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【こえ #39】気にせず使える電気式人工喉頭(EL)を

佐野 榮さん


 喉が「ちょっと調子悪いぐらいだった」と思っていたある日、淡に血が混じった。近所のお医者さんに行くと大病院を勧められ、『下咽頭がん』であることが発覚した。放射線治療や抗がん剤治療を1年ぐらい続けて「治ったと思ったけれど、調子が悪く」、愛知県がんセンターにかかった。その時は、「もう切るしかなかった」。

 喉頭(空気の通り道であり声帯を振動させて声を出す働きもする)を摘出する手術を行うとともに、併せて一部切除した食道(食べ物の通り道)に対して小腸の一部を採取して補う形移植する空腸移植再建手術も行った。


 声を失って、取り戻すコミュニケーションの最初は筆談からだった。食道に空気を取り込み、食道入口部の粘膜を新たな声帯として振動させ発声する『食道発声』に取り組んでみたが、自身に残された“空気や食べ物の通り道”との「相性がしっくりこない」。最終的に、デバイスによる振動を喉へ押し当てることで音を出す『電気式人工喉頭(EL)』をコミュニケーションの手段として使うようになり、もう4年半になる。

 それだけ使いこなすようになった今でも、「初めての相手だと言葉が伝わりづらいので、筆談にしてしまう」。例えば、『電気式人工喉頭(EL)』を使うときは、「あえて“は行”を使わないようにしている」。それほどに、デバイスの構造上、“は行”を表現することが難しい。また、デバイスを通じて「高い声が出にくくなる」故に、特に女性として使いづらさがあることも教えてもらった。


 しかし、それは、デバイスが改善していくことへの期待の裏返しでもあった。佐野さんが現在使用している『電気式人工喉頭(EL)』は、第5話でご紹介した須貝さんが初めて開発に着手し、現在は第6話でご紹介した西田さんが改善を続けている、電制コムテック社の『ユアトーン』だ。そのデバイスを喉に当てながら「少しでも機械音がなくなるようになればいいね」という期待の“声”が発せられた。

 第16話でご紹介した竹内さんや第17話でご紹介した荒木さんが取り組む、首にかけるタイプでハンズフリーの『電気式人工喉頭(EL)』である『Syrinx』については、「重くは感じなかったけれど、ノイズがもう少し小さくなればいいね」。第9話でご紹介した戸原さんや第10話でご紹介した山田さんが取り組む、マウスピースとして口の中に入れて音を鳴らし、話すように口を動かすことで「声」を出すことをサポートする『Voice Retriever』については、「まだ試せていないけれど、(マウスピースの)型を取る必要がなければ、是非試してみたいね」。

 どの製品にも、ご自身の不自由を改善してくれるものとエールを送り、その時にメガネの奥に生まれる素敵な目皺が印象に残った。


 佐野さんには、愛知県で声帯を摘出し声を失った人に対して発声訓練を通じて社会復帰を支援する『愛友会』でお話をお聞きした。このような組織が維持存続し、それぞれの地域で声を失った方々の力になり続けることはもちろん、地域問わずそうした方々の力になりたいとデバイスの改善に日々取り組む開発者たちの力にもなり続けるのだと強く感じる時間をいただいた。


▷ 愛友会



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