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真実建築&素晴屋がつなぐ、風景と文化の架け橋(台湾台北市)

はじめに

日本各地に存在する空き家を、地域が抱えている課題解決の糸口にできないか。その思いで始まったTHEDDO./スッド。
noteでは、THEDDO.メンバーの活動記録や空き家に対する思い、考えを発信するほか、既に各地で空き家問題や新たな場づくりに取り組んでいる方々への取材記事も掲載。空き家問題や空き家の改修・利活用を考える人々にとってヒントになるようなお話を紹介していきます。

プロフィール

取材したのは、台湾の不動産開発会社「真実建築」のCEO、陳佳蔚(Chen Chia-Wei)さん。住宅を建てるために土地を取得するデベロッパーであり、台湾のまちづくりに携わっています。
日本の文化を好み、台北市にて日本酒や日本の食品を販売する「素晴屋(すばらしや)」も経営中。「素晴屋」のバイヤー&店長、許芸芸(Hsu Yunyun)さんにも一緒にお話を聞きました。素晴屋の建物は築50年の古いビルをリノベーションしたものです。

「真実建築」のCEO、陳佳蔚(Chen Chia-Wei)さん
「素晴屋」バイヤー&店長、許芸芸(Hsu Yunyun)さん

ふたりは昨年、スッドの故郷・大隅半島を訪問

1930年代の日本統治時代に建てられた建物が改修の時期に入っている台湾。
素晴屋の常連さんである編集者の周(Chou)さん、Amazonエンジニアの羅(Lo)さんも交えながら、台湾のリノベーション事情をお聞きしました。

「昭和の日本」に集う、台湾の人々

陳さんと日本のつながりは、ご家族から。
おじいさんが京都大学で学び、お父さんも日本の企業で勤めていたため、甲子園や相撲を幼い頃から見ており、日本文化に慣れ親しんでいたそうです。また、お母さんは日本のドラマが好きで、時代劇を特に見ていたのだとか。今では陳さん自身、年に何回か訪日するほど、日本に愛着を持っています。
 
台北にある「素晴屋」も、陳さんの日本好きが大きく影響してできたお店。「台湾に『昭和の日本』をつくりたい」と、築50年のアパートの1階部分を改築しました。
 
普段はデベロッパーとして、都市開発やマンション開発など、街の賑わいを創出する大規模な仕事に取り組んでいますが、素晴屋では今までとは全く異なるプライベートな空間を作りたかったと話します。

「素晴屋」のエントランス
日本のお酒が所狭しと並ぶカウンター

素晴屋がある台北市瑞安街は、日本における白金台に近い街。比較的所得が高い人々が暮らしているため、より質の高い商品を求めると予測できたことから選びました。
 
▼素晴屋を紹介する台湾のwebメディア
素晴屋店内の写真が掲載されています。昭和型板ガラスやランプシェードの形など、昭和の日本を想起させる雰囲気が漂っています。

取材に協力してくれた常連の周さんと羅さんも素晴屋で知り合った仲。昼からお酒を飲めるお店が近隣にほとんど無いため、素晴屋によく通うようになり、顔見知りになったと言います。その地域に住む人の特徴や地域性をしっかり把握した場づくりを展開していることが伺えます。

日本人にとってもどこか懐かしさを感じる場所
老朽化が進む改修前、印象的な床面はそのまま残した

また、2023年10月には陳さんと許さんが中心となって、2泊3日で「素晴屋」の常連さんたちをお連れし、「素晴屋」に仕入れている日本食材の生産者さんや生産地を訪ねる旅(鹿児島県大隅半島)も企画、実現しています。場づくりから多様な文化交流、さらには観光交流までを行っている「素晴屋」のお二人が目指す未来とは。

「素晴屋」大隅半島ツアー(2023年10月)

「これからもたくさんの魅力的なお酒を輸入し、地域コミュニティを拡大したい」

と話すのは、2016年の開店当時から素晴屋のバイヤー&店長を務める許さん。日本の酒蔵さんとも交流を持ったり、お店のSNSだけでなく、自身のSNSでも情報発信を行ったり、積極的にお店づくりに携わっています。

▼素晴屋instagram
https://www.instagram.com/yoshilifetw/
 
▼Yunさんinstagram
https://www.instagram.com/yy_hsu/
 
建築とお酒、そして食文化で、台湾と日本を結ぶ素晴屋。
好きなものと風景、まちの特徴を融合させた、ここにしかない場づくりです。

歴史を伝えるためのリノベーション

長い植民地時代により、台湾の建築物は世界各国の建築様式が入り混じっています。1930年代の日本統治時代では木造家屋が建造され、第2次世界大戦の敗戦により日本が去ってからは、中国大陸から大量の難民を受け入れることになり、コンクリート製のアパートが急増しました。

築50年の建物をリノベーションして生まれた「Livingreen」(真実建築)
「Livingreen」は現在、まちの風景の一部となっている

また、建築物だけでなく、不動産所有の仕組みも日本と同様の制度が導入されています。日本と台湾、また韓国では土地と建物を別の不動産として扱っていますが、その他の国では基本的に不動産=土地のみを指し、建物は土地に付随するものと考えるのが主流です。
 
上記の仕組みから日本では、経年劣化によって建物の価値が下がる一方で、土地の評価は変わらないため、古くなった建物はすぐに壊して更地にするか、新しい建物を建てる状態が続いています
 
同じ仕組みを持つ台湾でも同様の事態が起こりそうですが、台湾では今もなお、日本統治時代に建てられた木造家屋が残っており、現在それらのリノベーションが活発になっています。陳さんのように、幼い頃から日本文化に慣れ親しんだ人々が増えていること。当時の建物を台湾の近代化が進んだ時代を象徴する「文化資源」と捉え、評価が高まっていることが主な理由です。
 
日本のリノベーション事情と比較して特に印象深いのは、市民参加型のリノベーションコンテストがあること。
日本のリノベーションコンテストは、建築家など有識者による投票や、改修対象の建物のデザインを決定するコンペ形式のものが多いですが、台湾では既にリノベーションされた建物の中でどれが優れていると感じるか、一般市民が投票・参加できる内容になっています。
 
素晴屋も2016年に「台北老屋新生大獎」にて「網路人氣獎(訳:インターネット人気賞)」を受賞しています。

 日本より高温多湿のためカビが生えやすく、木造建築の保存修復が難しい台湾。
その上で起こっている今のリノベーション活況は、建物が伝える歴史の濃さと、その姿に自国のアイデンティティを見出す、人々の歴史に対する関心の高さが生み出しているのかもしれません。

真実建築&素晴屋のつなぐ架け橋は広がり続ける

<編集後記(スッド)>

実はTHEDDO.メンバーが以前より、大隅半島の産品輸出で長らくお世話になっている陳さんと許さん。台北市にある「素晴屋」も数年前に訪れたことがあり、とてもユニークで素敵な場づくりの背景を一度お伺いしてみたいと思っていました。
今回はたったひとりの情熱や憧れが、どのように周りの環境や場づくりに良い影響を与えることができるかというお話をお聞きできました。どんなに素晴らしい場所でも、最初にはたったひとりの思いや情熱があったこと。大隅半島は地理的に、台湾が近く、気候条件やそこから風土も似ていると気付かされる部分が大きく、これからも多様な交流を通じて、大隅半島の場づくりにも参画していただきたいなと思っています。
 
(編集・執筆 坂本彩奈)

<参考資料>
香港への難民の流入
http://www.prj-wakai.com/wakaidict/709/
 
台北の建築から見る歴史の変遷
https://www.travel.taipei/ja/pictorial/article/24839
 
空き家問題を世界と比べて考える。解決策は集約、予防、促進
https://www.homes.co.jp/cont/press/buy/buy_00773/
 
2023年台湾における、建築再生の潮流
https://www.kenbiya.com/ar/ns/jiji/architectural_k/7327.html
 
台湾の税制改革による不動産市場の影響
https://www2.itc.kansai-u.ac.jp/~hkyoji/PDF/2022sushuron.pdf

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