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【横断 #3】誰かの人生を変えるメーカーとしての喜び

松下 信哉さん


 香川県の印象を聞けば、「うどん」かもしれない。でも県内のあるエリアだけで国産シェアの90%を産出するものがある。香川県は実は「手袋の町」としても知られる。

 松下さんは、香川県の手袋メーカーである『株式会社レガン』のスポーツ事業部に籍を置く。「障害に携わるような原体験はまったくない。でも、メーカーとしての喜びを得たんです」。


 頸椎損傷を負った、地元香川のパラ卓球の選手が、市販の手袋を自作でハンドメイドして使っている。そう耳にしたことが最初のきっかけだった。どういう機能が必要なのか聞けば「(社内で)できるんじゃない?となりオーダーメイドで製作して差しあげた」。その結果、その手袋は東京2020パラリンピックにも出場することになる。

 ただ、松下さんが「自分たちの会社がもつ価値を本当に認識した」のは、その次の機会だった。その香川のパラ卓球選手の紹介で大阪の選手に、今度は手のサポーターを製作して差し上げた。普段直接話せば明るいその人が、商品ページ用のインタビューをオンラインでお願いすると、真剣に話し始めた。「(レガン社に)つくってもらったサポーターのおかげで、ずっと卓球が続けられる、人生が変わった」。

 「それまでは、正直さほど熱量が高いわけではなかった」松下さんが、「それを思い出したら涙が出そうになる」と振り返るほどの感動だった。この障害者スポーツを支援する事業を「全力で3年やらせてほしい」と会社に訴え、走り始めた。


 当初社内からは「人それぞれバラバラで、すべてオーダーメイドではビジネスにならない」と言われた。他の手袋メーカーもかつてトライしたが、同じ理由でとん挫していた。でも、諦める理由にはならなかった。

 「誰も耕していない畑なんで、すぐにレスポンスがあるんですよ」。人に聞き続ける中で、手袋やサポーターを軸に「深さではなく横を広げていく」自信が見えてきた。

 例えば、「競技ごとではなく、行為ごとのアプローチ」。握る行為や体を止める行為として捉えれば、卓球だけではなく、テニスからカヌーまで「70-80点は取れそうな感覚がある」。もちろん、それで競技世界一にはなれないかもしれないが、「多くの人がパラスポーツを楽しめるようにはなる」。それも、“横に”市場を広げることにつながる。今後はさらに市場を広げるために、香川県を飛び出し、東京を中心に全国に施設訪問やイベント参加に飛んで「自分たちを知って覚えてもらう」予定だ。

 他にも、同じ香川県で視覚障害者向けのモノづくりの会社ともつながったことで、寒い中でのスマホ操作など「ハンディキャップのある方の生活をよくする」新しい視点で手袋が貢献できる道も見えてきた。

 そうした先として「海外市場にも期待している」など、目標は大きい。


 2023年10月に、株式会社レガンとして、「パラスポーツを通じてみんなが個性を発揮できる未来を目指す」TOKYO発のチーム『TEAM BEYOND』のメンバー企業になった。「加入したからには、やらないとね」と、松下さんはニヤッとされた。

 なんでこのインタビューを受けてくれたんですか?と聞くと、「記事が配信されれば、覚悟のレベルが上がる。ここまでやって辞めるのはあり得ないでしょ、となる。それで受けたんです」。

 会社としても個人としても、もう腹は据わっている。


▷ 株式会社レガン


▷ TEAM BEYOND



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