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今泉力哉「窓辺にて」

三歩進んで二歩下がる。あるいは。二歩下がって三歩進む。微細な変化を精緻に描き出すための二時間半。
彼は最初から最後までほとんど変わってないように見える。しかし彼は確かに変化をしている。
愛を観察し関係を見直して人との付き合いを新しく始める。彼にとっての新たな出会いは新たな関係、新たな人生への一歩だ。新進気鋭の作家とその恋人、そしてその叔父。三者三様の出会いが待っている。
彼の態度は一貫して何も変わってないようだ。しかしさらなるもうひとつの出会いが、ふとした出会いが、予期せぬ出会いが、彼にまったく新しい価値観を引き寄せる。
その名前が水にまつわるものであるのは偶然ではないだろう。やがて行き着く場所なのだ。新たな出会いは何事もなく流されていくものではなく、出会いが出会いを呼んで、積み重なっていく。
あるいは劇中、幸運を呼ぶあるものに例えるなら、出会いという流れに身を任せることで彼の心は研磨され、新たな形を手に入れる。それはまさしく変化の到来への一歩なのだ。
人と人が出会うことの何気なさのなかに人生を変化させる材料は揃っているのだということに気づかせてくれるような映画である。
淡々とした長回しで見せる俳優たちの生き生きとした姿は相米慎二のショットさえ思い出させるけれども、今泉力哉の描き出すものはそれよりもぐっと静かで、変化の兆しという淡い光を放っている。
心の中の躍動感を、俳優たちは伸び伸びとした演技のなかに煌めかせている。

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