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死刑に処す 最高齢処刑者77歳

 高齢社会の世の中で、死刑囚にも高齢者が目立つ。福岡地裁で死刑判決を受けた野村悟被告、「あんた生涯後悔するぞ」と威勢のいいセリフを口にした。21年8月24日のことだ。74歳である。

 その2か月ほど前、最高裁は筧千佐子被告の上告を棄却し、同被告の死刑が確定する。野村被告と同じ、74歳だった。棄却前、面会した報道関係者に「死刑は怖い」と心境を話したが、髪は真っ白、耳は聞こえずらそうだったという。

 筧死刑囚の場合、一審の京都地裁判決から最高裁判決まで3年半かかった。野村被告は控訴したが、さらに最高裁まで上告した場合、その判決が出るのは、筧死刑囚を参考にすると、早くて77歳から78歳の頃かもしれない。「徹底闘争」となれば、80歳過ぎることも十分あり得る。

 そんな高齢者でも、法務大臣は処刑命令を出すのだろうか。

「日本の死刑史」を振り返り、新憲法下(1947年以降)、処刑された最高齢死刑囚を探してみよう。

 1956年、65歳のとき、北海道で強盗殺人事件を犯した死刑囚がいる。58年、67歳のとき、最高裁で上告を棄却された。その後、処刑されたかどうか、確かな情報を入手していない。病死することなく、処刑されていたとすれば、70歳前後だった可能性はある。

 帝銀事件の平沢死刑囚は95歳で病死したが、63歳のときに死刑が確定した。再審を繰り返したが、確実なところでは、ただ一度、61年、死刑執行起案書が法務大臣決裁寸前までいったことがあった。

 しかし、法務大臣には処刑する意思がなく、処刑は見送られる。69歳のときだ。その後、法務省当局は、高齢のため処刑する考えはなかったともいわれる。

 実際に「高齢者の処刑は許されない」と訴えた死刑囚もいた。その根拠は、刑事訴訟法第482条、検察官による「自由刑の裁量的執行停止」に求めた。

 同条は「懲役、禁固または拘留の言渡しを受けた者について、左の事由があるときは」「検察官の指揮によって執行を停止することができる」とし、その事由の一つに「第2号 年齢70年以上であるとき」と定めている。これを援用し、「70歳以上の死刑囚の執行はすべきでない」と訴えたのだが、裁判所は認めなかった。

71歳、高齢処刑の始まり

 ともあれ、前述の「最高裁棄却時67歳」事例以降、70歳以上で処刑された死刑囚は見当たらないが、およそ30年後の1985年5月、大阪拘置所で処刑された山本新吉死刑囚(仮名)は71歳だった。

 警察庁指定広域重要105号事件(65年、7件の強盗殺人で8人殺害)を起こし、78年、64歳のとき、死刑が確定していた。

 法務大臣が「処刑命令」下したとき、71歳の高齢を意識したかどうか不明だが、なんといっても、その罪状の重さが決断させたのかもしれない。

 山本の71歳処刑の後、93年11月、大阪拘置所で処刑された死刑囚70歳、95年5月、東京拘置所の死刑囚70歳で処刑と続く。

 以後、10年以上も70歳を超える死刑囚の処刑はなく、「山本の71歳」上限かと思われたが、2006年12月、「積極処刑派」の長勢甚遠法務大臣が4人の処刑を命じる。

 それにより、12月25日処刑された4人のうち2人は東京拘置所に収容されていた。

 一人は、殺害したのは一人だが、殺害方法が残虐であるなどとして、強盗殺人等で、1987年、最高裁で死刑が確定し、以来、再審請求を続けていたのだが、棄却され、06年当時、再審請求を行っていなかった。

「積極処刑派」大臣に促され、法務省の処刑準備担当部局(刑事局)が、未執行死刑囚の名簿を、死刑確定順に眺めた。原則、確定順に処刑されていたが、再審請求中は処刑しない「慣例」があったのか、確定後25年も処刑されなかった、彼が選ばれたのだろう。

 それまでの「最高齢」処刑者を6歳も上回る77歳だった。ちなみに共犯の兄は無期懲役であり、このころまでには「仮釈放」されたかもしれない。

 もう一人は、2人を殺害した強盗殺人罪などにより、1993年、最高裁で死刑が確定し、「77歳死刑囚」と同様、再審請求を行ってきたが、前年には棄却され、処刑への障害はなかった。

車いすの75歳も処刑

 ただし、この死刑囚の遺書によると、「一人で立つ事も歩く事も出来ないです。半病人です」「法相に抗議 被告人は立つ事も出来ず 病舎処遇だからです」状態だった。上告審ぐらいから、移動するには車いすを利用していたらしい。処刑台の上に立たせ、首に縄をかける時、どのように……75歳の処刑である。

「77歳でも処刑」前例がつくられると、70歳以上死刑囚の処刑も目立つようになる。

 07年12月、75歳処刑、08年6月、73歳処刑、08年10月、70歳処刑、13年9月、73歳処刑、16年3月、75歳処刑。

 以上、見てきたように、これまで処刑された最高齢死刑囚は77歳である。今後、さらに高齢死刑囚の処刑があるのか。

93歳の未執行者も

 その一方、未執行の高齢死刑囚もかなり見受けられる。その最高齢は93歳になる死刑囚だ。次に89歳、87歳、85歳、82歳、80歳、70歳代約10人。

 また、高齢死刑囚には、収容されている拘置所等での病死も目立つ。

 帝銀事件の平沢貞道死刑囚は、55年、63歳のとき、死刑が確定し、以後、再審請求等を繰り返し、87年、「病死最高齢」の95歳。14年、92歳、15年、89歳、17年、90歳。

77歳で確定・83歳で病死

 04年、死刑が確定した女性死刑囚は、「日本の死刑史」上、最高齢の77歳であったが、11年、83歳で病死する。

【参考資料『年報・死刑廃止』インパクト出版会】

(2021年9月5日まとめ)





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