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ブルアカ『-ive aLIVE!』感想──放課後スイーツ部の距離感

 ブルーアーカイブのイベント「-ive aLIVE!」の感想です。同イベントの他に、イベント「甘い秘密と銃撃戦」や関係人物の絆ストーリー等の内容に触れています。

 ふだんはイベントの感想を書いたりしないんだけど、今回ばかりは興奮醒めやらぬという感じで書いている。それくらい良かった。
 前回の放課後スイーツ部イベント「甘い秘密と銃撃戦」はブルアカのイベント全体のなかでもトップクラスに好きな話で、「-ive aLIVE!」はその流れを汲みつつさらに期待を上回ってきた。演出もリッチで、「陽ひらく彼女たちの小夜曲」から続く音楽ネタの描き方にも磨きがかかっていた。

 平凡な学生生活を望むカズサが「キャスパリーグ」としての過去と縁を切ろうとして苦しんだ「甘い秘密と銃撃戦」に対して、「-ive aLIVE!」では何者かになりたいアイリが今の自分を受け容れられずに懊悩する。カズサとアイリがお互いに真逆の方向で苦しんでいる構図がここでは示されている。
 ストーリー展開も「甘い秘密と銃撃戦」と「-ive aLIVE!」とは対を成している。「甘い秘密」ではカズサ以外の部員三人がカズサの真意を測りかねて「放課後スイーツ団」を作って逆にカズサの逆鱗に触れる。「-ive aLIVE!」のほうではアイリ以外の部員三人が、やはりアイリの内心を勘違いしてセムラ強奪に動く。
 「-ive aLIVE!」でアイリの置き手紙を「誤読」した経緯はかなりギャグだけど、一方でそれなりに必然的でもある。カズサたちは「アイリの真の目的はセムラであってバンドはその手段にすぎない」と考えるが、実際は「アイリの真の目的は何者かになることであってバンドはその手段でありセムラの話は方便にすぎない」というのが正しい。カズサたちはアイリの心情を誤解しているものの、完全に間違っているわけではなく、少なくともバンドをやることそれ自体が重要というわけではないことは理解できている。

「自分の実力が足りないせいで(略)と思ったら……」「まあ、自分を責めるわよね!特にアイリは!」←ここは完全に合っている

 一方で、アイリのほうも他の三人の心情を誤解している。アイリは自分の演奏が皆のレベルに追いつかないと思って失踪するが、それはきっと「他の三人は優勝したくてバンドをやっているに違いない」という暗黙の前提があるからだ。しかし、実際のところカズサたちは優勝する・しない以前の問題として、「放課後スイーツ部の四人でバンドをやる」ということを大前提として行動している。だから、アイリの置き手紙を読んだとき、カズサたちは困惑する。なんというか、こういう気負い方をしてすれ違うのって非常にリアルだ。

大事なのは「共に楽しむ」ことだということにアイリがいつ気づけるかという話

 そもそも、スイーツ部のメンバーは全員がお互いの理解者というわけではない。アイリのチョコミント愛やナツの世界観は他のメンバーに共有されているわけではないし、おそらく部員たちの内心をすべて理解できているのは先生だけだろう。でもそれで良いというのがスイーツ部特有の距離感だと思う。
 良き友達でいることと理解者であることはイコールではなくて、ただ一緒にいて楽しい時間を共有できるかどうかが最大の問題なのではないだろうか。

 各キャラについて。

 まずはカズサとアイリの話をしたい。
 「甘い秘密と銃撃戦」は、カズサが先生に「ストーカー」の相談をするところから始まる。当初は宇沢レイサがカズサに一方的に迷惑をかけているかのように見える(それはある意味では真実)が、話が進むにつれてどうもカズサのほうにも問題があるということがわかってくる。最終的に、先生はそのことをカズサ自身に自力で気づかせることで問題を解決する。ここで具体的に何かをしているわけではないので先生の関与の仕方はきわめて曖昧だが、おそらくある時点から先生は問題の本質がカズサにあることに気づき、カズサの行動や内心を誘導していると思われる。
 「-ive aLIVE!」におけるアイリは最初から問題の本質が自分の中にあることに気づいている。そしてだからこそ内向きの問題解決を図ろうとする。この場合、アイリが自力で問題を解決するのは困難だ。アイリが外に視線を向け、他者を通じて自己を理解する(古則§2)ことを通じてしか、解決手段はない。実際にアイリを救うのはカズサ・ヨシミ・ナツの行動であり、彼女たちとの会話だ。ここでも先生は見守りに徹しているが、その真意はツムギとの会話を通じてかなりはっきり示されているのでわかりやすい。
 アイリとカズサは性格もぜんぜん違うし、悩みの性質も正反対だからこそ、その解決の筋道も逆になっている。今回のイベントを通じて改めて「甘い秘密」を読んでみるのもなかなか楽しかった。

 ヨシミはとてもまっすぐで良い……安心感がある。あの部活の中にあってちゃんと熱いことを照れずに言えるキャラであることが「-ive aLIVE!」ではたくさん描写されていた。真面目だけど天然なアイリと比べてもさらに常識人で、スイーツ部のバランサーとして良い味を出している。

ヨシミだけが気づいていないシーン(「甘い秘密と銃撃戦」)
逆にヨシミだけがカズサの様子に気づいているシーン(「甘い秘密と銃撃戦」)

 ナツについてはどこまで「理解っている」のかよくわからないキャラなので、いろいろな解釈ができると思う。わりと他の部員と一緒に勘違いに乗っかって暴走することが多い(放課後スイーツ団関係はわりとそう)ので、独特の世界観を持っているからといってすごく鋭いキャラというわけじゃないのではないかと思う。まあ全部「理解った」うえでの「はぐらかし」なのかもしれないけど、そういうキャラだとしたらもっとちゃんと描写されるんじゃないかな……ハナコみたいに。
 今回のイベントではナツがまとめ役として最後の方のアイリとの対話を受け持っているけど、ナツも途中まではアイリの真意を誤解して「Q.E.D. 証明終了、だね」とか言ってたので、終盤の台詞も「真理を突いた至言」という感じで読んでいいものか……。でもアイリを救ったのはそういう仲間の言葉であり、同じことを先生や他の誰かが言うよりもずっと重みがあったのだろうと想像する。

 逆にツムギについては「理解っている」ことが明示されているキャラなので、読みやすかった。芸術家肌のツムギが(普段は)わりとおとなしめなキャラデザなのも巧い。ワイルドハントの話が来るのを待っています。

 他に今回のイベントで良かったのは、さり気なくイチカが添えられているところだ。
 イチカはなんでもできてしまう秀才だからこそ、何に対しても執着を持てず、趣味探しに明け暮れている。ギターを手を出したは良いものの、それほどハマることができずに悩むというエピソードは絆ストーリーに語られているので、未読の人は是非読んでほしい。イチカの悩みはアイリのそれとかなり近く、だからこそ終盤で軽くイチカが出てくるという展開には必然性がある。
 もっとも、イチカは先生と会話するだけで本筋にはほぼ絡まないというのが肝だ。なんという慎ましい演出……。
 イチカの悩みについてはまだ解決が描かれていないので、いずれはそのあたりの展開も読みたい。

この「約束」、イチカの絆ストーリーから続いているんだな……。伏線が細かい。イチカの良いところは誰にでもすぐに手を差し伸べることができる「善性」にあって、それは彼女の才能から出たものというよりその魂に由来するものだ。優れた善性を持ち合わせたイチカは決して没個性ではないし、後輩たちが彼女を慕うのもそれが理由だ。だからこそ先生は、イチカに対して「当てずっぽうに趣味を探す必要はない」「本当にやりたいことをやればいい」とアドバイスをするわけで、彼女が自力でそのことに来づけるように誘導している。思えばギターのエピソードも、彼女が先生のリクエストした曲を弾いてくれるという利他的な行動として描かれている。ロード画面のイチカがマシロに曲を聴かせている絵もそういうイチカの善性が感じられてすごく好きだ。だからこそ、イチカが自分の中でそうしたことに折り合いを付けられる日が来ると良いと思う(早口)

 というわけで、「-ive aLIVE!」はかなり良いイベントだった。
 まだ今後もトリニティ文化祭関連の企画が続きそうなので楽しみに待ちたい。



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