさなかったりなど……残念だ。

なお沖縄での植物観察には、下記の書籍が大いに役立った。様々な植物を葉や花の形状で調べることができるのでお薦めである。


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