見出し画像

沢田太陽の2024年1~3月の10枚のアルバム

どうも。

では、お待たせしました。当note恒例、3ヶ月に一度の企画アルバム10選、2024年1~3月に関してはこうなりました!

この3ヶ月、かなりの力作揃いでしたが、その中でも素晴らしかった10枚はこういう布陣になっています。

では、ランダムに話しやすいものから行きましょう。

Cowboy Carter/Beyoncé 

はい、まず最初はいま、本当に世界で話題ですね。ビヨンセ「Cowboy Carter 」。どこでもこれ流行ってますね。これ、触れ込みとしては「ビヨンセの作るカントリー・アルバム」ということでしたが、カントリーかどうかはおいといて「ビヨンセの目を通した、カントリーをはじめとしたルーツ・ミュージック・カルチャーを表現したアルバム」であくまでビヨンセのアルバムです。ただ、「白人文化であるカントリーにビヨンセが挑む」という敵対する感じでなくて、ウィリー・ネルソンやドリー・パートンといったその世界の巨人、そして黒人カントリー・アーティストの歴史的なパイオニアのリンダ・マーテルへ敬意を払い、カントリーにゆかりのある黒人を含む最近の若いアーティストとコラボし、公民権運動に触発されたビートルズの「BlackBird」をBLMの時代にカバーするなど、音楽のシステムを全体的に俯瞰したすごく気を遣った知的な対応を行っています。でも、そうでありながら、前作「Renaissance 」がそうであったようにパンデミック後の世界で人種の壁を超えてみんなで楽しみましょうというピースフルなメッセージを、本来は白人のものとされているカントリーをモチーフにして発してるところが一番好きですね。そこに彼女の郷里のテキサス愛も示されていて。また、全体の作りがかっちりしてなく良い意味で緩いのもオプティミスティックなこのアルバムにふさわしくてそこも好きです。

ただ、ビヨンセの最高傑作ではないですね。最高傑作というのは、それがそのアーティストのその後の個性までをも決定させてしまうほどのパワーを持つような作品を指すのですが、このアルバムでの路線がこの後の彼女の方向性として定着するとまでは思わなかったから。そこはあくまでも「企画作」。だけど、そういうものでもぬかりなくプロフェッショナルなところがさすがのビヨンセです。

Tigers Blood/Waxahatchee

続いてはワクサハッチー。ケイティ・クラッチフィールドという人の一人バンド。彼女の「Tigers Blood」というアルバムを。彼女はUSインディの世界ではかねてからリスペクトされてる人ですけど、このひとつ前のアルバム「Saint Cloud」から、カントリー、アメリカーナ系のルーツ・ミュージックでの評価が俄然上がってますね。出身が南部のアラバマ州であることを活かした感じですが、今作はそのテイストを活かしたまま、カントリー・スタイルのストレートなギター・サウンドのアンサンブルがすごくかっこいいアルバムです。 とりわけケイティの歌声のこうしたロックへの説得力が抜群なんですよね。乾いた甲高い声をかすらせながらヨーデル調で歌う。すごく年期を重ねてないと出せないニュアンス。彼女、35歳でそこまで年食ってるわけではないんですけど、もう堂に入った貫禄ぶりです。あと、今作で全編にわたってギターを弾いてるMJレンダマンという人にも注目です。まだ20代前半の若いシンガーソングライターなんですけど、ギタリストとしてもパリッと硬質なギター・ストロークを聴かせて今作のロックンロールな側面を巧みに演出してます。

Underdressed At The Symphony/Faye Webster 

続いても女性のシンガーソングライターですね。フェイ・ウェブスター。彼女もここ最近のUSインディで注目の存在になってきていますが、この5枚目のアルバム「Underdressed At The Symphony 」はアメリカのカレッジ・チャートですごく流行ってます。3週くらい1位になってますね。この夏のフェスにも積極的に出ますしね。いみじくも3人連続で南部女性が続くんですけど彼女もジョージア州アトランタの出身で注目された前々作にあたる2019年のアルバム「Atlanta Millionares Club」の際にはカントリーやオールド・ソウル色の強いサウンドで注目されました。まだ大学生くらいの年齢でそれやったことも評価されて。今回は降って沸いたカントリー・ブームもあったので彼女もそれで注目されていたら、あがったものはもっと多彩でしたね。70s初頭のキャロル・キング的な凝ったコード進行のシンガーソングライターの王道みたいな曲から、シティポップ調、彼女にしては珍しいハード目なギターの曲、さらには同じ高校に通っていたというリル・ヨッティのオートチューンを活かした変則的なサイケデリック・チューンまで。これまでのスタイルを求めていた人には一部不評でもあったようなんですが、僕は彼女のソングライターとしての懐の深さと今後への伸び代を感じて今作で惚れ込みましたね。実は10枚の最後を彼女にするかHurray For The Riff Raffにするかでさんざん迷ってフェイにしたのも、やはり積極的に新しいことを試したことへの好感度からでした。

The Mess We Seem To Make/Crawlers

続いてもまた女性なんですけど、今度はガールズ・バンド行きましょう。クローラーズという、リバプールが生んだガールズ・バンドです。ドラマー以外が女の子の4人組ですね。この「The Mess We Seem To Make」が彼女たちのデビュー作になりますが、パンデミックの頃にtik tokで人気に火が付いてミニ・アルバムの時点で全英トップ30にも入ってて、その影響もあって今回も全英7位初登場となりました。今回、イギリスやアイルランドからはSprints、Newdad、Lime Gardenと良いバンドが続いて、こういうバンドの方がクールな意味でのセンスは上だったにも関わらずそれでもクローラーズを選んだのは、曲のスケールがすごく大きくて、やりたいことが他のバンドよりかなり明確な感じがしたからです。なんか言うなれば「マイリー・サイラスが歌うマイ・ケミカル・ロマンス」みたいなところがあるんですけど、しゃがれ気味のパンチのある声で歌うサビも良いんですけど、抑制を効かせて内省的な落ち着いた感じでも歌えて歌唱そのものにドラマ性があるというかね。この歌ってる女の子、ホリー・ミントっていう、青髪でゴスメイクでちょっとポッチャリ目だったりするんですけど、すごく人懐っこいキャラで同姓共感を強く誘えそうなのも魅力なんですよね。今回の企画のラスト近辺に出てくるバンドたちと共にイギリスのガールズ・ロックシーン盛り上げてくれることを願いたいですね。


I Got Heaven/Mannequin Pussy

続いてもガールズ・バンドです。マネキン・プッシー。彼女たちのアルバム「I Got Heaven」。フィラデルフィア出身の4人組で、ベースの人だけ男性という組み合わせですね。存在自体は前から知ってはいて、でも、このバンド名で所属もエピタフだから、もっとハードコアっぽい感じだと思ってたんですよね。でも、それは誤解で、ハードコアな側面もしっかりありつつ、同時にオルタナ・ギターバンドっぽい感じだったり、さらにはシューゲーザーまで器用にこなせるんで、ちょっと聴いてビックリしました。とりわけ、胸キュンもののメロウ・チューンにすごくキレがあるんですよ。特に2曲目の「Loud Bark」って曲のメロウな入りからのサビでのエモーショナルなシャウトの展開はかなり非凡でグッと来ます。このバランス感覚、聴いててHoleの1994年の大傑作アルバム「Live Through This」をものすごく彷彿させます。ありそうでないんですよね。ものすごく粗っぽくてはすっぱでもあるのに、同時にものすごく愛らしいセンチメンタルな哀愁も抱えたフィーメール・ロックって。イギリスはクローラーズ、アメリカは彼女たちでガールズ・パンクに密かに心捕まれていたこの3ヶ月でもありました。

Scrapyard/Quadeca

続いてはヒップホップ行きましょう。これはQuadecaといって、カリフォルニアの23歳のベンジャミン・ラスキーという白人青年です。彼、もともとYouTuberだったらしいのですが数年前から曲を発表し出して一昨年くらいから僕のTLでも話題にし始める人が出てきて気にはしてたんですけど、このアルバム「Scrapyard 」でRYMとか、AOTYのユーザー評価がとんでもないことになっていたから気になって聴いてみたら「なるほど」!これはたしかに、この3ヶ月のヒップホップでは最高のアルバムです。なんかここ最近のヒップホップって、トラップは「もう勘弁」ってくらい飽和状態で、良心的なオルタナティブでさえストリングスの入った70sソウルものみたいなパターン続きで出口が見えない感じだったんですけど、このアルバムはトラックをあえてバンド的な生演奏で表現することで、トラックの自由度をあげてるんですよね。それはロックな方向にもメロウなSSWタイプにも、さらにいえばそれこそそれでトラップも拾ったりしてて。皮肉だなと思ったのは、その昔はバンド演奏で届かない自由なサウンドを表現してたはずのサンプリングやビートの限界が見えてそれを生演奏が補う、そんな段階に一周回った感じがしたことですね。あと、もともとベッドルーム的な要素もあったエモラップの種子から、ブームが終わってしばらくして経ってd4vdとか彼みたいなのが出てくるのも面白いもんだなと思いましたね。

Bright Future/Adrianne Lenker

続いてのアルバムは「Bright Future」。ビッグ・シーフのフロントを務めるエイドリアン・レンカーのソロ・アルバム。ビッグ・シーフと言えば当noteではすっかりお馴染み、過去に4作、僕の年間ベストにも入ってますけど、彼女は合間合間にソロ作も頻繁に出してることでも有名です。そんなソロの中でも今作は破格の出来ですね。もともとバンドでもフォーク・ロック的なアプローチをしていますけど、今回はテンガロンハットまでかぶって、このカントリー・ブームにさぞや得意なカントリーで迫ってくる・・・と思いきや、そうした次元のはるか斜め上を行ってて脱帽しました!これ、当初のテーマはそうだったかもしれないし、実際そういう曲もあります。しかし、曲を書いているうちにエイドリアンが覚醒しちゃって、ビッグ・シーフでも聴かれないプログレッシブな展開になってるんですよね。もともと、僕がビッグ・シーフに興味持ったのも「後期レディオヘッドみたいな曲書くバンドだな」というとこでの関心からだったんですけど、そのモードが戻ってきてるというか、むしろ、ビッグ・シーフの最新作で窮屈に聞こえた部分の自由度が上がってる感じがしたんですよね。特にビッグ・シーフで先行で発表していた「Vampire Empire」の脱アメリカン・バンド・アレンジを聴き比べればそれは明確というか。あと、彼女自身の幼き日の母との回想記でもある「Real House」にも見られるようにエイドリアン自身の生々しい個人的体験により迫った作風もかなり気になるところ。ちょっと今後の彼女自身の活動を左右しかねない作品になる可能性も秘めていると思います。

Wall Of Eyes/The Smile

残り3枚。まずはザ・スマイル。彼らの2枚目のアルバム「Wall Of Eyes」です。これは大好きではあるんですが、同時にものすごく複雑な気分になったアルバムですね。だいたい僕はこのプロジェクト自体に反対なんです。トム・ヨークとジョニー・グリーンウッドの2人が、明確な区別もなくレディオヘッドの別プロジェクトをやるというアイデアが。そんなことより、レディオヘッドの次のアルバムが聴きたいので。前作「A Light For Attracting Attention 」を聴いた際も「なんでそれをレディオヘッドでやらないの」とヤキモキしました。ただ、前作はそれでもまだ粗削りなところもあったりしたから、まだ一応差別化みたいなものは出来ないことはなかったし、「これでレディオヘッドに戻ってくれれば」とほのかな期待を描いていました。しかし、それは結局起こらず、この体制に慣れたか曲も急速にこなれた感じが生まれ、もう完全にこれ「A Moon Shaped Poolの次の作品が出来ちゃった」というアルバムになってしまいました。多くのレディオヘッド・ファンが一生懸命レディオヘッドとの違いを見つけようとして、自分なりの納得仕方で区別しようとしてるのをTLでも見かけました。でも、ハッキリ言って無駄な抵抗だとしか思えません。だって、どの曲とっても「それはアムニージアックの・・」「これはイン・レインボウズの・・」みたいな曲のオンパレードで、しかもあのときに思っていた「ジョニー、もっとギター弾いてほしいなあ」みたいな願望までしっかり叶ってしまってるんですもん。文句なんて言えませんよ。しっかりもう、レディオヘッドのその後の作品にしか聞こえないし、仮にここでエド、コリン、フィルがこれ以上のものを提示出来るとは思えない。あの三人からトムとジョニー以上のアイデアが仮に出せたらあのバンドのこと、根本的にさらに見直しますけど、それはジョージとリンゴがジョンとポール越えるくらい難しいのと同義でしょうからね。その意味でこれ、聴いててカタルシスは思い切り沸き上がるんですけど、それと同時に悲しみも止まらないんですよね。


Prelude To Ecstasy/The Last Dinner Party

残り二枚ですけど、前からこのnoteを読んでいただいてる方なら、それがこの二枚しかないのはお分かりでしょう(笑)。まず一枚はThe Last Dinner Party。もう、去年の夏からずっと個人的に騒いでたし、もう年始から「今年は彼女たちの年になる」と言い続けたわけです。去年の年間ベストも彼女たちのアルバムがないからなんか寂しかった。そこまで思わせるアーティストです。今年が高くないわけがありません。もう、彼女たちに関しては最初から全てが破格だし、「出るべきして出る存在」です。フローレンス&ザ・マシーンやラナ・デル・レイ、Lordeといった存在が開拓したインディ・ガールズ・ロックの地平を、ソロでなくバンドとして発展継承。そこにクイーンやデヴィッド・ボウイ、ケイト・ブッシュといった英国の華麗なるロック・レジェンドの意匠も親のステレオから受け継ぎ、地味だったバンドシーンに華やかな彩りを与える。しかもそれが、パンデミックのあとにライブシーンが女の子たちをメインに新たな意義付けのもとに復活していく矢先に、彼女たちの存在は本当に象徴的だった。それを「Nothing Matters」「Sinner」「My Lady Of Mercy」「Caesar On A TV Screen」といったアンセムの数々が次々と裏付ける。しかも今の時点ではまだそれが始まったばかりで、その効果はむしろこれから発揮されてくるはずなので、ますます楽しみです。これからのフェスのシーズンにかけて、どれだけ注目度をあげていくか。見ものですよ。

Where We've Been, Where We Go From Here/Friko

そしてラストを飾るのはFrikoです。もう、この3ヶ月の、予想だにしなかったダークホースですね。僕自身、年の頭から、この3ヶ月はTLDPを推すつもりで、まさかそれを上回る存在なんて出るわけないだろうと思い込んでいました。しかし、それが出てくるんだからドラマですよね。しかも、ノーマークだったシカゴのインディ・シーンから彗星のように現れるというね。僕自身、正直なところ、ニコ・カペタンとベイリー・ミンゼンバーガーの二人に関しては本作「Where We've Been When We Go From Here」がリリースされるまで全く知りませんでした。リリースして少しして、少ないながらもレビューで絶賛されてたからアルバム聴いて冒頭の「Where We' ve Been」の初期レディオヘッドの持っていたダイナミズムをいきなり彷彿させる劇的な展開に一気に心を捕まれ、そこから聴く曲聴く曲にことごとくノックアウトされていった。それが「Crashing Through」であれ「Chemical」であれ「For Ella」であれ「Get Numb To It」であれ、まるで1994年にオアシスやグリーン・デイ、ウィーザーの伝説のアルバムをはじめて聴くときのような、バラエティにとんだ曲郡とそれらのいちいちの完成度の高さに舌を巻くあの感じ。僕は聴いててそれを思い出しましたね。そうしてたらリリースから3日経って突如日本のX上で起こった異例のセンセーションですよ。やれ、ブライト・アイズだ、アーケイド・ファイアだ、ダイナソーJrだ、エリオット・スミスだと、レジェンダリーな名前の数々が似ているものとして比較にあがって、僕自身が見たことのない騒ぎになって、遂にはApple Musicのデイリー・チャートで11位まであがる騒ぎになって。あんな経験はなかなかないし、忘れられるものではありません。

それをなしたのが、大手事務所が推し体制に入っているTLDPみたいなタイプでなく、まだファンの数自体もそんなに多くない無印ってこともなんかいいじゃないですか。そしてFriko自体がハイスクールで、学校で一番才能のある男と女で作ったって話も、本当に今っぽいこれからのバンド結成の経緯の伝説というか見本になっていきそうな感じもあるし。そして、シカゴという都市でパンデミックを挟んでシーンが育ってきた中の代表というのも長らくロック不振だと言われ続けた立場としては嬉しい。そして、その種を日本で育むチャンスを与えられたことも。イリノイ州だけに、21世紀のチープ・トリックのような存在にしたいですけどね。そのためにも奇跡的に急遽決まったフジロックは盛り上がってほしいですよね。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?