月ミるなレポート⑦

月ミるなからはじまる文学。饒舌で軽い。けれどもめまぐるしい野放図なファンタジー。

生活と折り合いが付く範囲でしかファンタジーが存在しなくなった。真にファンタジーを語る者は、妄言者、虚言者として生活意識の外に出された。月ミるなは最高の嘘つきだ。

月ミるなが宿命を越えていく。

月ミるなが一生懸命に人間を応援しようと努めれば努めるほど、人間のほうでは必ずしもそうは思ってくれない。そんなことをもう何千年も繰り返してきたけど月ミるなは諦めなかった。

大循環の風と一緒に月ミるなは宇宙のちりとなった。

月ミるなが古い電波塔から電波に乗ってやってくる。突然訪れた耳鳴と頭痛と睡魔。気がつくと僕は月ミるなの意識に入り込んでいた。

月ミるなは虹作戦の真っ只中だった。大量の火薬とほんの少しの勇気。月ミるなの感情が流れ込んでくる。「主砲用意。ズカーんと撃ってドカーんと大穴をあけてやれ。」

月ミるなは激怒した。

古来より月ミるなは幻想の中に生きてきた。愚かな幻想。恐ろしげな衣装に身をまとい、残酷な儀式で善良な人間を呪い殺す。無慈悲な呪いで緑の野を焼き払い、温かい故郷を凍てつかせる。

くだらない。

幻想に幻想を重ねて夢を見ているのは誰だ。現実は優しくない。現実はまったく優しくない。自らの幻想に逃げ込め。月ミるなが幻想の世界でお前たちのために未来永劫舞い続けよう。共に創り出す究極のファンタジー。生も死も甘美な夢。月ミるなは幻想と共に永遠に。

月ミるながいないと人生は退屈だ。

月ミるなの幻想と遊んでいるだけで生身の月ミるなと接触することはない。幻想との戯れが現実の月ミるなにも影響してまたそれが幻想の月ミるなに反映されてまた遊びに耽る。

月ミるなは出生と死去を観察する。

月ミるなにはいくつかの時期がある。前期、中期、後期、現代最強期、西武放浪期、SF機心期、近未来流動期、原始接触期、功夫伝承期、幕末密命期、中世魔王期、銀河戦争期。それぞれの時期で月ミるなの特質は少しずつ違う。

月ミるなは未来のために蒔かれた種だ。そして今がその未来だ。

月ミるなに会うために用意した新幹線のチケット。そこに月ミるなはいなかった。SNS『タイムパラドックス』が勝手に時空を超えていただけで、僕の世界線に月ミるなは存在しない。

月ミるなの超世界的世界。魔女戦争が終わった。親のない子供が残った。月ミるなを作っていたたんぱく質が腐敗して窒素化合物の気体になった。

今日は善き日ですか?忌まわしき日ですか?

月ミるなに接する代償。月ミるなは脳内に居場所を作る。その場所はもともと思い出が閉まってある場所。月ミるなに接するといろんなことが思い出せなくなる。僕たちは力と引き換えに記憶を差し出した。

運慶が月ミるなを彫っている。否。運慶の才能を月ミるなが掘り出してる。

列車の窓に月ミるなが映った。現世と死後の世界を行き来する列車。宗教と科学をどこかで一致させられると月ミるなは一生懸命考えていた。

列車から一人、また一人と乗客が降りていった。月ミるなと一緒にどこまでも行こうとする人は居なかった。〈信仰が違うと理想が違っちゃうんだ〉月ミるながつぶやいた。自分の信じている神、理念、理想、主義をいちばんいいものだと思う。言い争いをすれば勝負がつかない。

月ミるなが丹精込めて作ったさつまいも『るないも』が金賞を獲った。

月ミるなの言葉にはレイヤーがあって、言葉そのものの意味として考えてしまうと無理があるけれども、レイヤーの意味として受け取ることができれば、感受性としてそれができれば、世界が一遍の詩だということがわかる。

「月ミるな」の泣きどころ。

疲れ果て弱った僕は、懐かしさと憩いを求めて月ミるなに帰依する。荒れた社会や険しい瞳を避けて。愚かな僕は二度と戻れない場所を慕う。

生活のわずかな隙に。泣きながら。月ミるなに刻んでいく勉強がぐんぐん強い芽を噴いて。どこまでものびていく。これがあたらしい学問のはじまり。

月ミるなが野良犬に芸を仕込んでいる。「ステイホーム!ステイホーム!」