レンズ内手ぶれ補正の話 (16)
手ぶれ補正の機能はカメラボディとレンズの中に入っているものがあるが、ここでは仕様表に記載されているレンズ内の手ぶれ補正についてだけを解説するようにしたい。
現在はレンズ内手ぶれ補正とボディ内手ぶれ補正の両方の機能を、同時シンクロさせてぶれ補正の効果を向上させているものも増えてきた。機能の進化が著しいし、レンズにとって将来もますます重要な機能となっていくだろう。
同時シンクロ式(ハイブリッド型)手ぶれ補正や手ぶれ補正機能そのものについては、項をあらためて取り上げるとして、とりあえずここではレンズ内手ぶれ補正の基本的な話だけにマトを絞って話をしていきたい(の、つもり)。
レンズ内手ぶれ補正
交換レンズに搭載されている手ぶれ補正は、ごく簡単に言えば、構成レンズ内の一部のレンズ群を上下左右にシフト動作させてぶれを補正する方式。これを光学式(またはレンズシフト式)手ぶれ補正とよんでいる。
手ぶれ補正内蔵レンズであっても仕様表に記載のないこともある
仕様表に「手ぶれ補正」の項目を設けているメーカーはまだ少ない。その効果の程度(補正段数)を仕様表に丁寧に記載しているメーカーはさらに少ない。
手ぶれ補正の機能が備わっているレンズで、仕様表に手ぶれ補正の効果をはっきりと記載しているメーカーもある。「補正段数(※文末に注記)」が補正効果の具体的な数値である。
手ぶれ補正の機能を活用して撮影したときに、「どれくらい」ぶれを目立たなく写せるか、その目安として「補正段数(シャッタースピード換算)」を記載している。
しかし補正段数は絶対的なものではなく、個人差によるところが大きいのが難点。参考値と捉えておいたほうがいい場合もある。だから敢えて仕様表に補正段数を記載しないメーカーもある。
公表した補正段数で撮影して、「補正段数内で撮影したのにぶれてしまったぞ」とユーザーからクレームがきたとき、その対応に困る恐れもあり、それを避けるために敢えて表記しないことなどが理由ではないだろうか。
手ぶれ補正の段数表記はCIPAのガイドラインで決められている
各メーカーが補正段数の数値を記載するときは、CIPAで決められたガイドラインに沿うように決められている。
現在、光学式手ぶれ補正の機能を内蔵しているレンズの仕様表の表記には、
①手ぶれ補正の機能を備えていることと補正段数も記載しているもの
②手ぶれ補正の機能を備えていることだけを記載しているもの
③手ぶれ補正の機能を備えていても仕様表に記載のないもの
以上の3つのパターンが見られる。このへんの表記統一をCIPAが中心になって決めてくれればいいのだけど、現在はメーカーごとでまちまちの表記になっている。
②や③の仕様表に充分な記載がないメーカーのレンズには、ホームページなどの解説記事の中で補正段数などを記載しているメーカーや、補正段数などは「非公開」としていっさいの情報を出さないメーカーもある。
仕様表に手ぶれ補正の効果の目安である「補正段数(シャッタースピード換算)」を詳しく記載しているメーカーがある。ニコンやOMシステムなどがそうだ。キヤノンやパナソニックなどは仕様表ではなくホームページの解説記事などに詳細を記載している。
以下は、パターン①のニコンとOMシステムのレンズ仕様表の手ぶれ補正項目。
パナソニックは手ぶれ補正の機能が備わっていることの記載は仕様表にあるのだが補正段数などの詳しい記載をしていない。補正段数などはレンズ解説記事のほうに詳しく記載している。
以下は、パターン②のパナソニックのレンズ仕様表の手ぶれ補正項目とレンズ解説ページ。
キヤノンなどは仕様表には一切の記載はなく、レンズ解説記事の中で少し説明をしていることもあるし、まったく説明を省略している場合もある。
以下は、パターン③でキヤノンのレンズ解説ページには手ぶれ補正の詳しい説明はあるが、レンズ仕様表には手ぶれ補正の項目がない。
2024年3月現在で手ぶれ補正の機能を備えたレンズの補正段数などは、仕様表に記載のないメーカーが多い。しかしホームページのレンズ解説やカタログなどのどこかを探せば記載しているはずだ。
もし記載がなければ、メーカーのサービス窓口などに問い合わせれば教えてくれるところが多い。問い合わせの時に、使用したカメラボディ、ズームレンズならテストした焦点距離も、聞けば教えてくれるはず。
ただ、ソニーの手ぶれ補正レンズについては、補正段数はどこにも一切記載されていない。サービス窓口に問い合わせても「非公開となっている」としか回答してくれない。
このように手ぶれ補正の補正段数をいっさい公表していないのは、たぶんソニー1社だけだと思われる(非公開の理由は不明)。
【追記】
手ぶれ補正の補正段数などの情報を非公開にしているのは、ソニー以外にはタムロンのミラーレスカメラ対応のレンズがそうだった。タムロンは一眼レフカメラ対応レンズについては詳しく補正段数などを公開していたのだが、ミラーレスカメラ対応レンズになって突然、非公開になった。ソニーと同じく非公開の理由は不明。
補正段数はCIPAが決めたテスト方法で計測する
手ぶれ補正の補正段数を記載する場合は、2013年夏以降に発売されたレンズについてはCIPAのガイドラインに沿うことになっている。
もし、各メーカーが仕様表やカタログ、ホームページのレンズ紹介記事に補正段数を表記する場合には、CIPAで決められた表記条件を守らねばならない。
2013年夏以前に発売されたレンズについては、従来通りメーカー独自の検査結果を記載しても構わないことになっている(現在ではそうしたレンズのほとんどは生産完了している)。
ホームページなどに手ぶれ補正の補正段数を公表するかしないか、記載するかしないかは、各メーカーの自主判断にゆだねられている。すなわち表記してもしなくても、どちらでもいいということ。
ということは逆に、CIPAの規格でおこなった手ぶれ補正検査の結果が、かんばしくなかった場合はムリをして記載しなくてもいい、ということでもある。
補正段数の表記条件は、CIPAが定めた加振器を使ってテストをして、専用のソフトで算出した結果をガイドラインに沿った様式で記載することになっている。
測定したレンズの「焦点距離」(ズームレンズではテストした焦点距離、ボディ内手ぶれ補正の場合はテストしたレンズ名と焦点距離)と「CIPA規格準拠」であることを併記しなければならない。
以下はCIPAが決めた手ぶれ補正段数をテストするときのキマリごと。参考までに。
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CIPA準拠手ぶれ補正表記の条件
・CIPAで決められた加振装置と専用チャートを使って撮影
・テスト時のレンズのピント位置は、焦点距離の20倍
(100mmレンズの場合は、100mmx20=2000mm=2メートル)
・シフトぶれ、回転ぶれは対象外
・ハイブリッド手ぶれ補正も対象外
・テスト対象は角度ぶれ(ヨー、ピッチ)のみ
・補正段数を公開するときは、ボディ内の場合は使用レンズの焦点距離、レンズ内の場合はズームレンズのときは焦点距離を明記する
・「CIPA準拠」であることを明記する
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(※注)
「補正段数5段」と記載のあるレンズなら、シャッタースピード換算で約5段の補正効果があるということ。
たとえば、手ぶれ補正機能なしのレンズを使って「1/125秒」までなら、ぶらさずに写せる人なら、同じ焦点距離の手ぶれ補正機能を内蔵したレンズで写すと、シャッタースピード換算で約5段、すなわち1/125秒 ⇒ 1/60秒 ⇒ 1/30秒 ⇒ 1/15秒 ⇒ 1/8秒 ⇒1/4秒となり「1/4秒」の低速シャッタースピードでもぶらさずに写せることになる(ただし個人差や撮影状況などに左右されるが)。
よく誤解されることだが、手ぶれの限界シャッタースピードは「1/レンズ焦点距離」ではないということ。その「1/焦点距離」から手ぶれ補正の補正シャッタースピード段数を計算する人がいるがそうではない。手ぶれ限界シャッタースピードは、あくまで個人差があって撮影する人それぞれで異なる。ぶれ補正機能のない300mmレンズを使って、1/60秒でもぶらさずに写せる人もいれば、1/250秒でも1/500秒でもぶらしてしまう人もいる。
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繰り返しになるが、もともと手ぶれ補正効果は個人差や撮影条件による影響を受けることが多く、CIPAが決めた測定方式に基づいているからと言って、誰もがその補正効果の段数分なら、確実にぶれ補正をして撮影ができるかといえば、それは大いに疑問だ。補正段数はだいたいの「目安」としてとらえておくのがいいだろう。
なお冒頭で述べたように、手ぶれ補正についての解説はあたらめて取り上げたい。いずれにしても手ぶれ補正の機能はAF機能と並んで進化が著しい機能で、これからも次々と新しい機能を備えた手ぶれ補正が出てくるだろうと思われ、しっかりと注目しておきたい。
「仕様表の読み方」シリーズは、いったんここで終了し、次回からはレンズの結像性能を判断するための「MTF図の読み方」を数回に分けて解説していきたい。
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