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道は大人と違えど、志はアベンジャーズ「ヤング・アベンジャーズ(2005)」

スーパーヒーローと子供には、切っても切れないつながりがある。

日本でも、古くは江戸川乱歩著の小説「怪人二十面相」で主人公の明智小五郎と共に事件を解決する少年探偵団がいたり、特撮シリーズでは「ウルトラマン」の星野少年や「仮面ライダー」では少年仮面ライダー隊と、有名なヒーローもの作品では、主人公と共に活躍する子どもが登場することが多い。

マーベル・コミックスでも、リック・ジョーンズという青年がハルクやキャプテン・マーベルと共に活躍し、バッキーとしてキャプテン・アメリカと共に闘ったこともあった。

主に子供がメインの読者であるヒーローもの作品において、読者と同じ目線を持っていて、かつ最も感情移入できる存在として子供キャラクターの存在はとても大きいのだろう。

しかしここ最近のマーベル・コミックスは物語がかなり複雑化し、子供が簡単に手に取って全力で楽しめるものだとはとてもいえなくなってしまった。さらに世の中もより多様性が尊重される時代、ヒーローに憧れて盲目的についていくような少年キャラクターたちは、現在の読者からすればどこか古臭く感じてしまうかもしれない。

そんな空気が強まっていたであろう2000年代に、少年ヒーローチームの誕生を描いたのが、アラン・ハインバーグ著「ヤング・アベンジャーズ」だ。

アベンジャーズが解散し、ヒーロー不在の時代に突如現れた4人の若者たち。星条旗の衣装に身を包む「パトリオット」、鋼鉄のアーマーに身を包む「アイアンラッド」、緑の体で怪力自慢の「ハルクリング」、古風な衣装に身を包み雷と共に空を飛ぶ「アスガーディアン」、アベンジャーズそっくりな姿の彼らを人々は「ヤング・アベンジャーズ」と呼び始める。

しかしこれに待ったをかけたのはキャプテン・アメリカやアイアンマンといった元アベンジャーズの面々。「何の訓練も受けていない子供が突然ヒーローごっこを始めるなんて危険極まりない!」と説教するためヤング・アベンジャーズの元を訪れる彼らだが、そこで若者たちの正体と衝撃の事実を知ることになる。

アイアンラッドは、自分で開発したハイテクアーマーで闘うヒーロー…ではなく、タイムスリップを繰り返し時間の征服を目論むヴィラン「征服者カーン」の若き日の姿。

悪に染まった未来の自分を止めるために過去にやってきたアイアンラッド。彼の未来がどうなるかも物語の大きな焦点になる。

ハルクリングは、ガンマ線でパワーアップした怪力の巨人…ではなく、変身能力でいかなる姿に体を変えられる超人。

怪力だけじゃなく翼を生やしたり変装したりもできる。最初はミュータントだと思われていたけど…?

アスガーディアンは、その名の通りアスガルド人…ではなく、雷撃や浮遊以外にも様々な魔法を使える魔法使い。

「願いを逆さ文字で唱える」というシュールな魔法を使う。「全然アスガルド関係ないじゃん!」と身内からツッコミが入り、名前もウィッカンに改名。

一見アベンジャーズ大好きコスプレキッズに見えた彼らは、実は元のメンバーとは何の関係もなければ、能力も違っていたのだ。

そして最も衝撃的だったのがパトリオットの正体。彼の本名はイーライ・ブラッドリー。第二次世界大戦中に軍の実験で生み出された黒人超人兵士、「ブラック・キャプテン・アメリカ」ことイザイア・ブラッドリーの孫である。

初登場の時はマスクで顔が隠れていて黒人だとわからないのもうまいミスリード。彼の正体が明かされるシーンはまさにあっと驚く瞬間だ。

「え?黒人超人兵士って何のこと?」と思う人のためにちょろっと説明。第二次世界大戦の最中、米軍は超人兵士開発計画「プロジェクト・リバース」を開始した。被験者に強靭な肉体を与える超人血清を開発するための実験が極秘に行われることになるが、その対象となったのは当時差別の対象だった黒人部隊の兵士たちだった。

何も知らない黒人たちはモルモットのような扱いを受けて非人道的な実験に強制参加させられ、何人もの兵士が命を落とした。唯一その中で生き残ったイザイア・ブラッドリーは超人兵士として米軍とナチスの戦争に参加したのである。

彼らの犠牲の上で完成した超人血清は白人の青年スティーブ・ロジャースに使用されることになる。超人兵士となった彼は派手な衣装に身を包み「キャプテン・アメリカ」として連合国軍から拍手喝采で迎えられるが、その一方で黒人であったイザイアの犠牲と闘いは歴史の闇に葬られてしまうのだった。

知られざるイザイアの歴史を描いたコミック、その名も「トゥルース」、誰もが目を背け続けた真実を描き出す大傑作。

一見キャプテン・アメリカ大好きキッズのような見た目で登場したパトリオットは、むしろキャップの歴史の闇を象徴したような男の孫だった。キャップと対面したイーライはヒーローに会えて歓喜するどころか、自分の祖父が蔑ろにされて、目の前の男が「白人だから」という理由でもてはやされていることに怒りさえ感じているようだった。

そう、ヤング・アベンジャーズは子供たちが作ったパチモンのように見えて、実はアベンジャーズとは全く違う事情を抱えた少年たちによるヒーローチームなのだ。

そこからさらに二代目アントマンの娘である「スタチュア」と、格闘術と弓の名手である二代目「ホークアイ」、高速移動と爆破能力を持つ不良「スピード」がチームに参加して、チームはますます拡大していくが、やはり彼らも大人ヒーローとは違う悩みを持つ少年少女だ。

スタチュアは母の再婚でできた新しい父との関係に悩み、ホークアイは性暴力の被害を誰にも告白できずに苦しんでいた。チームの問題児であるスピードも、能力をコントロールできず理不尽に投獄されていて、抑圧されるティーンエイジャーとして描かれている。

女性陣も増えてさらに多様さを増したヤング・アベンジャーズ。大人たちとは違う事情を持つ彼らだけど、志はアベンジャーズそのもの。

自分が一番好きなのはやっぱりパトリオットのエピソードだ。当初は「祖父から超人血清の力を受け継いでいるため強靭な肉体を得ている」と説明していたイーライだったが、実はこれが嘘であったことが発覚する。

超人としての力を受け継ぐことができなかったイーライはメンバーに嘘をつきながら、スーパーパワーを得ることができる違法薬物「MGA」を密かに集めて摂取していたのだ。

星条旗をその身に纏うという重荷に加えて、偉大な祖父のレガシーを引き継がなくてはならないというあまりにも重すぎる責任とプレッシャーに、イーライは押しつぶされてしまっていた。

仲間たちに止められて薬の投与をやめ、スーパーパワーを失って常人として闘うことになったイーライは、異星人との戦闘の最中、銃撃からキャプテン・アメリカを庇おうとして重傷を負ってしまう。彼を救うために祖父のイザイアが輸血を申し出て、結果的にイーライは祖父の血に眠る超人血清の力を受け継ぐことができたのだった。

「黒人だから」と虐げられていたイザイアの孫として、誰もが尊敬する「ホワイト・キャプテン・アメリカ」には複雑な思いがあるはず。それでも彼を助けたイーライの自己犠牲の行動はまさにヒーローに相応しい行いだ。自らの行いがきっかけで真のスーパーパワーを手に入れたイーライの姿に思わず胸が熱くなってしまうエピソードだった。

アメリカの象徴として、そして祖父の偉業を受け継ぐものとして闘うイーライ。そのプレッシャーはキャプテン・アメリカ以上かもしれない。

その見た目とは裏腹に、アベンジャーズとはまるで違う事情を各々抱えた少年たち。それでも彼らが1人でも多くの人を救うために成長していく姿勢は、まさにアベンジャーズそのもの。ヤング・アベンジャーズは、現在を生きる複雑な若者の姿を捉えながら、彼らをまとめて王道のヒーローチームとして描く名作だ。

何とこのシリーズ、つい最近本編二巻に加えて、アベンジャーズやX-MENとクロスオーバーした完結編「チルドレンズ・クルセイド」まで全部邦訳が出てます。自分は「再販のチャンスを逃すまい!」とバカ高いクソデカオムニバス本を買ったぞ…笑ってくれ…



あと記事中でちょろっと紹介した「トゥルース」も邦訳されてます。いつか紹介したいけど、内容が内容なだけあって、自分の駄文で紹介できるかな…

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