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悪=善の欠如|アウグスティヌス 【君のための哲学#18】

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☆ちょっと長い前書き
将来的に『君のための哲学(仮題)』という本を書く予定です。
数ある哲学の中から「生きるためのヒントになるような要素」だけを思い切って抜き出し、万人にわかるような形で情報をまとめたような内容を想定しています。本シリーズではその本の草稿的な内容を公開します。これによって、継続的な執筆モチベーションが生まれるのと、皆様からの生のご意見をいただけることを期待しています。見切り発車なので、穏やかな目で見守りつつ、何かご意見があればコメントなどでご遠慮なく連絡ください!
*選定する哲学者の時代は順不同です。
*普段の発信よりも意識していろんな部分を端折ります。あらかじめご了承ください。



悪=善の欠如


聖アウレリウス・アウグスティヌス(354年-430年)はローマ帝国時代のカトリック教会司教であった。彼が主張した「神の国」という考え方は、当時の正統派のキリスト教(カトリック)を支える精神的柱になった。それもあり、彼は今でもカトリック教会において「最大の教師」と呼ばれている。
また、アウグスティヌスは神学に哲学を持ち込んだ人でもあった。そもそも彼は若い頃、マニ教に傾倒するなど信仰に悩んでいたのだが、プラトンの哲学に出会ったことでキリスト教に回心した経験を持つ。さらにストア派(とくにキケロ)からの影響も受けていたという。彼はキリスト教における倫理思想を構築する際に、新プラトン主義とストア派の思想を大いに利用した。アウグスティヌスにおいて神学と哲学の一部が統合されたことは、その後の西洋思想史を語る上で絶対に外せない重要な出来事である。
当時(今もだが)キリスト教は「神が作った世界になぜ悪が存在するのか」という問題を抱えていた。「悪」という性質がこの世に存在すると考えると

・神はもともと「悪」という性質を持つ
・神に制御できない「悪」が存在する

などの仮説が立てられるわけだが、教会にとって上記の解釈はどちらも都合が悪い。神は全知全能でなければいけない。「悪」という性質を持っていてはいけないし、制御できない「悪」があってはならない。
アウグスティヌスはこの問題に対して「悪という実在は存在せず、悪だと見做されているものは全て善の欠如である」と主張した。


君のための「悪=善の欠如」


神は世界を「善」でもって創造した。そして、世界はとても多様な性質を持っている。世界が神の「善」のみによって作られていると考えた場合、そこに濃淡がなければ世界の多様性はありえないだろう。だから世界における善には濃淡がある。その濃淡、つまり善が濃い部分と薄い部分を相対的に観察すると、私たちが「悪」と認識するような事物が認められる。だから「悪」という実在が端的に存在するのではない。私たちが「悪」だと思っているものは欠如した善なのである。
多少詭弁にも思えるが、言っていることはもっともらしく聞こえる。
彼はまた原罪についても言及する。原罪とは、最初の人間であるアダムとイブが犯した罪(知恵の実を食べてしまった)のことだ。アウグスティヌスは、彼らの原罪は「罪を犯してしまう性質」として全人類に遺伝すると考えた。人間は生まれたその瞬間から「罪を犯してしまう性質」という根本的な罪を背負っている。そして、信仰によってしか原罪から救われる方法はないという。現代のキリスト教でも彼の現在に対する解釈が支持されている。
彼の思想は確かにキリスト教を擁護するものだった。信徒に向けて発せられた言葉であった。しかしその言葉は、キリスト教を信仰しない者にも響くのではないだろうか。
何かの「悪」があったとき、私たちは普通それを「悪という実在」だと認識する。それはすなわち、その「悪」を持つ人間を「悪という性質を纏った人間」だと解釈することでもある。だから対象を許せない。「悪」と「善」には超えがたい距離があるように思うから、「悪」はいつまでも穢れとして対象にこびりつく。
しかし、その「悪」を「善の欠如」だと捉えたらどうだろうか。確かにその行為は「善の欠如」という意味で糾弾されるものではあるだろうが、「善の欠如」と「善」の間には地続きに道が繋がっている。後者の考え方のほうが、罪を犯してしまった主体の更生に対してより柔らかい認識を可能にするのではないだろうか。
私たちに原罪が遺伝しているかどうかはわからない。しかし、人間が間違いを犯す生き物だということは、どうやらほとんど確実なことである。誰かの間違いが、いつか自分の間違いになってしまうこともあるだろう。そしてそれは一般的に「悪」と見做される。「悪=善の欠如」という考え方は、罪で溢れた世界を少しだけ暖かく変化させるものなのかもしれない。





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