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森鴎外   舞姫

この小説を何回、読み直して見ても結局同じ処に行き着いてしまうので敢えて書かせていただきます。


まずはじめに、この「舞姫」には沢山のファンの方々がいらっしゃいます。また、読書会のサークル等もいくつかあるようです。この「舞姫」がちょっと難しい文語体であるのではじめは苦労しましたが、流れるような文章と情緒あふれる内容で読む人、それを聞く人が堪能される事、私にも十分に理解出来ますし賛同もします。


彼女でもあり妊娠をした現地人でドイツ人の舞姫が彼の友人から告げられた裏切り行為『彼女を置いてきぼりにして日本に帰国』を言われ舞姫がパラノイヤーの病状で狂人になってしまうこの悲劇は、オペラにもなり得る劇的な内容です。彼本人は、船上で友人の色々な援助に感謝しながらもこの卑劣な行為は許せない気持ちを抱いて帰国の途について行きます。こんな悲劇はあるのだろうか、なんて可哀想な舞姫と彼なのだろう。この仕事の為に、生きていく為にも帰国をしなければいけなかった彼は大変な悲痛や苦労をしているのだろうと感動されます。最大の悲劇は舞姫にあるのですが。一応友人は、舞姫の家族に援助金も手当して行きます。


でも私には、何か納得出来ないシコリがありました。友人の告げ口はウソではなく彼本人の彼の意志であったのです。その酷な現実を知った時、彼自身も死に近いほどの迷走と酔で重病になったのですがでも結論は、舞姫を置いて帰国になったのです。本当にこの選択しかなかったのでしょうか?私だったら、帰国しても彼女を捨てて行きませんしまた、多分帰国をしません。


実際、私はこれに似た経験をしています。私は帰国後、日本にイギリス人の彼女を呼び職も変えて二人の新しい人生を始めました。その時は、清水の舞台から飛び降りる気持でした。結局この小説の彼、強いて言えば森鴎外は愛よりも自分の出世が優先したのです。もっと言えば友人に託つけて責任逃れをしているのです。とても可哀想なひどい悲劇ではなくて彼の裏切りなのです。舞姫が狂人化したのも友人の所為ではなくて彼の裏切りだからです。


事実として、鴎外が帰国後彼を追ってドイツから女性が日本に来ましたが鴎外は無下に彼女をドイツに追返してしまいました。あの時代、日本に来た彼女には、大変な勇気が必要だったと思います。鴎外はその後、軍医など医者として重要な地位を築き上げて行きます。文学者には珍しく出世人で豊かな人生を送っています。確かに素晴らしい家族と妻にも恵まれ才能豊かな彼が成功者に終わった事は十分にうなずけます。然しながら私には、鴎外は文学者よりも世渡りの上手い公務員だったと思えるのです。感情よりも勘定の上手い人間だったと思われ「舞姫」も言い訳の一つの手助けになっているように思えこの小説を好きになれないのです。


蛇足になりますが「安井夫人」でも遠藤先生の御指摘のあった通り未完成の小説を簡単に出版出来るところも彼の小説に対する気持の現れだったと思うのです。

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