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硯考 なぜ濃墨をうすめるのですか?

今回はすみすりのはなしです。
墨を磨るときに、濃い墨を磨ってからうすめるようにとよく言われます。
さてどうしてでしょう。

結論を先に言うと、こうするほうが墨が細かく均質になるからです。

まず最初に、絵の具を例にして説明します。

絵の具をチューブからそのまま水に落とすとなかなか溶けません。
これは小さな塊ができていてすぐに溶けないためです。
一方、一度少量の水で塊をほぐしてから水を加えるとすぐに細かく溶けます。

二つ目の例はココアです。ココアの粉は微粉末ですからそのまま温ミルクに入れても玉になってうまく溶けません。最初に少量の温ミルクで溶いてぺーストを作ってからうすめます。

墨を磨るとき、磨った墨を順次、池に落としてしまうと、粗く磨れた大きな墨の粒子がそのまま池の中に入ってゆきます。
一方、濃い墨を作りよく墨堂でよく練った墨は、その過程で大きな粒子が細かくなります。この細かくなった濃い墨を少しずつ水中に薄めると均一に分散した墨液ができます。

大きな墨の粒子はその数が多くなると墨色に変化を起こします。大きな墨の粒子は光を吸収し艶消しの効果を生み出します。
逆に、細かく磨った墨は光を反射し艶が出てきます。一般的には艶があったほうがいいのかもしれませんが、これは好みの問題でしょう。
古墨などは経時変化で粒子が粗大化しているため、基本的には艶消しの傾向になります。

このように墨は磨り方によっても変化が生まれます。このようなしくみが分かってくると、墨色の表現も豊かになってきます。




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