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米海軍がイラン海軍によるタンカーの拿捕を阻止

ペルシャ湾からホルムズ海峡を抜けてオマーン湾に至る海域では、定期的にイラン海軍(正規軍・革命防衛隊の両海軍)による第三国のタンカーの拿捕が発生している。

今年に入ってからも、4月27日にオマーン湾のフジャイラ沖にてクウェートから米ヒューストンに向かうマーシャル諸島船籍の原油タンカーAdvantage Sweet(15.9万DWT)が、5月3日にはホルムズ海峡でドバイからフジャイラに向かうパナマ船籍の原油タンカーNiovi(30.7万DWT)がイラン海軍によって拿捕されている

イラン海軍(革命防衛隊)の高速戦闘艇に取り囲まれるNiovi
出所:米中央海軍/第五艦隊

そして7月5日、米海軍は、オマーン湾にてイラン海軍によるタンカー拿捕の試み2件を阻止したと発表した

同発表によると、現地時間午前1時、サウジアラビアのジュベイル港を出てオマーン湾を航行していたマーシャル諸島船籍の石油・ケミカルタンカーTRF Moss(3.8万DWT)に、一隻のイラン海軍艇が接近した。米軍のミサイル駆逐艦USS Mcfaul(DDG-74)が現場に到着すると、イラン海軍艇はそのまま船から離れていったという。

その3時間後、米海軍はUAEのホール・ファッカーン港を出てシンガポールに向かってオマーン湾のマスカット沖20マイル(約32km)を航行していたバハマ船籍の原油タンカーRichmond Voyager(31.9万DWT)から救難信号を受信する。上記とは別のイラン海軍艇がRichmond Voyagerに1マイル(約1.6km)まで接近し、船を停止するよう呼び掛け、小火器や乗員用の武器で複数回射撃した。乗員に被害はなく、船体にも深刻な損傷は出なかったが、乗員の居住区付近の船体に数発の弾丸が命中した模様である。米軍は先のUSS McFaulを現場に向かわせたところ、イラン海軍艇は再び離れていった。

イラン海軍艇から発射された弾丸がRichmond Voyagerの上を通過する様子
出所:米中央海軍/第五艦隊

イランによる第三国のタンカーの拿捕は、自国の原油輸出が米国の制裁により制限されていることに対する不満の表明と見られている。イラン核交渉が大きな進展を欠く中、危機を演出することで問題の解決の必要性を高める目的があるとも言われている。

興味深いことに、イランによる拿捕の被害に遭うのは、近年イランとの和解が進む湾岸諸国から出航する石油タンカーである。その他の一般的な貨物を輸送するコンテナ船等が襲撃されることはない。このことから、「イランの原油輸出が認められないならば、対岸の湾岸諸国の原油輸出も危機に晒されることになる」というイランからのメッセージだと受け止められている。

周辺海域では米軍が指揮する多国籍海上部隊「連合海上部隊(Combined Maritime Forces: CMF)」、2019年から新たに発足させた「国際海洋安全保障構成体(International Maritime Security Construct: IMSC)」が海洋安全保障を担っているため、同海域では引き続き米・イラン間の衝突のリスクが残されていよう。


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