見出し画像

【め #27】視覚障害のあるユーザーのフロントは自分

大澤 和澄さん


 大澤さんは、第19話及び第20話でご紹介した千野さんが代表を務める、スマートフォンアプリと靴につける振動インターフェースで視覚障害者の歩行をナビゲーションする『あしらせ』を開発・販売する株式会社Ashiraseで、顧客の成功体験を実現する『カスタマーサクセス』というポジションで活躍されている。


 前々職はBtoBの企業に勤め、仕事の目的はあくまで「企業のメリット」だった。前職はBtoCで人の生活へのサービスを提供する企業だったが、他のサービスでも代替でき、「なぜ自社であるべきか価値の訴求が難しかった」。

 一方で、今の会社が開発する『あしらせ』は、視覚障害のあるユーザーにとって一人で外出できる、生活が豊かになるなど、「人の生活がキラッとしたものになり、人の人生に関わることができる」。振動でナビする発想も他にはない。「飛び込んで、船に乗ってみよう」と参画を決めた。


 「めちゃくちゃ当事者の方にお会いしています」。オンラインだけではなく、まだ製品を体験していない方のもとにも足しげく通う。そんなユーザーの方々が製品について「どう感じているのか、深く関わってニーズを深くうんうん考えるのが好き。いかに深く濃く関われるかを大事にしています。」と楽しそうに話してくれた。

 そんなユーザーの方々の声から会社としていま最も力を入れているのが、ナビの精度の向上だ。横断歩道がないところや、狭い路地に入ってしまうような単純な最短距離のルート設定ではなく、曲がり角や信号が少ないなど視覚障害者にとって望ましいルート設定を選べるように工夫している。大澤さんは、自分は技術者ではないと前置きした上で、「すごい難しい技術だと思うけれど、みな一丸となっていて、すごくワクワクする。」とやっぱり楽しそうに話してくれた。


 もちろん、課題はナビの精度だけではない。「めちゃくちゃ毎日意見をもらっています」。挙がった改善項目は40以上にも及び、ユーザーの意見とエンジニアの開発意図の間をつなぐことで、社として「その多くを解決してきた」。

 最近では、そうした意見や所感を届けてくれるユーザー層もじわじわと広がっている。大澤さんはそれに嬉しさを感じつつ、今後「初めてお会いするようなユーザーの方が増えていったとしても、社内でお客さんの温度感を最も知る存在でいたくて、だからどん欲に関わりを持ち続けたい」と決意表明のように話された。その後に続けた一言が、今でも印象に残る。「そこは最低限ですから」。


 最近「グサッと刺さった」、代表の千野さんの言葉がある。「クルマだと、会社にとって100万分の1の製品でも、顧客にとっては1分の1という言い方をする。そういう気持ちでやろう」。それを聞いて、大澤さんも、例え「1000分の1の意見でも、なぜそういう意見が出たのかをどん欲に考える立場でいたい」と自分自身の立ち位置を再確認した。

 大澤さんが教えてくれた。『あしらせ』は、視覚障害のあるユーザーに「安心感をもってもらうための製品」。でも、その製品だけに留まらず、「安心して意見を言えたり問合せできたりするところまで、会社全体として安心感を持てないといけない」。再び、その後に続けた一言が、忘れられなかった。「そのフロントが自分」。


 大澤さんは、株式会社Ashiraseに入社して初めて視覚障害者と仕事上での接点を持った。それでも当事者の課題と愚直に向き合う中で、その人たちの生活や人生を向上できる製品にのめり込んでいった。大澤さんのように、例えそれまで周囲に馴染みがなかったとしても、多様な障害当事者との接点を契機に社会課題解決に真剣に取り組んでいく。そんな人が少しでも増えてくれればいいと、大澤さんのお話をお聞きしながらずっと考えていた。



▷ 株式会社Ashirase




⭐ ファン登録のお願い ⭐

 Inclusive Hubの取り組みにご共感いただけましたら、ぜひファン登録をいただけますと幸いです。

 このような障害のある方やご家族、その課題解決に既に取り組んでいる研究開発者にインタビューし記事を配信する「メディア」から始まり、実際に当事者やご家族とその課題解決に取り組む研究開発者が知り合う「ミートアップ」の実施や、継続して共に考える「コミュニティ」の内容報告などの情報提供をさせていただきます。


Inclusive Hub とは

▷  公式ライン
▷  X (Twitter)
▷  Inclusive Hub


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?