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【実機レビュー】Khadas tone 2 pro

目次
■はじめに
■ハードの印象(大きさなど)
■比較試聴
■結論

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《まとめ》
・Androidとつなげて外でポータブルアンプ的に使うのであれば最適
・実質バランス接続必須で強みがMQAであるため中上級者向け
・本体の3.5mm出力は使い物にならない
・MQAフルデコードをこの価格で行えるのは驚異的


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■はじめに

 Khadas tone 2proの実機レビューをしていきたいと思います。普段はTwitterで感想などをつぶやいているのですが、Khadas tone 2proを大変気に入ってどうせなら字数制限がない環境で感想を書き記したいと思ったのでNoteを使って感想を書きたいと思います。

 なお、私は自費で購入しており早割で169ドルで入手しました。現在は199ドルでHifiGoなどから入手できます。依頼レビューなどではなく、この記事により収入の類は一切得ていないため公平な立場で記すことができていると考えています。

 Khadas社はVimシリーズというシングルボードコンピューターを作っており、オーディオ界隈ではKhadas tone board(今はKhadas tone 1と呼ばれている模様)で知られています。Khadas tone boardは日本で1万円以下で実際に入手可能という低価格なDACでありながら、可聴域にてジッターノイズが存在しておらず、I2S接続も可能であるとしてそのコスパの良さからASR(Audio science review)やHead-fiで大変話題になりました。

 Khadas tone 2 proはKhadas tone boardからDAC・XMOSチップを更新しただけでなく200ドルでMQAフルデコード可能であり4.4mmバランスヘッドホン出力ができるという同価格帯の他製品と比較して驚異的な性能を誇り発売前から注目されていました。
 MQAデコードに対応するためにはライセンス料を支払わなければなりません。そのためガレージメーカーのDACでは要望がありながらも採用されないことが多く、Toppingのような大手メーカーでもハイエンド機のみにしか採用されておらず、このことを考えれば200ドルでMQAフルデコードできるすごさがわかると思います。(MQAの是非についてやその仕組みについてはここでは触れません。各自調べてください。)

 Khadas tone 2 proの特徴として4.4mm端子とMQAデコードのほかに、Balanced RCAという独自端子を搭載したことが挙げられます。
 これは普通のRCA端子としてアンバランス接続ができるだけでなく、別売されているケーブルを使いXLR変換することでバランス出力ができるというものです。Khadas社はこの端子を広めたいようで他社製品にも今後採用されるかもしれません。ただ、普通のRCAと外見上の見分けがにつかないためユーザーフレンドリーでなく、XLRと比べた際のメリットも端子半径が小さくなる以外に思いつかないため他社で採用が広がるかは不透明です。
 XLRとの変換ケーブルは購入しているのですが、フルバランスアンプは現在納入待ちで手元にないため今回のレビューではBalanced RCAについてのレビューは行いません。今後フルバランスアンプが届いたら加筆する予定です。

 なお、このレビューでは私の感覚での感想にとどめて測定などはしません。測定レビューはAudio science reviewにて詳細に行われているためこのリンクから飛んで読むと良いと思います。
 基本的には高評価ですが、低サンプリングレート時にて全周波数帯にわたり歪みが発生してしまうことが指摘されており、聴覚的にも同じように感じました。今後アップデートで修正されるかもしれません。

■ハードの印象(大きさなど)

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 DACとイヤホンアンプの双方がクレジットカードサイズにまとめられていることは素直に驚きを覚えます。また、高さは20mm以下で非常にコンパクトに収められておりポケットに入れて持ち運ぶことができます。

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(メジャーが汚くてすみません…)

 筐体はアルミニウムでできておりマットな手触りになっています。アルミ製のため壊れにくく質感もあるため200ドルの製品とは思えない所有感があります。目を引くノブはカチカチとした触覚フィードバックがありこの点でも好印象を覚えます。
 長時間使っていると少し熱くなりますが触れないほどではなく排熱もきちんとできている証拠でもあるため大した問題ではないでしょう。

 Head-fiなどではノブでの操作が大変不評ですが、私はすぐになれることができました。多少複雑ではありますが、1時間ほど使っていれば慣れるレベルでありHead-fiなどでの指摘は多少過剰ではないかと思います。公式が動画にて使い方を説明しているようなのでいまいちノブ操作が馴染まなかった方はそれを見てみるのも手だと思います。

 強いて不満点を述べるとすればLEDがノブの下側にあることです。覗き込まなくては簡単に見えない位置にあり、現在のボリュームその他を把握するためには持ち上げなくてはなりません。これは間違えなく使用上のストレスです。また、モードの選択がLEDの色によってのみ示されるので色盲の方などは使用に支障をきたす可能性があります。

■比較試聴

 DACの性能とアンプの性能の双方をそれぞれ比較していきたいと思います。あくまで私の聴力に依存したレビューなので主観的なものとしてとらえていただければと思います。

 比較する機材は、DACではApple社のType-C to 3.5mm変換ケーブル・Khadas tone board(Khadas tone 1)・Soncoz SGD 1の3つを使います。
 アンプはFiio A5を使います。本来は性能を生かすためフルバランス接続のヘッドホンアンプを使うべきですが前述したように今手元にないためできません。来月にはSchiit Jotunheim 2が届く予定のため今後加筆したいと考えています。
 イヤホン・ヘッドホンはMoondrop Chaconne(2.5mm)・AKG K550の2つを用います。双方ともインピーダンスが低いため上流の影響を受けやすくレビューに適していると思います。

 ちなみにSoncoz社はKhadas tone boardを設計したBen1987氏が独立してできた会社でありSoncoz SGD 1は同社のフラッグシップDACプリアンプです。Ben1987氏がKhadas tone 2 proの設計に関わっているかについて私は寡聞にして知らないのですが、この機種と比較してみるのは面白いのではないかと思います。

 試聴に使用する曲はTidalにてArt blakeyの『Are you real(remastered 2013)』(MQA)とHeather novaの『London Rain (Nothing Heals Me Like You Do)』(これは非MQA)。Spotifyにて大原ゆい子の『オンリー』、Lucky kilimanjaroの『350ml galaxy』を使います。
 私は普段ポップスやダンスミュージックを聞き、ジャズを最近聞き始めた程度なのでそこを割り引いて考えていただけると幸いです。

 試聴は、まずアンプについて比較を
①Khadas tone 2 pro単体(3.5mm)
②Khadas tone 2 pro単体(4.4mm)
③Khadas tone 2 pro+Fiio A5 で行います。
 次にDACについて
③Khadas tone 2 pro+Fiio A5
④Soncoz SGD 1+Fiio A5
⑤Khadas tone board+Fiio A5 で比較して、最後に参考として
②Khadas tone 2 pro単体(4.4mm)と⑥Apple Type-C変換を比較します。これは、外出時の普段使いを想定した比較です。
 なお、電源は一家に一台転がってるであろう(?)中華製の謎の5Vリニア電源を使います。USBパスパワーでなく電源にもこだわれるという所も一応セールスポイントらしいので活用しておきます。

◆アンプ比較◆
①Khadas tone 2 pro単体(3.5mm)
 第一印象として音が細い、これに尽きます。『Are you real』でトランペットの質感が全く感じられなかったことが特に印象的でした。『オンリー』では背景の楽器の表現できていないように思えました。ヘッドホンにおいてはその傾向は顕著でk550を鳴らし切れておらずほかのヘッドホンにおいても同じ傾向だろうと思います。試しにBeyerdynamicsのDT990proをつないでみたのですが、音量こそ聞けるレベルまでとれるものの、低音・高音とものDT990proのよさを引き出せてなく、論外だと感じました。

②Khadas tone 2 pro単体(4.4mm)
 全体的な雰囲気は3.5mmと変わらないものの、バランス接続であるためか左右の分離感は3.5mmアンバランスよりも優れていたというのが総合した感想です。また音の機敏はアンバランスよりかは表現できていたように思えます。一方で『オンリー』ではアンバランスと同様にメロディーライン以外の音の表現に欠ける印象です。『350ml』は曲調が単純なためか総じて見通しがよく感じました。ヘッドホンでは全体的な印象はアンバランスと変わらないのですが、『London rain』でベースの質感が悪くないように感じました。

③Khadas tone 2 pro+Fiio A5
 明らかにKhadas tone 2 pro単体よりも音が太く、低音から高温までの見通しの良さを感じました。『London rain』では上下方向にも音場が広がり一体とした音像を感じられました。これは裏を返せば、Khadas tone 2 pro単体では上下の音場の表現ができていないということなのだと思います。

◆DAC比較◆
③Khadas tone 2 pro+Fiio A5
 繊細で派手な音ではなく、楽器同士の分離感はあまりなく『Are you real』では音がダマになって聞こえるように思えました。半面、『London rain』ではボーカルが前に出てくる印象でボーカルのHeather novaの声の美しさを感じ、ジャンルを選ぶなという印象を受けました。ということはKate Bushが合うのではないかなと思い、『Moving』を聞いてみたのですが、予想通り声が前に伸びてくる印象を受けポップスとの相性の良さを感じました。ただ、高音域の伸びは微妙なようで、『350ml』のシンバルは多少ではありますが割れるように思える場面がありました。
 また、『オンリー』でのイントロの空気感のよさも印象に残りました。

④Soncoz SGD 1+Fiio A5
 あくまで、Khadas tone 2 proのレビューなので詳しくは述べませんが、聞き比べていると楽器の分離感の良さを鮮烈に感じました。特に『London rain』ではギターの弦の弾く具合まで分かるように思え、据え置きのDACのレベルの高さを改めて知れましたが、Khadas tone 2 proとは価格帯も違うので単純比較はできません。

⑤Khadas tone board+Fiio A5
 平面的な音に感じると同時に中央での音像の定位は不十分であると思えました。ただ、これは左右の広がりがいいとも言い換えらるので個人の好みの範疇だと思います。平面的であるためか、『350ml』ではグルーヴ感がなく、盛り上がりに欠けていました。

 参考程度にAppleのType-C変換と聞き比べてみましたが、低音への見通しの良さを始めとしてKhadas tone 2 proの方が数段よく感じました。ただ、音の立ち上がりのよさはAppleの方が上であり、1000円ほどの小型の変換ケーブルでありながら感心しました。

 また、音源の比較としてSpotifyとTidalにて『Are you real』の聞き比べを軽くではありますが行いました。なお、Spotifyは最高音質設定であり、TidalはMQA音源の192kHzです。
 私個人としてはサンプリングレートによる音の差はそこまで大きくないと思っているのですが、今回の聞き比べではMQAとSpotify音源の"差"といったものは感じました。ただ、Spotify音源もまとまりがあり、聴きごたえがあるように個人的には感じたのでどちらが良いというものではないように思えます。
 蛇足にはなりますが、Daphileというオーディオメディアサーバーを使えばSpotify音源でも他の高サンプリングレートのPCM音源に劣らない音を鳴らしてくれます。特に音の広がりや立ち上がりの良さを感じさせてくれるので余裕がある方は試してみるといいかと思います。無料であり、余っているPCがあればすぐに試せる門戸の広さもありおすすめです。

■結論

 以上の比較から感じたことは3点にまとめられます。
1.本体のアンプはおまけ程度であり、特に3.5mmは使い物にならない。
2.DACとしては据え置きにはかなわないものの十分良い、特に前作のKhadas tone boardからの進歩を感じた。
3.MQA音源を使うことによる違いを体感することができる。

 値段や、そのサイズから考えればKhadas tone 2 proの性能は十分に満足することができるはずです。電車の中ではポケットに忍ばせてバランス接続で音楽を聴き、カフェなどで座って荷物を広げた際にはポータブルアンプとつなげて音楽を楽しむことができます。職場の机の上にフルバランス接続ができるヘッドホンアンプなどを置いておき、Khadas tone 2 proとつなげて楽しむなんていうことも可能でしょう。
 199ドルという安価かつクレジットカードサイズの小型の筐体でここまでの音を鳴らしてくれる製品はほかに思いつきません。Toppingのエントリー機も十分に音がいいですが、大型でありまた電源もアダプターが必須であるかUSBパスパワーのみの対応で、持ち運びが楽にできるものではありません。

 これまでのレビューでは触れませんでしたがAndroidスマートフォンとの接続もストレスレスに行えました。私はSamsungのスマホを使用しておりiBassoの小型DACなどで接続不良が報告されていたため、接続時になんらかの問題が生じるだろうと踏んでいたのですが何も不具合なく接続でき暖簾に腕押しの気分でした。公式でもAndroidと接続できると明記されていたのでドライバーを作りこんでいたのでしょう。
 また、電源がUSBパスパワー以外にとれるというのも持ち運びという面では大きな利点です。既存のスマホ接続できるUSB DACはスマホ本体の電池を大きく消耗してしまうことが欠点として挙げられていました。Khadas tone 2 proは電源を他からとってくることができるため、モバイルバッテリーと接続することによりモバイルバッテリーのクリーンな電源というメリットを享受できるだけでなくスマホ本体のバッテリーの減りを抑えることができます。これは意外と触れられていない長所だと思います。

 一方で本体のアンプが非力であることは大きなマイナスポイントでしょう。3.5mmの音が満足いくものでない以上バランス対応のイヤホンを一本余計に持ち運ばなくてはならなくなります。当たり前ですが、アンバランスイヤホン・ヘッドホンを変換ケーブルを使ってバランス端子に接続するのはマイナス出力がショートしてしまいアンプに負荷をかけることになるのでよくありません。
 また、私の記憶が正しければTidalのAndroidアプリはMQAに対応していないためパソコンを広げられない出先ではMQAフルデコードができるというKhadas tone 2 proのメリットを生かしきれません。
 そのため、非力なKhadas tone 2 proのアンプに期待せず手持ちのポータブルアンプにつなげたい、かつTidalなどを契約しておらずMQA音源をつなげることがないような人はKhadas社が予告しているproなしのKhadas tone 2を待ってみるのもありでしょう。あくまで噂レベルですが、Khadas tone 2はアルミニウムの外装はなしの基盤ママ、MQAデコード非対応、アンプ非搭載でKhadas tone board並みの値段(一万円ほど)とKhadas tone boardの純アップグレード版となるようです。

 繰り返しとはなってしまいますが、Khadas tone 2 proは価格とサイズを考えれば素晴らしいDACアンプであることは間違えなく、この価格帯でMQAフルデコードできるという唯一無二の長所を持っています。
 非常に魅力的な製品であり日本でもさらに話題になればいいのにと思い、このレビューを記しました。財布に余裕があるのであれば購入して損をすることはない製品であると確信しています。

 なにか質問であったり、誤っている点などありましたらTwitterアカウントの方まで教えてくれると非常に助かります。

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