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【みみ #7】幼稚園の伝言ゲームが気付かせた片耳難聴

佐瀬 文一さん(前編)


 第6話でご紹介した高木さんは、小学生の時に見舞われた『突発性難聴』がきっかけで右耳が全く聞こえなくなった『片耳難聴』。一方で、今回ご紹介する佐瀬さんは生まれつき左耳が全く聞こえない『片耳難聴』だ。


 佐瀬さんが先天性の左耳の『片耳難聴』に気付くきっかけは、「幼稚園でよくやる伝言ゲーム」だった。園児がみなで同じ方向を向いて一列に並び、左側から伝言がやってくる。

 佐瀬さんは、左耳が聞こえないこと自体は「幼少期から自覚があった」が、そもそも「片耳が聞こえないことを問題だと思っておらず、不便さもわかっていなかった」。そのため、先生に「伝言ゲームできません!」と宣言したことで、先生が親に連絡をして、発覚した。検査のため病院へ向かう車内で、初めて「これは大変なことだったのか」と不安を感じていたそうだ。


 佐瀬さんの左耳の聴力レベルは、85dBHL(デシベル・ヒアリング・レベル)。これは85 dBまでの大きさの音は聞こえないということだ。具体的には、聞こえる右耳をふさぐと「楽器の音・救急車のサイレン(80dB)」などは全く聞こえず、「鉄道のガード下の音(90dB)」「工場現場の騒音(100dB)」「ジェット機の音(110dB)」程の大きな音で,やっと聞こえるという実感になる。


 ちなみに、難聴には二つの種類がある。そもそも耳の構造は外側から順に外耳→中耳→内耳と呼ばれるが、空気の振動である音が内耳までうまく伝わらない『伝音性難聴』と、伝わったとしてもその音を電気的に処理して脳に伝える処理に問題がある『感音性難聴』の二つだ(詳しくは、片耳難聴の当事者組織『きこいろ』さんのHPをご覧いただきたい)。

 このように、『片耳難聴』は、先天性・後天性や聴力レベル、難聴の種類など「個別性が強い」。ただ、共通することは「原因不明の場合が多く、予防や対処が難しい。故に誰にでも起こり得る」ことだ。


 さて、『片耳難聴』のある人が日常生活を送る上での困りごとは大きく3つ。1️⃣「難聴耳側での聴き取り」、2️⃣「騒音下での聴き取り」、3️⃣「音の方向知覚」。佐瀬さんは、各項目の具体例をわかりやすく教えてくれた。


1️⃣ 難聴耳側での聴き取り

 【美容室】聞こえない耳側に立ってカットされた時に話しかけられると、途切れ途切れになり正確に聴き取れなくなる。「こんにちは」は「こ・・ちは」のように。
 【車の運転】日本製は右ハンドル。左耳難聴の佐瀬さんの場合、助手席の声はとても聴き取りにくい。佐瀬さんは運転免許を取得したが「運転はしていないし、したくない」。
 【エレベータ】右側にいる人と話しながらエレベータ内に入ると、普通はそのまま反転して扉側を向き直る。当然、話し相手の位置が左側に変わる。故に、突然話せなくなり、場所を換わってもらう必要がある。


2️⃣ 騒音下での聴き取り

【ガヤガヤした場所(パーティー会場・居酒屋)】【工場など常に機械音がする空間】「話しているということはわかるものの、周りの騒音に負けて聴き取れない」。聞こえる右耳側の、それもすぐ近くにいる人としか会話はできず、少しずれて「斜め前になるともうアウト」なのだそう。


(3️⃣ 音の方向知覚は、後編に続く)



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