中東情勢ウォッチ

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最近の記事

イランのライーシー大統領が事故で死亡

イランのエブラーヒーム・ライーシー大統領が搭乗したヘリコプターが5月19日に墜落、20日に大統領含めた搭乗者9人全員の死亡が確認された。同乗者にはアブドゥルラヒヤーン外相、ラフマティー東アゼルバイジャン州知事、アリー=ハーシェム東アゼルバイジャン州最高指導者代理等がいた。墜落の原因やライーシー大統領等の直接の死因は不明であるが、事故当時に現場付近では濃霧が発生しており、墜落した機体は大破していることから、事故による死亡の可能性が高いと見られている。一部メディアでは暗殺の可能性

    • クウェート議会の解散、憲法の一部条項の凍結

      5月10日夜、クウェートのミシュアル首長は、議会の解散と4年を超えない期間において憲法の一部条項を凍結させる首長令を発布した。議会の権限は首長と政府が引き継ぎ、この期間において憲法の改正について進めることになる。1962年に成立したクウェートの憲法が停止されるのは、1976-81年の5年間、1986-92年の6年間に続き3度目となる。 首長令の発布にあわせてミシュアル首長は国民向けの演説を実施し、国家が大きな困難に直面しているために今回の厳しい決断をせざるを得なかったと説明

      • ガザ停戦交渉、最終局面か

        ガザ地区最南部のラファへの軍事侵攻の準備を整えてからおよそ2カ月、イスラエルは米国や国際社会からの強い圧力を受けて地上作戦の開始を延期し続けてきた。イスラエル軍によるハマース掃討作戦は継続されているが、その規模は開戦時よりも縮小しており、ガザ地区における戦死者数も減少傾向にある(下グラフ参照)。 ハマース殲滅を掲げるイスラエルがラファへの地上侵攻を控えていたのは、ガザ地区内の人道危機が深刻化し、イスラエルへの軍事支援を継続する米国内でもイスラエルへの反発が高まっていたことが

        • イスラエルによるイランへのミサイル攻撃

          4月19日午前4時頃、イスラエルはイラン中部のイスファハーンにある空軍基地に向けてミサイル攻撃を実施した模様である。断定的に書けないのは、本事案では攻撃を実行したとされるイスラエルも攻撃を受けた側であるイランも、攻撃の事実を公式に認めていないからである。もっとも、双方の政府関係者や米国の政府関係者が匿名でメディアに情報を流しており、イスラエルがイランへのミサイル攻撃を実施したことはほぼ確定的な事実と見なされている。 いずれも攻撃の事実を公式に認めていないため、攻撃の手法や標

        イランのライーシー大統領が事故で死亡

          イランによるイスラエルへのミサイル・ドローン攻撃

          4月13日夜、イランの革命防衛隊はイスラエル本土に向けてミサイル・ドローンを用いた直接攻撃を実施した。14日朝のイスラエル国防軍(IDF)の発表によると、イランはドローン170機、巡航ミサイル30発、弾道ミサイル120発の計300発超による複合的な攻撃を実施したものの、イスラエルは弾道ミサイル数発を除いて領域外にて迎撃することに成功、被害はイスラエル南部のネヴァティム空軍基地の施設に軽微な損害が出たのみとしている。現在までにイランの攻撃による直接的な人的被害は確認されておらず

          イランによるイスラエルへのミサイル・ドローン攻撃

          ガザへの人道支援強化に踏み切ったバイデン政権

          イスラエルによるガザ侵攻は、ラファでの地上作戦を控える一方、他の戦線では戦闘が収束に向かいつつある。3月9日、ガザ地区における戦死者数は30,960人に達したとガザ地区の保健省は発表した。これには推計7,000人に上る行方不明者は含まれていない。戦死者数の推移を見ると、開戦時には1日平均350人を超える死者が発生していたが、2月には平均100人超/日と、開戦時の3分の1の規模にまで縮小してきている(下グラフ参照)。これは住民が退避して空爆等による巻き添え被害が減少したことに加

          ガザへの人道支援強化に踏み切ったバイデン政権

          ネタニヤフ首相が提出したガザ戦後計画案

          イスラエルによるガザでの軍事作戦は、南部の主要な町であるハーン・ユーニスの制圧をほぼ終え、エジプト国境沿いにある最南端の町ラファへの大規模な空爆を2月から開始し、ガザ全土の制圧に向けた最終段階に入った(下図参照)。ラファは人口27万人程度の小さな町であるが、ガザの人口の半数以上となる100-150万人規模の市民が避難してきており、イスラエル軍の攻撃による人道被害が拡大することが懸念されている。エジプト、カタール、そして米国が仲介するハマースとの停戦についての協議は継続している

          ネタニヤフ首相が提出したガザ戦後計画案

          紅海情勢への懸念を高める中国

          ガザ戦争の勃発以降、米国や欧州諸国、ロシアが活発に外交を繰り広げてきたのに対し、中国の存在感は希薄な状態が続いてきた。グローバル・サウス諸国からの支持を意識し、また米国と対抗する観点からアラブ諸国寄りの立場を取ってきた中国は、国連等の場で厳しいイスラエル批判をしてきたものの、紛争からは距離を置く姿勢を保ってきたと言える。中国の中東政策は伝統的に全方位外交を追求するものであり、域内の紛争には不関与を貫いてきた歴史があるが、それは今回の事例でも踏襲されてきた。 しかし、こうした

          紅海情勢への懸念を高める中国

          戦線の拡大が懸念されるガザ情勢③ - フーシー派による船舶への攻撃の拡大

          10月31日にイスラエルへの宣戦布告を表明したイエメンのフーシー派は、10月中旬から続けられているイスラエル南部へのドローン・ミサイル攻撃と並行して、11月19日の商船拿捕を皮切りにイエメン近海での船舶への攻撃を増加させている。 11月19日、紅海にて日本郵船が運航する自動車運搬船Galaxy Leaderを拿捕。同船はイスラエルの富豪Abraham Ungar氏が経営するRay Shipping社が保有しており、日本郵船にリースされていた。フーシー派は、イスラエルの旗を掲

          戦線の拡大が懸念されるガザ情勢③ - フーシー派による船舶への攻撃の拡大

          激化するガザ情勢④

          11月24日から12月1日までの8日間の短い停戦期間が明けた後、イスラエル軍はガザ北部での包囲戦を継続しながら、南部への侵攻を本格化させている。 12月4日、ガザ南部に進軍したイスラエル軍は、ガザの南北を結ぶ幹線道路であるサラーフッディーン通りに到達し、ガザ南部の主要な町であるハーン・ユーニスとガザ中央部のダイル・バラフを寸断することに成功した。イスラエルはハマースの幹部がハーン・ユーニスに隠れていると考えており、戦線を南部に拡大していく方針である。開戦当初は北部に集中して

          激化するガザ情勢④

          激化するガザ情勢③

          10月28日に地上戦を含む「第二段階」に入ったイスラエルのガザ侵攻は、ガザ地区の北部の包囲が完了し、市街戦が激化している。 11月18日時点のイスラエル軍の犠牲者数は380人に上っているが、このうち300人超が10月7日のハマースによる奇襲攻撃によって亡くなっている。10月28日以降に70人近くの兵士が死亡していることから、地上戦の開始に伴いイスラエル軍の兵士の犠牲が急増していることが分かる。一方、イスラエルの民間人の死者数は、10月7日の奇襲により859人の死亡が確認され

          激化するガザ情勢③

          戦線の拡大が懸念されるガザ情勢②

          10月7日から始まったイスラエルとハマースの衝突は、開戦から三週間を経て10月28日から「第二段階」となる地上戦に入った。両者の戦闘での被害は、イスラエル側に1,447人、ガザ地区にて9,448人の死者を出す事態となっており、多数の民間人の被害を出しながらも停戦が成立する見込みは立っていない。 イスラエル軍の地上戦開始に伴い、周辺国からイスラエルに対する非難は高まっている。10月31日にボリビアは国交断絶、11月1日にコロンビア、チリ、ヨルダンは駐イスラエル大使の召還を決定

          戦線の拡大が懸念されるガザ情勢②

          激化するガザ情勢②

          10月7日から始まったイスラエルとハマースの衝突は、開戦から三週間を経て「第二段階」に入った。 10月7日のハマースの奇襲を受けて以降、イスラエルはガザ地区を封鎖し、激しい空爆を継続してきた。しかし、空爆のみではハマースに拉致された人質の救出、ハマースの無力化は困難であり、いずれ地上戦に移行すると見られてきた。限定的な地上戦はこれまでにも起きていたものの、10月27日夜からイスラエル軍はガザ地区内に部隊を進軍させ、ガザ地区内の制圧に乗り出した。10月28日、イスラエルのネタ

          激化するガザ情勢②

          ガザ情勢で分断される国際社会②

          パレスチナのガザ地区でのイスラエルとハマースの衝突から3週間が経た現在、国際社会は未だに一致した行動を取れずにいる。 国連安全保障理事会では衝突の発生以来4度の会合が開かれ、ガザでの停戦を求める決議案が5度採決にかけられたものの、いずれも採択に至らなかった(下表参照)。 決議案の採択にもっとも近づいたのは10月18日に提出されたブラジル案であり、採択に必要な9カ国の賛成を上回る12カ国の賛成が集まったものの、常任理事国である米国が反対票を投じることで拒否権を行使し、成立は

          ガザ情勢で分断される国際社会②

          ガザ情勢で分断される国際社会

          10月7日から続くガザ情勢への対応をめぐっては、ハマースによるテロ行為を強く非難することでイスラエルへの擁護姿勢を示す欧米諸国に対し、アラブ・イスラーム諸国はイスラエルによるパレスチナへの抑圧こそが問題の根源であると主張しており、大きな分断が顕在化しつつある。もっとも、欧米諸国、あるいはアラブ・イスラーム諸国も一枚岩とは言い難く、各国とも現地情勢の趨勢を注視しながら、自国の対応を探っている状況だ。 イスラエルをもっとも強く擁護しているのは米国であり、10月18日には国連安全

          ガザ情勢で分断される国際社会

          戦線の拡大が懸念されるガザ情勢

          ガザ情勢については前記事ご参照→「激化するガザ情勢」2023年10月15日 10月7日から始まったパレスチナのガザ地区でのイスラエルとハマースとの軍事的応酬は、10月19日現在、イスラエル側の死者数が1,400人超、ガザ側の死者数が3,500人以上となっており、イスラエルによる空爆の継続、あるいは地上戦が開始されれば、さらに被害は拡大していくものと見られる。 ガザ情勢の展望は地域を超えて国際社会の最大の関心事となっており、戦闘の停止や人道支援の実施は喫緊の課題となっている

          戦線の拡大が懸念されるガザ情勢