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生命の法則に少しだけ抗う

 お手洗いでのお話し。
 拙宅のトイレにはかごがあって、雑誌が二冊置かれています。いずれもクレジットカードの会員向け冊子ですが、ユニークな活動をしている人の取り組みの紹介など興味深い読み物があってトイレ時間が楽しいです。特に楽しみにしているのが福岡伸一先生のコラム。
 福岡先生訳の「ドリトル先生」も、人や生き物との間に垣根を作らず、同じ地平に立とうとする、広く深い生命観が感じられます。人を見下したい人がこんなにも増えた現代において、スタビンズ君にも一人の人間として対等に接する先生の姿勢は、どこかお伽噺のようでもあります。福岡先生の文章には、筆が立つと言われる人の文章にある、己の筆に溺れるところが微塵もない。読む人の眠れる想像力を優しく呼び覚ましてくれるような文体。敬愛する福岡先生の名文を読む場所がいつもトイレだなんて、お許しください!

 「秩序あるものは無秩序に」あるいは、「形あるものは壊れる」ことは必定であり、エントロピーの増大には逆らえないと世間ではいう。今は肉体を成し、精神活動をしている私もあなたも、いつか骨になる。これが生命の摂理であることも分かるが、福岡先生の説かれる「動的平衡」はマイルスの「毎朝、新しい俺が生まれる」と同様、希望があります。エントロピー増大にも抗い、何かを創り出し、無形の文化を伝承してきた。この抵抗こそが私の「生命」だと考えています。

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