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超個人的セレクト・沖縄を知る5冊

異動になるたび、その土地を知ることのできる書籍を最低でも1冊は手に取ります。
さて沖縄についてどんな本を読もうかと考えたとき、これがなかなか難しいことに気づきました。過度な美化や神聖化、はたまた多様な感情やイデオロギーが複雑に絡み、その真ん中に属するものは想像以上に少ないのです。

ここに挙げる書籍もかなり迷いましたが、ひとまず自分が面白いなと感じたものをジャンルにこだわらずご紹介することにします。タイトルの通り超個人的セレクトですので、悪しからずご了承ください。

怪談作家、マジムン・パラダイスを行く

1冊目は、琉球怪談で知られる小原猛氏によるエッセイ。Twitterでは何度か取り上げたのですが、個人的にはイチオシの沖縄本です。下手なガイドブックよりこれを読め!と言いたいくらい。
前半は怪談収集の裏側で起こっていた出来事を通し、沖縄独特の文化や宗教観に触れていく構成。後半はマジムン(蠱物・まじもの)に関して、市町村史など地域に残る文献を読み解きながら考察を綴ったものです。
京都生まれの筆者が、沖縄に魅せられながらも決して肩入れしすぎることなく綴られた同書。私はこの1冊で土着の文化に関する基礎知識をかなり叩き込めたのではと感じています。

沖縄のまじない

沖縄の風習について掘り下げたいと手に取ったのが山里純一氏による『沖縄のまじない』です。
沖縄を訪れたことのある人なら見たことがあるだろう石敢當やフーフダ、来たことがない人にも広く知られるシーサー。そのほか生活に根付くまじないの数々を、史実も元にしながら丹念なフィールドワークを重ねてまとめられています。
アニミズムや祖霊信仰がベースとなる琉球神道、道教・儒教などの影響が色濃く、地域的・歴史的な背景も深掘りしたくなる1冊でした。
しかし沖縄には、邪悪なものの侵入を防ぐまじないが実に多いですね。これは地理的な厳しさがもたらしたものなのでしょうか。現代に至るまで受け継がれる理由も含めて調べてみたくなります。

日本人の魂の原郷 沖縄久高島

日本は原初的な宗教観がベースにある国ですが、特に沖縄はその傾向が強いと言えるでしょう。中でも秘祭「イザイホー」で知られる久高島は琉球神話の聖地であり、シャーマニズムが非常に強く根付く地域です。
本書には久高島における宗教観や死生観、年中行事などが細かにまとめられており、沖縄文化の源流を見出すことができます。
ただタイトルが示すような日本の始原像を想起させる内容は見当たらず、これは柳田國男や折口信夫といった民俗学者たちの影響が及んでいる事実を確認するにとどまりました。考古学上の検証が十分でない彼らの仮説が未だ根強いのは、些か不思議ではあります。
なお終盤には、事実上最後となった1978年のイザイホーの様子を記した貴重な記録も。YouTubeでも動画が視聴できますので、ぜひ併せてご覧になってください。

沖縄文化論─忘れられた日本

これこそある種の神聖化なのかもしれないと思いつつ、どうしても読みたくなったのが『沖縄文化論─忘れられた日本』です。
当初は「柳田のアレかな?」と思いつつ読み始めたのですが、早々にいい意味で裏切られた私。柳宗悦が捉えた「用の美」にも似た、しかしもっと深く人間の営みの根源にあるものの美しさを、当時の沖縄に見出した記録なのでした。琉球王府の築き上げた荘厳な形式美には興味を示さず、庶民に伝わる歌・踊り・信仰など形ないものの中に潜む、その瞬間のエネルギーに強く惹かれたようです。
個人的に興味を抱いたのは、八重山に伝わる「ユンタ」。コール&レスポンスで進行するユンタは、かつてアメリカの黒人たちの間で歌われた労働歌のスタイルにも通ずるものがあり、場所が変わっても歌が一定の役割を果たしている不思議さを感じました。
アメリカ統治下の沖縄を巡った紀行文としても、当時の空気感を伝えるものとして貴重ですね。無論、単なる紀行文としてのみ読むのはもったいないですけれども。

本音で語る沖縄史

5冊目は、大阪で生まれた沖縄県系2世─つまり親世代が本土へ移住した著者による沖縄通史です。
先史時代から現代に至るまで、時には周辺国の史実とも照らし合わせながら、いわば世界史視点で沖縄を見つめる構成となっています。
正史というものの性質を考慮に入れて忖度なしに語る沖縄通史は、あまり多くありません。とりわけ近世以降の沖縄は周辺諸国とのパワーバランスの難しさゆえ、史実が政治的な思惑で濃厚に色付けされているケースが多いからなのです。加えて現在では近代以降の歴史に焦点が当たることが多く、その影で見えづらくなっているものも多くあります。
著者は歴史の専門家ではないものの、様々な文献を引用しつつまとめられており、沖縄に関する書籍をどう読み解くかの道標となってくれました。
個人的には、それぞれ別の勢力が統治していた離島の歴史が興味深かったですね。与那国島の首長であった女傑サンアイ・イソバの逸話は、なかなか痛快でしたよ。

次に「沖縄を知る」書籍をご紹介する際には、文学を軸にしてまとめようかと考えています(予定は未定)。

最後までご覧いただき、ありがとうございました!

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