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MTF図の意味を知る

 前回はMTF図を構成している大切な数本の曲線について話し始めたが、途中で終えてしまった。今回はその続きから始めたい。

MTF図の空間周波数(本数/mm)とコントラスト特性

 多くのメーカーでは、フルサイズ判用レンズでは空間周波数(本数/mm)の少ないほうの2本の曲線は「10本/mm」とし、空間周波数の多いほうの2本は「30本/mm」としてグラフ化している。

 なぜ、空間数端数を多くのメーカーが「10本/mm」や「30本/mm」の2種類としたのか、そのへんの理由は(調べたのだけど)不明。はっきりしていることは、そられの本数/mmに決めたのはずっと昔のフィルム時代のころのこと。それを高画素デジタルカメラ用の交換レンズにそっくりそのまま〝流用〟しているわけで、はたしてそれで今のデジタルカメラに適応したレンズの結像性能が正しく判断できるのかどうか、いささか謎ではある。

 といった疑問はとりあえず横に置くとして話をもとに戻す。
 APS-C判用やマイクロフォーサーズ用レンズの場合は、各メーカーで「本数/mm」はまちまちである。
 たとえば富士フイルムのAPS-C判用レンズでは「15本/mm」と「45本/mm」だが、キヤノンやニコン、ペンタックスなどはAPS-C判用もフルサイズ判用のレンズも同じく「10本/mm」と「30本/mm」だ。マイクロフォーサーズ判となると同じ画面サイズなのにOMシステムは「20本/mm」と「60本/mm」、パナソニックは「20本/mm」と「40本/mm」といったように違う。

(図・1) 

空間周波数(本数/mm)はメーカーや画面サイズなどによって異なり一定ではない


 さて次に、肝心の複数本の曲線の基本的な読み方について。

 空間周波数の少ないほうの曲線が縦軸上部の「1=100%」に近いほどコントラストが高くヌケのよいレンズとされている。おおよそ「0.8=80%」以上あれば優秀なレンズと考えて良いし、「0.7=70%」を下回らなければおおむね良しとしていいだろう。一般的な被写体を撮影するには、こちらのラインを見て判断するのがおすすめ。

 空間周波数の多いほうの曲線は、「1」に近づくほど優れた解像描写力を備えたシャープなレンズであるとされている。こちらは「0.6=60%」以上のラインを保っていれば満足できる解像描写力を備えた良好なレンズであると評価していい。しかし仮に0.5=50%程度しかなくても、絞り込むことでいっきに70~80%ラインになるレンズも多くあることも知っておいてほしい(空間周波数の少ないラインもそうだが)。公表されているMTF図のほとんどは開放F値のものだけで、絞り込んだときの描写の変化はわからないのが残念だが。

 厳しく解像描写性能の様子を知りたいのであれば空間周波数の多い曲線をチェックしておくのもいいだろう。しかし優れた描写性能を備えたレンズは解像性能だけを見て判断するのではなく、適度なコントラストがあるかどうかも重要だということだ。というのも、解像力は高いがコントラストのないフラットな描写のレンズもあるからだ。そうしたレンズは、ただネムい凡庸な写りしかしない。

2本ペアのラインは放射状方向と同心円状方向のぼけ具合を表している

 前回に説明をしなかったが、MTF図の2本ペアの曲線にはそれぞれ「S」と「M」、「R」や「T」のイニシャルがついていることに気づかれた人も多いだろう。
 Sはサジタル(Sagittal)、Mはメリジオナル(Meridional)の頭文字である。サジタル(S)のことをラジアル(Radial、R)、メリジオナル(M)のことをタンジェンシャル(Tangential、T)というメーカーもある(ソニーなどがそうだ)。

 以下の(図・2)と(図・3)のように、サジタル(S)/ラジアル(R)は実線で、メリジオナル(M)/タンジェンシャル(T)は破線でラインが描かれるのが一般的である。

(図・2)

サジタル・S(Sagittal)と、メリジオナル・M(Meridional)の表記
(図・3)

ラジアル・R(Radial)と、タンジェンシャル・T(Tangential)の表記

 サジタル(S)とメリジオナル(M)の曲線は、像がおもに「どちらの方向」に流れてぼけているかをあらわしている。

 MTF図の注記に、サジタルを「放射方向」、メリジオナルを「同心円方向」、と記載されているがこの言葉に惑わされてはいけない。空間周波数(黒と白の線)の方向を表しているのだ。
 実際の撮影画像面で像の流れは、サジタル曲線は「同心円方向に像が流れ」、メリジオナル曲線は「放射方向の像の流れ」をあらわしている。サジタル、メリジオナルの曲線を読み解くときに注意しなければいけない点である。

 サジタル曲線のことを「うずまきエフェクト」、メリジオナル曲線を「ズームエフェクト」と表現している人もいる。

(図・4)

サジタル曲線は、同心円方向に像が流れてコントラストが低下している現象
メリジオナル曲線は、放射方向に像が流れてコントラスト低下を招いている現象

 サジタル曲線は画像の像面上で中心から渦を巻くような同心円ラインで像が流れる様子をあらわしている。これをサジタルコマフレアともいい、非点収差による像の流れがこれにあたる。
 メリジオナル曲線は像面中心から周辺部に直進ズームしたように流れる。コマ収差での像の流れがその一種。MTF図のSとMの曲線を読むときに、こうした像の流れる方向を頭に入れておくとわかりやすい。

 像が流れる最大の原因は収差(※)である。
 空間周波数ごとにサジタルとメリジオナルの曲線の様子をよく見比べることで、どのような収差が目立つのか、絞り込めば良くなる収差なのか、絞り込んでも変化のない収差なのか、収差が描写性能にどれくらい影響をおよぼしているのか、そんなことがわかってくる。
  (※)収差については後ほど新しく章を作ってそこで解説をする予定

 像が流れるとぼやける。流れてぼやければコントラストが低下する。点像が流れて、ぼけてコントラスト低下すれば画質が悪くなり解像感も低下する、ということがわかる。つまり像の流れの方向別にSとMの2つの曲線であらわしている。

サジタル(S)とメリジオナル(M)の曲線から収差の様子がわかる

 MTF図の読み方や評価には例外もあるので断定はできないが、サジタルとメリジオナルの2本の曲線は離れずに周辺部まで、できるだけ同じカーブを描いているのが良いとされている。
 サジタルのラインとメリジオナルのラインが離れすぎないほうが、ぼけ味も素直だという。大きく離れているのは、おもに非点収差の影響による像の流れが顕著に出ているためだろうと推測される。

 倍率色収差の影響で画面周辺部でコントラストが大きく低下することもある。サジタルだけがメリジオナルから離れて低下しているときはコマ収差の影響が考えられる。

 また、サジタルやメリジオナルが大きく波打つように上下しているものもあるが、これは像面湾曲収差の影響によるものだ、と言う専門家もいる。しかし、どの収差が原因でコントラストが低下しているのかは現在のMTF曲線図だけでは判断することは(光学設計者など専門家でもなければ)とても難しいし、それを詳しく知ったところで私たちにはほとんど役にも立たない(と思う)。

次回はMTF図を読み込むときの注意点、知っておきたい大切なことを解説したい。



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