見出し画像

最短撮影距離の話 (10)

レンズ仕様表の読み方編」シリーズで、今回は「⑤最短撮影距離」を解説する。
最短距離はどの起点(場所)から被写体までを測定しているのか、そのへんの話から始めたい。

⑤最短撮影距離


 被写体にピントを合わせることができる最も近い距離が「最短撮影距離」である。「撮影可能範囲」や「合焦範囲」として、「最短撮影距離(m)~∞」と表記しているメーカーもある。至近撮影距離ともいうこともある。

 最短撮影距離の測定の方法は、レンズ交換式カメラとレンズ固定式カメラとでは異なることをご存じだろうか?

レンズ固定式カメラの最短距離はレンズ先端面から

 レンズ交換式カメラのレンズは、イメージセンサー面(撮像面)からの距離になる。コンパクトカメラなどレンズ固定式のカメラではレンズ先端部からの距離となっている。
 
 つまりレンズ固定式カメラでは、最短撮影距離がほぼワーキングディスタンスと考えてもいいだろう。
 交換レンズもそうだが、最短撮影距離の測定方法については、ユーザーの「常識」だと考えているからだろうか、敢えて説明も注記もしないメーカーもある。

 「レンズ先端部」の意味は、厳密に言えば第一面レンズ(中央部)からの距離で、レンズ鏡枠の先端部からではない。
 こうしたことはCIPA(カメラ映像機器工業会)で決めた約束ごとなのだが、強制力がないためごく一部のメーカーでは、レンズ固定式カメラにもかかわらずセンサー面(像面)からの距離を最短撮影距離として仕様表に記載しているところもあるが、それは例外。

------------------------------------------------------------------------
【追記】
読者の方から、CIPAのガイドラインによると最短撮影距離の測距方法は撮像面からでもレンズ先端部からでもどちらでもよいことになっている、とのご指摘があった。確かにその通りだった。ただし、どこから測っているかは明記しなければならない、とガイドラインには記されているが、それを守っているメーカーは少ない。
いずれにしても誤解を招くような記事だった。申し訳ない。
------------------------------------------------------------------------

 また、レンズ固定式カメラ(コンパクトカメラ)では「レンズ先端部からの距離」であることを注記しているメーカーと、なんの注記もしていないメーカーもある。これも、ユーザーの常識だ、と判断しているからだろうか。

ニコンのレンズ固定式カメラでは仕様表に「先端レンズ面中央から」との注記がある
パナソニックだけではないのだがレンズ固定式カメラでは、
「レンズ面からの距離」といった注記なしのメーカーが多い


交換レンズの最短撮影距離は撮像面から

 いっぽうレンズ交換式カメラのレンズ仕様表やカタログでも同じで、「撮像面からの距離」という注記をしているのは、ニコンや富士フイルムなど一部のメーカーのみ。繰り返すが、他の多くのメーカーは注記もなしなので少し注意を(知っていればどうってことないのだけど)。

最短撮影距離は、撮像面から、といった注記があるのはこの富士フイルムとニコンぐらい
ソニーも他の多くのメーカーも、最短距離がどこからの距離なのか、その注記はない


 一眼レフやミラーレスのカメラには、ボディ上部に串団子のようなマークがある。これは撮像面(またはフィルム面)の位置をあらわしている。距離基準マークとか像面位置マークなどともいう。
 レンズ交換式カメラの場合は、最短撮影距離はこの串団子マークから被写体までの距離を最短撮影距離と考えればよい(このマーク位置からカメラのマウント基準面までの距離がフランジバックの長さ)。

こうした串団子マークは、いまとなってはほとんど役に立っているとは思えないが、フィルムカメラからの「習わし」のようなもので、どのメーカーも急になくしてしまうことができないようだ

 多くのユーザーは串団子マークを実際に活用している人はほとんどいないようだ(「ああ、ここが撮像面になるのか」と確認するぐらいだろう)。
 しかし精密なメジャーなどを使って、被写体までの指定した距離を測ってからピントを合わせて撮影しなければならない、というやや特殊な撮影をする人にとにとってはなくてはならないものだ(レンズ鏡筒に刻まれた距離目盛りはアバウトだし温度変化によって微妙に異なってくることもある)。


最短撮影距離は短いほどメリットがある

 レンズによっては実際の最短撮影距離と仕様表の表示値とが違ったりすることもある(ほんのわずかだが)。もしそうした少しの誤差があったとしても、たぶん表示値よりも、さらに近距離にピントが合わせられるはずである。ピントを合わせて仕様表などの公式最短距離値まで近づけない、ということになればクレームの対象になるからだ。

 また、レンズ製造上、最短撮影距離をすべてのレンズでまったく同じに調整するのは至難のワザだし温度などにより微妙に変化する、そのため「余裕」をもたせた仕様表の数値表示にしているのだろう。

 最短撮影距離はレンズ選びにとって重要なチェックポイントのひとつ。
(私は仕様表を見るとき、イチバン最初に最短撮影距離がどれくらいなのかを確認する習慣がある)

 最短が近い(短い)ほど、無限遠の遠くから目の前の近くまで自在にピントが合わせられるし、小さな被写体をより大きく写すことができる。このためレンズの使い勝手は良好いといえる。

 しかし、レンズ収差は近距離になればなるほど増大する。そのためレンズ設計者は収差補正をしてどのへんの近距離までなら許容できるか、を見極めて最短撮影距離を決めている。
 遠距離から近距離まで破綻のない良好な画質を確保しようとすると、どうしても至近距離側が犠牲になってしまう傾向があるからだ。

ズームレンズの最短撮影距離には注意を

 ズームレンズでは、最短撮影距離はズーム焦点距離の全域で同じのものが多い。しかし、なかには望遠端よりも広角端のほうが最短距離が短いものや、ズーム焦点距離によって最短距離がまちまちに変化するもの、などがある。

 こうしたズームレンズでは仕様表にはそれぞれの焦点距離での最短距離を明記しているのだが、なかにはその表記を省略しているメーカーもある。
 キヤノンの場合だけど、仕様表にはその記載はなく(記載スペースが限られているからだろうか)あっさりしたものだが、付属の使用説明書を見ると、とても詳細に最短距離が書かれているなんてこともある(使用上の注意点も)。

このキヤノン・RF100-400mmズームレンズは最小絞り値は広角端と望遠端のF値を
記載しているのに、最短撮影距離のほうは200mmのときの最短距離しか記載がない。
100mmや400mmのときの最短撮影距離は不明。
仕様表は"不親切"な記載しかなかったが、RF100-400mmの使用説明書のPDFをダウン
ロードしてみると、とても詳細な記載があり、さらに使用上の注意点も親切丁寧。

"最短"撮影距離なのだから、仕様表の「0.88m(200mm時)」記載はそれでいいのだけど。

 最近、キヤノンの仕様表はじつにアッサリとしていて省略している情報がいっぱいある。レンズ個別の解説ページや使用説明書をよく読まないと詳しいスペックがわからない。ニコンの詳細な仕様表の記載とは対照的。私の記憶では以前のキヤノンの仕様表はもっと詳しく記載していたはずだ。

AFとMFとでは最短撮影距離が異なるものもある

 AFレンズで、AFのときとMFにしたときで最短撮影距離が異なるレンズもある。一般的にMFにしたほうが、より近距離にピントが合わせられるようだ。
 AFでは測距時にAFレンズ群を前後して正確なピント位置を決めなければならず(とくにコントラストAF方式で、これをウォブリングという)、その移動幅をあらかじめ設けておく必要などがある。
 MFでは手動ピント合わせなので"余分な幅"が必要なくぎりぎりまでレンズ群を繰出してピント合わせができるためだろう。

 次回の第11回は「⑥最大撮影倍率」の予定。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?