ててっと

人の心の揺れは留めおけないし、物事の本質は形にできない。ならば、鍋でスープを作るように…

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人の心の揺れは留めおけないし、物事の本質は形にできない。ならば、鍋でスープを作るように、具材を入れてゆっくりかき混ぜ、飛びちり集まりする様をぼんやり眺めつつ、ふとした瞬間に立ち上がってくる何かを掬い上げられればと。そんなエキスをじっくりのばして物語を書いています。

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最近の記事

サードアイ ep8 ラボ見学 

 俺の術後の回復を待って数日後、ステファンが研究室を案内してくれることになった。三次元の世界からこっちに移動するのは、思いのほか体力を使ったようで、どうやら部隊長との話の途中で意識がとんだらしい。それで、俺のサードアイは開いちまったってことで、額にはめられていた装置はブルーノがはずしたそうだ。額の傷はもう消えていて痛みもないが、なんだかむず痒い感じがまだ残っている。  ステファンが迎えに来た。最初に会ったときの、ひらひとした服装ではなく、今日はこざっぱりとした白衣姿で颯爽と

    • サードアイ ep 7 仲間割れ

       男のサードアイがすでに開いてると知って、ブルーノはなめらかな自分の額をパチンと叩いた。 「あいや!間に合わなかったでやんすか。うまくはめ込んでおいたのに」 そう言って、そのまま頭をかかえこむ。 「うまく適合しやすかね。アリフみたいにならないといいんでやんすが」 「見た感じでは、おそらく問題ないと思うわ」  すると、男が話に割り込んできた。 「おい、その、アリフってやつ、オレの額に何か貼り付けた例の老人か?」 (ほお、このお猿は、すでにアリフに会っているってこと

      • サードアイ ep 6 特殊任務

         人々が平和で安寧に暮らせる世界を私は心から望んでいる。春のうららかな太陽が寒さに凍える命を温めるように、人々の不安を溶かして活力を与えたい。そして、全ての人が夢に向かって輝いていけるのなら、火花を散らして突然落ちる線香花火がごとく、我が命を燃やし尽くしても構わないとも本気で思っている。  しかし、多くの人は夢を語るどころか、うだうだと文句をいい、できない理由を並べ立て、あげくに邪念に惑ったりする。己の命の使いみちを考えたことなどないのだろう。そういう奴らには仕置きの鉄槌と灼

        • サードアイ ep 5 額の封印

           俺は元いたベッドの上に座らされ、五人に取り囲まれた。見回すと全員、風変わりなやつらばかりだった。三つ子なのか、全く同じ顔をしたモデルみたいな背の高い女たちが、同じポーズでにらみをきかせている。ちょっとでも下手な動きをしようものなら一瞬で封じられそうなオーラに、さすがにこっちも気圧される。その後ろには、なよなよとしたやつが、女どもの影にかくれるようにしてこっちの様子をうかがっている。残りの一人、白衣を着た小柄なおっさんが、道化師みたいな足取りで前に出てきて、素っ頓狂な声で話し

        サードアイ ep8 ラボ見学 

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        • 小説「サードアイ」
          7本

        記事

          サードアイ ep4 額の手術

           気が付くと俺は硬いベッドの上だった。ウィーンという微かな機械音がする。ここはどこだ。起き上がろうとするも、身体が思うように動かない。向こうから話し声が聞こえる。二、三人くらいか。しばらく様子をみることにした。 「よくもまあ、こんな大物を一人で引き揚げてきやんしたね。ステファンにしては上出来、でさぁ」 「だって、レッドアイの持ち主だよ。野放しにしておくわけにはいかないよ」 「正確 には ファイヤーレッド アイ デス」 と、とんがった女の声が平たく拡がる。 「そうそう

          サードアイ ep4 額の手術

          サードアイ ep3 額に指

           公園のベンチまで男と連れ立ってきた。緊張からか、息が切れてしまい、変な汗をかいていた。できるだけ平静を装って男に声をかける。 「とにかく、ここに座ってください」 男は怪訝そうな顔をしながらも、どすんと腰かけた。ボクが男を見おろす形となる。 「なんなんだよ、急にこんなところまで引っ張ってきやがって」 「すみません。ただ、ちょっと、そのおでこの傷が気になって」 「はぁ?でこの傷?」 「ええ、何だかちょっと不思議な感じがして。どうされたのかなって思って。す、すみません

          サードアイ ep3 額に指

          サードアイ ep2 額の引力

           ある日の休日。ボクはいつものように左足から靴を履き、玄関を右足から出て公園まで歩いていく。ここからはマイルールを発動させない。外界ではいろいろと邪魔が入ってしまい、思うように動けなくなるからだ。案の定、自転車が猛スピードで向かってきて、道の端に避けることとなった。 (やれやれ、今日が雨でなくてよかった。さてと、気を取り直して、右足から行くとするか。お次は左でと) どすっと、何か堅いものにぶつかったようだ。 「おい、どこ見て歩いてるんだよ」 しまった。まずいのに遭遇してし

          サードアイ ep2 額の引力

          サードアイ ep1 額に傷

           俺の額はいびつだ。眉毛から上に向かって丘のように盛り上がっている。何かでぶつけたとか、変な病気だとかではなく、生まれながらにいびつな形だったそうだ。赤ん坊の俺の頭はそりゃあ重かったんだと母ちゃんが言っていた。だからなのか、子供のころにあまり抱きあげられた記憶がない。  学校ではクラスの奴らにデコ、デコといじられてきた。ある日、頭にきて頭突きを喰らわせてやったらイチコロで、やつら、泣いて謝っていた。 「オレをあなどる奴は容赦しねぇぞ」 それ以来、からかってくる奴はいなくな

          サードアイ ep1 額に傷