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「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律案」についての調査(NHKから国民を守る党浜田聡参議院議員のお手伝い


 皆さんの使っているスマートフォンは何でしょうか?恐らくアイフォンもしくはアンドロイドのどちらかでしょう。今回は公正取引委員会から提出された、そのスマートフォンで使用されているソフトウェアにまつわる新法についての話になります。いはゆる「スマホソフトウェア競争促進法」と呼ばれるものです。

 端的に言えば、スマートフォンに利用されているソフトウェアが寡占状態になっているため、競争の促進を目的に規制をかけるというものです。


①新法が提出された経緯

 今回の新法提出の背景には2つの側面があります。一つは概要で説明されている点です。「独占禁止法による個別事案に即した対応では立証活動に著しく長い時間を要する」という点です。公取委は独占禁止法違反の疑いで過去にapple社の調査に5年の年月を要した過去があります。

 また、昨年10月にはGoogle社に対し、独占禁止法違反の疑いで調査を開始しました。

 公取委はこのような動きをおこなっていますが、公取委の調査・指導には非常に時間がかかるというのが新法を作る理由になります。また、政府は令和元(2019)年に設置した内閣官房デジタル市場競争本部で取りまとめられた「モバイル・エコシステムに関する競争評価の最終報告(案)」にて問題として取り上げられた事案をもとに新法の骨子は作られました。

 具体的事案がまとめられていますのでご参照ください。

 もう一点の側面は、アメリカやEUなどが巨大IT企業の独占市場に対する規制強化の流れに連動するというものです。EUでは「デジタル市場法(DMA)」と呼ばれるものが制定され、運用を開始しています。

 新法の参考資料にあるように、アメリカでは昨年、司法省がGoogleを提訴し、イギリスでも議会で新法案の審議がおこなわれています。

 日本も欧米の流れと足並みをそろえるために、今回の新法を提出したというのが背景になります。そして、政府は昨年(令和5(2023)年6月)に内閣官房デジタル市場競争本部事務局が「モバイル・エコシステムに関する競争評価 最終報告」を取りまとめ、日本のプラットフォーマーに対する規制について新法案を提出しました。

②特定ソフトウェアとソフトウェア市場の状況

 公取委が定義している「特定ソフトウェア」とはスマートフォンで使われるアプリやサービスを指します。以下が具体的なものとしてわかりやすいでしょう。

・モバイルOS(iphoneのiOSやAndroidのOSなど)
・アプリストア(App Store、Google Play、Amazon Appstoreなど)
・Webブラウザ(Google Chrome、Microsoft Edge、Safariなど)
・検索エンジン(Googleなど)


 スマートフォンを利用している人のほとんどはiphone又はandroidを使用しているでしょうし、利用していないソフトウェアはないのではないでしょうか。実際のシェアについては以下のサイトで各国のソフトウェアのシェアを知ることができるので確認してみると具体的な数字が分かります。

 各国との比較をするのに、上記のサイトは有効だと思いますが、今回は日本のシェアについて抜粋しておきます。

StatCounter

 見ていただければお分かりかと思いますが、iOSとAndroidでほぼ全てのシェアを獲得しています。その他のソフトウェアも寡占状態なのはOS同様となっています。つまり前掲した記事にあるように、Googleやappleなどを狙い撃ちしたのが今回の新法になります。

 さらに具体的に、「モバイル・エコシステムに関する競争評価の最終報告(案)」にてとりまとめられたものを参考に、どのような状況になっているのか覗いてみたいと思います。

A.アプリストアにまつわる状況
 現在、アプリ事業者はアプリストア事業者の決済・課金システムの利用を義務づけられている状況にあります。

モバイル・エコシステムに関する競争評価 最終報告(案)概要

 例えば、iphoneではappleのアプリストアしか使えないという状況です。 

B.「プリインストール・デフォルト設定」
 プリインストール(preinstall)とは、コンピュータ製品の出荷時に、あらかじめいくつかのソフトウェアが導入(インストール)済みの状態である事をいいます。また、異なるアプリから、インターネット接続をおこなう際、自動的にOS事業者のブラウザが立ち上がる事をデフォルト設定といいます。例えば、メールに記載されているURLをタッチすると自動的にインターネットサイトが立ち上がるかと思います。

C.データ取得・利活用について
 OSやアプリストア、ブラウザを提供している事業者は様々なデータを取得する事が可能です。このデータをもとにユーザーにとって「おすすめ」といったかたちで最適な提案がアプリなどでおこなわれます。例えば、一度検索したキーワードからユーザーにとって興味がありそうな広告が表示されたりするかと思います。

D.OS等の機能アクセス
 OS提供事業者は、OSの機能を自社のサービスにのみ使用し、他の事業者には認めないという状況があります。例えば、近距離無線通信(以後NFC)の技術仕様においてappleはオープンにはなっていません。仮にiphoneのNFCチップにアクセスする場合は必ずapple payを利用しなければなりません。

③新法の内容

 主な内容を概要から見ていきます。

スマホソフトウェア競争促進法の概要より

 公取委が規制対象となる「指定事業者」を政令に基づいて定めることが記載されています。参考資料の概要にあるように公取委は指定業者と継続的なコミュニケーションをとりながらビジネスモデルの是正を指導する仕組みとなっています。

スマホソフトウェア競争促進法の概要より

 次に政令に定める指定業者に対する規制についてですが、概要にある以下の事項が禁止事項として定められます。

スマホソフトウェア競争促進法の概要より

 これらをもう少し分かりやすくすると以下にまとめられます。

○アプリストアに関する規制
 ・他の事業者がアプリストアを提供する事を妨げてはならない
 ・他社の課金システムを利用することを妨げてはならない
 ・アプリ内でWebサイトへの誘導リンクを表示する事を妨げてはならない
 ・誘導先のWebサイトにおける課金アイテムの購入を妨げてはならない
 ・OS/アプリストアの利用条件について、特定のアプリ事業者を不当に差別したり不公正に扱ったりしてはならない

○Webブラウザや検索エンジンに関する規制
 ・他のブラウザエンジンの利用を妨げてはならない
 ・デフォルトで使うサービスを簡単に変更(設定)できるようにしなくてはならない
 ・ブラウザや検索エンジンについて、標準以外の選択肢を示す画面を表示しなくてはならない
 ・検索結果について、正当な理由なく競合他社のサービスよりも優先的に取り扱ってはならない

○取得したデータの扱いに関する規制
 ・アプリの利用状況や売上などのデータを、競合する自社サービスのために使ってはならない

○OSの機能に関する規制
 ・自社が提供するアプリと、他社が提供するアプリで利用できる機能に差を設けてはならない

○その他の規制
 ・データ管理体制の開示義務
 ・データのポータビリティーを確保するためのツールを提供することを義務付け
 ・OSやWebブラウザの仕様変更の開示義務

 そして、指定事業者に対して定期的な報告書の提出を義務づけ、これを参考に公取委は違反がないかをチェックおこなう事になっています。指定事業者が違反している場合は、独占禁止法と同様に公取委が「排除命令」や「課徴金納付命令」を出すことになります。課徴金納付命令が出された特定事業者は、独占禁止法よりも厳しい「算定率20%(=国内売上高の20%)」が課されます。さらに、課徴金納付命令を受けた特定事業者が、その命令から10年以内に違反行為を行った場合は課徴金の算定率30%(=国内売上高の30%)が課されることが定められています。

③新法は誰のために作るのか

 寡占状態である事が問題視され、新法制定に至った経緯はすでに前述しました。独占・寡占は基本的に市場では良くないものと多くの方が認識し、また基本的な経済の教養として習ってくるのではないでしょうか。しかし、独占・寡占状態以前に、なぜそのような状態になのか、独占・寡占状態にある市場は本当に悪なのかを考えたいと思います。
 デジタル市場競争本部は令和5(2023)年6月にまとめられた「モバイル・エコシステムに関する競争評価の最終報告(案)」に関する意見募集に寄せられた意見について同年10月に公表しましたが、寄せられた意見は559件にものぼります。「モバイル・エコシステムに関する競争評価の最終報告(案)」にもあるように、特にapple社に対する規制を想定した案が出されており、apple社はこの政府案に反対声明を出しています。

アップルは、私たちが事業を展開するすべての市場において、イノベーション、雇用創出、競争のエンジンとなっていることを誇りに思う。日本だけでも、iOSアプリの経済は約100万人の雇用を支え、大小のデベロッパが世界中の顧客にアプローチすることを可能にしている。私たちは、本報告書に記載された多くの提言に謹んで反対する。これらの提言は、Appleのエコシステムがアプリ開発者の方々に利益をもたらし、消費者にプライバシーとセキュリティを保護する選択肢を提供しているアップルのしくみを危機的な状況に追い込むものだ。私たちは、これらの懸念に対処するため、これからも建設的に関わり続けていく。

 また、apple社は政府の意見公募に利用者らが寄せた500件超の意見を独自に集計したところ、大多数が安全性などを理由に反対しているという結果を明らかにしました。
 さらに、政府の意見公募に寄せられた意見の大多数(apple社や黒塗りを除いた488件)が規制に反対しています。

(1,000ページ超の膨大な量になりますので、読者の興味のある部分をご覧ください)

 これに対し今回の規制に賛成している団体が新経済連盟です。

 コメントをしているのは新経済連盟の代表理事である三木谷浩史氏です。新経済連盟は主に楽天やサイバーエージェントなどインターネットを利用したコンテンツ産業の企業が参加する団体です。日本を代表するデジタル企業が集まる団体ですが、「モバイル・エコシステムに関する競争評価の最終報告(案)」に対し、「アプリ代替流通経路を実効的に利用できるようにすることを義務付ける規律を導入すべきであるとした点に賛同する。(中略)決済・課金システムに係る手数料がアプリ開発事業者にとって納得感のある水準・内容となり、ひいては消費者利益を確保するとともに我が国のスタートアップ振興にもつながることを強く期待」とコメントしています。

 これに対し、電子情報技術産業協会(JEITA)は「モバイル・エコシステムに関する競争評価の最終報告(案)」への意見書でセキュリティーやプライバシーの保護や一般消費者利益の確保、また政府による過度な介入による企業負担の増大及びイノベーション阻害の可能性の観点から反対しています。端的に言えば「ビジネスモデルを鑑みることなく、企業努力により開発されたサービスやソリューションを無償で提供することを強制する政策の方向性は、自由な企業活動を萎縮させる可能性もある」という事です。

 また、救国シンクタンクからも意見書が提出されています。こちらはPDFで全文まとめましたのでそちらをご参照ください。

 反対意見の多くに寄せられている点を何点か取り上げたいと思います。

 1つ目はセキュリティーやプライバシーの観点です。スマートフォンにはユーザーの個人情報が大量に含まれているため、サイドローディングのように別ルートでのアプリダウンロードが可能になれば、個人情報の抜き取りなど新たな問題が発生することが容易に想像できます。
 
 2点目は企業の努力を無視した規制という点です。アップルが独自に作り上げてきたApp Storeと同等の機能を他社に無償で開放しろというのは、無茶振りもいいところであり、国による企業への恫喝ともとれる行為です。
 
 最後に、アプリ開発者がしっかりと自分たちでアプリの安全性を証明すべきという点です。1点目に指摘したセキュリティーやプライバシーの保護を考えた際、事業者は特定ソフトウェアの開発にさらなる負担が強いられます。
 このように、今回の新法で誰が得をするのか考えた際、市場の競争を促進するため、寡占状態に規制をかけると一見まともなものに見えるのですが、結果として、誰も得をしない法案であることが分かるかと思います。(賛成している新経済連盟とその一部は別なのでしょうが、、、)

⑤政府は余計な事をするな

 独占や寡占は市場にとって悪である。という先入観を持っている方も少なくはないのではないでしょうか。しかし、技術開発が重要な業界では、なまじ競争を促すことよりも、独占巨大企業が思い切った技術開発などに投資を行う方が、結果として消費者のためになることがあります。特に、ユーザー数が多い方が便利なため、ユーザーがシェアの大きいサービスに流れ、それがさらにシェアの拡大を促すことになるネットワーク経済性が働くような事業では猶更です。
 
例えば、ゼロックスはかつてコピー機で圧倒的な市場シェアを持っていました(これはネットワーク経済性ではなく、主に複雑な特許に起因するものでした。その特許の壁を破ったのがキヤノンやリコーです)。そして、そこで生まれたキャッシュを用いて開発した技術が、後のパソコンのGUI技術に結びついたのです(その技術を事業化に転用したのはアップルとマイクロソフトであり、当のゼロックスがそれを事業化できなかったのは残念ではありますが、、、)。
つまり、市場における独占や寡占が問題なのではなく、その市場状態は自然に作られ、需要が変われば、市場も変わるというごくごく当たり前の事が起こっているのです。また、現在の寡占市場がなぜ起きているのか考えれば、政府の介入が不要なことが分かります。
 
理由は端的に、便利だからです。
 
多くの消費者が利便性を感じているにも拘らず市場に政府が市場に介入することは、その利便性を損ねる可能性があるという事です。
そのため、今回の新法で起こり得る事は新たな問題を作り出し、その問題に対して新たな規制を作るという悪循環しかないでしょう。

質問するとしたら

・「公正取引委員会は、特定ソフトウェアを提供する事業者のうち、特定ソフトウェアの種類ごとに政令で定める一定規模以上の事業を行う者を規制対象事業者として指定する」とあるが、政令で定める一定規模以上の事業を行う者はどのような観点から、どのような基準で定めるのか。新法を制定するにあたり、想定しているものと思われるが、方針をお示しいただきたい。
 
・新法により、新たに参入する業者の提供するサービスが必ずしも消費者(ユーザー)に恩恵があるとは限らない。例えばセキュリティーやプライバシーなど個人情報の漏洩など懸念点が多くのパブリックコメントに寄せられてます。新法制定にあたり、政府はどのような問題が今後起こると想定しているのか見解を伺いたい。
 
・今法律案の骨子にもなっている「モバイル・エコシステムに関する競争評価の最終報告(案)」に寄せられたパブリックコメントには政府案に対する懸念的な意見が数多く散見されます。しかし、今法案は大きな変更は特にみられません。この多く寄せられたパブリックコメントは民間人が政府に対し公におこなう事ができる貴重な意見であります。このような意見に対し、政府は今法案にどのような点を参考にしたのでしょうか。また、パブリックコメントを募集したにもかかわらず、大きな変更が見られない点は国民の声に耳を傾けるといった岸田首相の発言と異なるものでありますが、政府の見解をお伺いしたい。

最後までご拝聴ありがとうございました。

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