見出し画像

最近の女の子

小学生から大学生のころにかけて、ショパンと名付けたゴールデンレトリバーの男の子と暮らしていました。
夫も、小さい頃からずっと犬がいる家庭だったといいます。
そんなわたしたちが結婚したので、犬がいない家庭になるわけがなく、今はパグの女の子たちと暮らしています。

先住犬であるもねを迎えた日、わたしはある違和感を覚えました。
ちいさなちいさな、1kgあるかないかのもねのあしの間。
ハート型を逆さまにひっくりかえしたような、にんにくの一片のような形のかたまりがひっついています。

「ねぇ、この子ほんとに女の子?  ちんちんついてる」
「は?」夫はいぶかしげな顔をして、もねのおまたをのぞきました。
「女の子でしょ。ショパンのちんちんとはぜんぜん違うよ」

わたしはそれまで女の子犬のおまたを見たことがなかったので、そこにひっついているそのにんにくはちんちんではないかという疑念を拭えません。
小型犬と大型犬ではちんちんの形が違っていてもおかしくない。
そもそも女の子のおまたににんにくがついているはずがない。
そんな思考から今も抜け出せずにいます。

「Kさんがワンちゃん迎えたなら見せてって」

もねを迎えて数ヶ月後、夫からそんなことを言われました。
Kさんというのは、わたしが第二の義母と密かに慕う女性です。
というか、義両親は離婚していて義母は飛行機の距離に住んでいるので、わたしはほとんど会ったことがありません。
なので、Kさんは実質義母です。

数年前、義父が亡くなりました。
入院したときには既に手の施しようがなく、4ヶ月で静かに逝きました。
その折、あたふたしているわたしたち夫婦を支えてくれたのがKさんでした。
平日昼間働いているわたしたちにかわって、義父のお見舞いに行ってくれたり、いよいよ亡くなるというときに葬儀やさんとのやりとりの仕方を教えてくれたり、葬儀のときも何かと手助けしてくれたりと、感謝してもしたりません。
義父の高校の同級生で、義母の親友だというKさん。
お子さんが独立したあとは、ご主人と老ラブラドールレトリバーのユキちゃん(仮名)と自家製キャンピングカーで旅をする、というリアル人生の楽園ライフを送っています。

義父の葬儀後も、Kさんは何かとわたしたちのことを気にかけてくれ、夫とまめに連絡をとっていました。
その過程でもねのことを聞き、写真を見て会いたくなったのだといいます。
ごはんをごちそうして下さるとのことで、わたしたちはもねを連れてKさんのお宅におじゃましました。

パグは人懐っこい犬種です。
もねもすぐにKさんやご主人になつき、温厚なユキちゃんは飼い主をとられても先輩犬らしく穏やかに見守ってくれています。

「あれっ、女の子って言ってなかった?」
Kさんがもねを抱っこしながら言います。
「女の子だよ」
ユキちゃんとひっぱりっこ遊びをしながら夫が応えます。

「あらそう!  

最近の女の子はちんちんがあるのね!!」



なぜ、そんなに力強く「ちんちん」の単語を発したのか。
なぜ、最近の女の子にちんちんがある、というとち狂った事実に納得しているのか。
確かにちんちんのある女の子もいるけど、それは女の子ではなくおとこの娘ではないのか。
そんな空気が、老夫婦の静かな住まいに満ちていきました。

「……ないよ」
Kさんのご主人のちいさな声が、虚しく響きます。

そんな中、わたしは「ほらやっぱり見る人が見たらおまたにんにくはちんちんに見えるじゃん」と心の中でKさんにエールを送っていました。
異常者扱いされたら困るので、口に出しては言いませんでした。

ユキちゃんも女の子です。
ユキちゃんにはおまたにんにくがついていないからこそ、もねのおまたにんにくを見て最近の女の子にはちんちんがあると思ったのではないでしょうか。
あのとき、ユキちゃんのおまたをのぞいておけば。
おまたにんにくの有無を確認しておけば。
今でも悔やまれます。

その後、我が家では黒パグの女の子・ぷっかを迎えました。
おまたにはやはりにんにく。
このおまたにんにくはパグにしか付属していないのかもしれません。
ドッグランや近所で出会うワンちゃんのおまたを片っ端からのぞき込むという痴漢行為をする勇気もなく、わたしの中のおまたにんにくに対する謎や疑念は深まるばかりです。

さて問題です。
わたしはこの記事の中で何回ちんちんと書いたでしょう。

答えは……



知りません。
数えて、そしてわたしにこっそり教えてください。


参加しています。53日め。

この記事が参加している募集

我が家のペット自慢

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?