見出し画像

「食料供給困難事態対策法案」についての調査(NHKから国民を守る党浜田聡参議院議員のお手伝い)


 今回は農林水産省から提出された「食料供給困難事態対策法案」について調査してまいります。この法律は新たに作られた法案になっており、日本の食糧事情のみならず、食料関連に関わる大きなものになると思われます。どのような内容か確認しながら、法律が施行された場合どのようになるのか、考察してまいりたいと思います。
 令和6年2月27日の閣議決定により提出された「食料供給困難事態対策法」ですが、令和5年8~12月に数度おこなわれた「不測時における食料安全保障に関する検討会」でまとめられたものになります。今法案の内容を端的に言えば、「食料関連の民間事業者に対し、出荷や生産の計画の届け出を求めたり、生産の拡大・転換を指示したりできる」というものです。
 政府は気候変動や紛争、世界の人口増加などで食料供給が不安定となるリスクが高まるなか、安定した食料供給量を確保する事を目的に今国会では当該新法だけでなく、「食料・農業・農村基本法」及び関連法の改正案も提出されています。では具体的な内容を見ていきたいと思います。


①今法案の概要

 今法案では、食料供給が困難な兆候がみられた場合に対策本部を設置する事が盛り込まれています。その対策本部では対策方針を策定し、安定した資材の確保のために関連事業者に対し要請・支持をおこなうというものです。全体的な流れは以下の図の通りになります。

当該法律案概要より抜粋

 ここで政府が定めている食料とは国民の食生活又は国民経済上重要な品目と定めており、純粋な農林水産作物だけでなく加工品も含めています。当該法律案は食料に関する新法なので、食料に関連する法律は別に設けられています。
 本部では供給目標数量の設定や対策を策定し、供給確保のために関連事業者(輸入業者・生産業者・販売業者)に対し、要請・指示するなどの対応をおこないます。
 関連業者へは以下のような対応がおこなわれることが定められています。

・出荷/販売の調整、輸入拡大、生産拡大の要請
・食料供給困難事態が生じた段階で、本部が公示した上での出荷販売の
 調整/輸入拡大・生産拡大に係る計画の届出の指示
・届出された計画の変更指示
・生産転換や国民生活安定緊急措置法に基づく割当て・配給の実施

 ここまでが上記の図の流れになります。つまり、これは有事の対応策になります。
 今回の法案では、有事に関する規定だけではなく、平時における対応も明記されています。

・国内の政府が定めた品目等の国内需要状況の把握のため、関連事業者に
 対し必要な報告を求める
・有事に対応するための関連業者に対する立入検査の実施

 平時における管理統制が可能になるという内容になっています。また当該法案には罰則規定も設けられています。関連事業者この罰則規定に関しては概要には公表措置と記載がありますが、法律案には下記のように記載があります。

 第二十三条 次の各号のいずれかに該当する場合には、その違反行為を
       した者は、二十万円以下の罰金に処する。
 第二十四条 第二十一条第一項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の
       報告をし、又は同項の規定による検査を拒み、妨げ、若しく
       は忌避した者は、二十万円以下の過料に処する。

 このように懲罰規定が設けられています。非常に抑圧的であり、政府による統制が強くなる法律案となっています。政府が状況把握のための情報収集のみならず、生産転換、販売調整、配給をおこなうというのは民間事業者の「営業の自由」が侵害されるのではないでしょうか。

②新法提出までの経緯

 当該法案が提出された経緯は現行制度では対処しきれない部分の整備になります。現行制度は農政の憲法とも謳われる食料・農業・農村基本法の「不測時の食料安全保障(第19条)」が規定されたことを受けて農林水産省が策定した「緊急事態食料安全保障指針」において政府一体となった体制を整備する旨が規定されています。しかし、現行指針は農水省がおこなうべき対策を定めたものであり、不測時の食料供給確保に関する政府の意思決定や指揮命令をおこなう体制や、その整備に関する具体的な仕組みは存在していませんでした。
 現行指針は法令ではないため、食料供給が不足する事態に対応は現行法で対応しなりません。現在時点で活用できる現行法は「国民性買う安定緊急措置法」「生活関連物資等の買占め及び売惜しみに対する緊急措置に関する法律」「主要食糧の需要及び価格の安定に関する法律」です。これらの法律は現状課題となっている食料安全保障に対処する事を目的としていません。特に「国民性買う安定緊急措置法」「生活関連物資等の買占め及び売惜しみに対する緊急措置に関する法律」はオイルショックを契機とした物価高騰やそれに伴う投機的な行動への対応として整備された法律となっています。
 そこで令和5年8~12月まで6回に渡りおこなわれた「不測時における食料安全保障に関する検討会」において取りまとめられた案が今回の新法の提出、「食料・農業・農村基本法」、その他関連法の改正として出されたものになります。有事だけでなく平時の段階においても対応できるような仕組みづくりを目指したものが取りまとめられた内容になります。

農水省「不測時における食料安全保障に関する検討会」取りまとめより抜粋

③日本の食糧事情について

 周知の通り、日本の食糧自給率は減少傾向にあり、農水省が発表しているデータでも一目瞭然です。

農水省HPより

 また、農業従事者は減少傾向である上に、従事者の平均年齢は上昇傾向にあります。

農水省HPより

 ここで、少し話は反れますが、日本の農業事情について整理しておきます。このような状況のなかで、政府は令和12年度までに、カロリーベース総合食料自給率を45%、生産額ベース総合食料自給率を75%に高める目標を掲げています。非常に実現可能性が低いと言わざるを得ない目標です。しかし、このような状況を招いたのは政府の長年の失策です。ここで日本の農業政策の歴史を振り返りたいと思います。

 戦前は米も通常の物資と同じく市場原理に基づき取引されていましたが、昭和15(1940)年頃には戦時体制へ突入し米不足が深刻化したため、食糧管理制度に基づく配給制となり、政府の管理下に置かれました。このような中で制定されたのが食糧管理法です。この法律は食糧の生産・流通・消費にわたって政府が介入して管理するというものであり、食糧(主に米)の需給と価格を安定させることを目的としています。この食糧管理法は平成7(1995)年に廃止され、主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律が新たに制定されました。この法律の目的は第1条に明記されているように「米穀の適正円滑な流通確保・主要食糧の買入れ等の措置を総合的に講じ、主要食糧の需給・価格の安定を図り、国民生活と国民経済の安定に資することにある」とされています。国家による介入という点であまり変わりはありません。

 戦後、日本人の食生活にも変化が起こり、食糧管理制度では歳入が不足する事態に陥りました。そのため、昭和45(1970)年には本格的に生産調整を政府は指示しました。いわゆる「減反政策」です。昭和60(1985)年以降は減反政策により生産調整が強化され続ける一方で、転作奨励金に向けられる予算額は減少の一途をたどり、「転作奨励」という手法の限界感から、休耕田や耕作放棄の問題が顕在化し始めました。このような状況の中、食糧管理法が廃止されて食糧法が施行されました。日本国政府の米買入れ目的は、価格維持から備蓄に移行し、これに伴い買入れ数量は大幅に削減され、農業界は補助金なしには成り立たない状況になっていきました。

 日本は戦中から国家による食糧管理をおこなっており、政府による介入の結果、農業は衰退していきました。そのため、政府は平成15(2003)年に構造改革特区の一つである「農地リース特区(農業特区とも呼ばれる)」によって企業の農業参入を解禁しました。そして、平成21(2009)年の農地法改正により、農地の借り入れ要件が緩和され、法人形態や事業要件などの制限なしで農業への参入が可能となりました。平成25年には国家戦略特区の規制改革メニューとして農業委員会の農地の権利移動の許可関係事務を市町村が行うことを可能にする規制緩和をおこない、農業の立て直しを図ろうとしていますが、まだ道半ばです。

 このように日本は食料生産への介入を続けてきた結果、農業を衰退させてきました。また、もう一つの問題が農業界の既得権益です。日本の農業はまだまだ個人経営体が大多数です。

農水省HPより

  現在、企業経営体が増加傾向にある事は農業生産量の増加や効率性を考えた際、これを推進するべきでしょう。しかし、個人経営体のような零細農家では現実では農協(以下JA)を介した販売に頼らざるを得ません。現に組員である農家とそうでない農家ではやはり受ける恩恵が違います。例えば融資や農業機械の購入優先度が変わってくるという話があります。これらはJAが農業界でどれだけ巨大組織として新規参入を拒み続けてきたか分かります。

農業協同組合新聞より抜粋

 また、JAのHPを確認すると非営利団体であることを謳っております。

JAのHPより引用

 非常に社会主義的なイデオロギーが感じられる方針である組織体です。政府による生産調整・価格調整等の介入やJAのような稼ぐことに対して否定的な運営の結果、農業従事者は減少していきました。補助金や交付金なしでは新規参入農業従事者は増えていかない現状を作っているのは政府やJAがおこなっている非常に統制的な旧来の悪しき方法や習慣なのです。
 その結果、日本は世界での国際競争力も低下し、日本の農林水産物の輸出額は増加傾向にあるものの、加工品が農産物全体の約57%を占めています。

農水省HPより抜粋

 加工品目が大半を占めるというは、原料は輸入品である品目も多くあります。このような状況の中で今回の新法が提出されたわけですが、そもそもの問題として、農家や新規参入した企業が稼げない規制や既得権益が問題です。まずは国際競争力を高める施策を講じなければ、有事において今回の新法のような強権的な介入をおこなっても、過去と同じ轍を踏むことでしょう。

 記事にもあるように輸出振興をするには国際競争力をつけなければなりません。しかし日本の農業は既得権益によって守られており、多くの問題を抱えています。

④新法で食料安全保障は実現可能か??

 今回の新法は食料供給危機困難事態に際する内容ですが、上記の資料「基幹的農業従事者」の推移そもそも日本は農業従事者の減少と高齢化が進んでいるなかで国内での農産物の増産指示を政府がおこなって、安定した供給を続ける事は困難なのは容易に想像ができます。また想定できる事態としては日本国内での自然災害による食料供給の麻痺です。日本は地震大国であるため容易に想像できますが、現行法で対処が可能です。
 今回の新法制定の背景に「世界人口の増加に伴う食料需要が増大する中で、気候変動に伴う主要産地の生産の不安定化、物流の途絶等様々な要因による国内における食料の供給量が大幅に不足するリスク」に備えるためとしております。しかし、このような有事を想定するのであれば平時から備えなければなりません。前章で述べたように日本の穀物生産量は減少傾向にあり、農業は衰退しています。つまり平時より有事を想定した食料生産体制を整備しなくてはなりません。そのために関連法案の改正をおこなっていますが、有効な政策なのかは疑問であると言わざるをえません。日本には日本の事情があり、外国を真似ることが有効な手段とは限りません。関連法については別の記事で評価をしたいと思います。

ここまで減った耕地面積を回復するには現在の体制下では不可能です。政府による統制と既得権益による農業従事者の疲弊を排除することが農業再興に必要な要素です。

 農業の現状が非常にわかりやすい動画になります。少し古いですが、ぜひご参照ください。

⑤農業を成長産業に発展させる気のない令和の食糧統制法

 食料の管理法制は「主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律」がすでにあり、この法律には管理統制に関する条文があります。ここで指す「主要食糧」とは米穀・麦・その他政令で定める食糧とされています。また、この法律の第55~62条には罰則規定が設けられており、政府の統制下にすでに置かれている事が分かります。

 今回の新法では第23・24条が罰則規定なっており、罰金・過料の規定が設けられております。第23条では第15条違反について、第24条は第21条違反についての規定になります。この第15・21条上の条文は以下の通りです。

第十五条二項
 主務大臣は、食料供給困難試合において、前項の規定による要請をしてもなお当該食料供給困難事態を解消することが困難であると認めるときは、当該要請を受けた出荷販売業者に対し、主務省令であるところにより、当該措置対象特定食料等の出荷又は販売に関する計画(以下この条及び第十九条二項において「出荷販売計画」という。)を作成し、主務大臣に届け出るべきことを指示することができる。
第十五条三項
 前項の規定による指示に従って届出をした出荷販売業者は、その届出に係る出荷販売計画を変更したときは主務省令で定めるところにより、変更した事項を主務大臣に届け出なければならない。

第二十一条
  主務大臣は、前章(第十八条第三項及び前二条を除く。)の規定の施行に必要な限度において、措置対象特定食料等の出荷、販売、輸入、生産若しくは製造の事業を行うもの若しくは農林水産物生産可能業者に対し、その業務若しくは経理の状況に関し報告させ、又はその職員に、これらの営業所、事務所その他の事業場に立ち入り、上保、書類その他の物件を検査させることができる。

 この内容は「主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律」に類似条文を見ることができます。つまり、今回の新法は対象を拡大した統制拡大立法になります。規制で縛ることによってコントロールしようとする意図が分かります。安全保障を考える事は重要です。しかし、人口増加が予想されているなかで、平時の成長を第一に考えなければ、統制経済と何ら変わりありません。このような民間の自由な経済活動を阻害する法律には現状、反対せざるを得ないほど政府の統治能力は失っていると言っても過言ではないのではないでしょうか。まずは民間の自由な経済活動を阻害する規制を廃止していくことを政府には要望したいと思います。

⑥質問したいこと

・今回の法律案では食料の供給が困難である兆候が見られた場合に対策本部を設けるとことが明記されていますが、兆候という言葉は非常に広義であり、どのレベルでの事態を想定しているのか曖昧な状態であります。そこで政府に新法を制定する段階において、政府はどのような事態で食料の供給が困難な状況と判断するのか、具体的にはどのような想定をしているのかお聞きしたい。

・食料供給困難事態は緊急事態に該当するのかしないのか。見解をお聞きしたい。その理由はコロナ有事の際、政府は緊急事態宣言を発令し、国民に要請という形で多くの負担を強いた。食料供給困難事態に際しても関連事業者に対し同様の事が起きるのではないという懸念があるためである。
また、負担を強いるという事であれば経済活動の阻害にあたるためどのような補償をしなければならないが、どのような対応を考えているのか現段階での具体的施策をお聞きしたい。
 
ご拝読ありがとうございました。
 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?