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このご時世、不便すぎるフィルムカメラで写真を撮ることの意味とは?

ライカM3、もう半世紀以上前のカメラだ。
スマホ世代には意味がわからないだろうが、フィルムカメラでただ景色を撮ることはかなり面倒である。
まずフィルムを入れる。そのフィルムのISOとやらを念頭に置き、景色の光量を鑑み、シャッタースピードとレンズの絞りを調整してシャッターボタンを押す。
もちろんピント合わせはマニュアルフォーカス、全部自分で行うこととなる。
そして撮れた写真がこれだ。


Kodak Ektar100

ざらっざらで薄暗い、ああ失敗写真である。
もちろん僕の自己責任であるが、露出を見誤り、貴重な一枚が不意に終わってしまった。
なんせこのご時世、フィルムは非常に高い。
フィルム一本36枚撮りで1000円を超す。さらに現像しなくちゃならない。
フィルム現像なんてもう田舎の写真屋ではやってくれないので、ネットで注文して送らなくてはならない。
だから安くても、36枚撮って撮れ高を確認するだけで1500円はかかる。
そしてこれからもっとコストは上がっていくだろう。
フィルム写真は高尚な遊びなのである。


「いくらかかろうが、このフィルムの質感がええんや!」
という信念があれば良かろう。
最近じゃあRAW現像で〇〇フィルムそっくりの質感を再現!なんてこともできてしまうのだが。
フィルム原理主義者であろうが、フィルムライクな写真が好きなだけであろうが、なんでもかんでもコスパだけで判断してしまう世の風潮をとりあえず一旦忘れてしまおう。


フィルムの良さ、それは時間である。
撮影する際に脳内に浮かぶ計算式、露出をカンで計測し、ボケ量と手ブレの恐怖を暗算で打ちのめし、サッと構えて呼吸を止めて撮る。
ちゃんと撮れたか?、決定的瞬間だ、ピューリッツァー賞ものの一枚かもしれない・・・そんな期待と9割の不安を胸に現像へ送り出す。
1週間待ち続け、いざ開封し撮れ高を確認する。
緊張の瞬間、安堵かため息か、期待は裏切られ、特に期待してなかった一枚が燦然と輝いたりする。


一枚に凝縮された感情と主観的時間、それがフィルム写真である。
コスパは最悪、iPhoneの方がはるかに効率的でお行儀の良い写真が撮れる、そんな金があるなら他に使ったほうがもちろん有益だ。
この無駄な消費、そこに優越感を感じるのも良いが、僕はこの無駄な時間が現代の早すぎる体感時間にちょっとしたブレーキを掛けてくれると思うのだ。

すべてが最適解でなければならないというAmazonや24時間営業のコンビニからもたらされる強迫観念、それは物質的豊かさを与えてくれたが、人間の時間感覚を脅迫し消耗させていく。
失敗のない便利な時間にかかるコストは目に見えにくく、そして確実に社会を侵食していく。
数秒のスキマ時間さえ奪い合う過当競争と化した現代において、息つく暇すら時給換算されてしまう。
時は金なりが、時は金になりけりに。
そんな等価交換に納得せずとも参加されている人の言語化できない不満が、こんなに豊かなのに日々じわじわと地獄、そんな状況を生み出しているように思う。


フィルム写真はそんな時間感覚の強迫観念が捨て去った時間感覚の残渣である。
なぜなら「儲からない」からだ。悲しいかな、儲からない斜陽産業だからこそ、ゆったりできているのである。
もちろん、儲からないから意味がないということではない。
そんなコスパ意識に囚われているのであれば、そもそもフィルム写真界隈に居座らないだろう。
もし、フィルム写真がインフルエンサーやらなんやらのおかげで爆発的に流行ったとしよう。
さすれば大企業が遠い異国の地で工場をぶっ建てて大量に安いフィルムを作り、Amazonでポチれば1日で届いて、セブンイレブンで5分で現像してスマホにデータまで送ってくれるようになるだろう。


そうなれば、あの呼吸を止めて不安の中で恐る恐るシャッターボタンを押すという時間感覚は消え去ってしまうだろう。
時間感覚が大衆に飲み込まれると、あらゆる情報が撒き散らされ、秩序を求めて収斂していき、バズる写真の雛形が次々と生み出され、それに群がる人々で気づけば「消費」する時間でしかなくなってしまう。
それは善なのか悪なのか、現代は答えが出せないのである。
答えは出ているだろうと言われるが、納得できない人はまた違う何かを求めて彷徨うだけだ。
オリジナルを失った世界において、「我思う、ゆえに我あり」の我は我ではなくなってしまった。
時間、時間だけは例え幻であろうと感覚は残る。
早すぎる現代の時の流れに身を任せるのはコスパが良くみえるが、本当にそうであろうか?
そんな疑問を抱えながら、現像に送り出すフィルム片手にポストの前で感慨深くなるのも幻なのだろうか?


サポートいただきましたら、すべてフィルム購入と現像代に使わせていただきます。POTRA高いよね・・・