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仕事が辛い新社会人へ

4月に入り、新社会人の苦労や辛さを綴ったXの投稿や、期待と不安の入り混じる表情を浮かべたリクルートスーツ姿の女の子を見かけることが多くなった。その度に、例に漏れず自分の辛かった社会人1年目の4月を思い出す。

出版社・マスコミ縛りで30社ほど採用試験を受けたが全滅し(今考えるとトンチンカンな受け答えしかしていなかったので当然の結果だと思います)、編集と近い職種を経験できるだろうと思い、広告制作も行っている人材系の会社に入社。就活から入社まで、とにかく大学4年生は絶望に打ちひしがれていた。

とはいえいざ入ってみたら意外と楽しいかも、などと期待に胸を膨らませながら迎えた4月1日。中くらいの大きさの会議室に、学校のように並べられた席に新卒生25人くらいがずらりと座る。みんな明るく、快活そうな笑顔を浮かべている。

すでに内定者懇親会などで輪ができていたようで、席で話している男女もちらほら。私も親切な女の子に話しかけてもらい、なんとか笑顔を作って「よろしくね〜」などと返答する。

話さなくてもわかる、これは「陽キャ」の集団だ...。中高で培ってきたカースト察知センサーで、みんな運動も勉強もできて友達もたくさんいる、学級会では場を仕切ってしっかり意見を言うタイプの一軍〜二軍だと判断できた。でも、とりあえずみんなとても優しそうだ。間違いなく学校では友達にならないタイプだが、悪い人たちじゃないし、話せば仲良くなれるかも...。毎日研修をこなせばもっと馴染めるはずと自分を鼓舞した。

しかし、初日に感じたほのかな違和感は日に日に強まっていき、次第に研修に行くことが苦痛になってきた。研修ではほぼ座って授業を受けるだけにも関わらず、グループワークや休憩時間に味わうなんとも言えない居心地の悪さに耐え難くなってくる。みんな成長意欲に溢れていて、自分の意見をしっかり言いながら課題を進めていく様子にも焦燥感を覚えた。
もし彼らに「おっぱいが好きで〜」などと言ったらドン引きされるだろうし、ボソボソ「ミツメの新譜がさ...」と話したら「え?何それ?」と怪訝な表情をされるだろう。だんだんと自分は場違いなんじゃないか...という不安がもやもやと心を支配していく。

17時半にあがり、23時に寝る。そして6時に起きる。毎日22時に帰っている今から考えると想像もできないほど健康的な生活だが、夜型の私にとってはこの日々もなかなかに辛かった。まず、毎朝6時に起きなければいけないのが辛い。特に大学時代は毎日4時に寝て12時に起きていたのもあり、早起きはどれだけ繰り返しても慣れなかった。
そして、満員電車で通勤しなければいけないのもしんどかった。女性専用車両があるのでまだありがたいが、毎朝ぎゅうぎゅうの電車に飛び乗って道中をやり過ごすあの時間は、地味にメンタルを蝕んでいった。だんだん自分が、大量生産され市場に売られていく加工肉なのではないかという気持ちになっていった。

この電車に耐えて目的地に降り立ったところで、自分を理解してくれる人もいないし、理解できる人もいない。もちろん会社は友達を作ることが目的ではなく、会社に利益をもたらし対価をもらうことが目的なのは頭ではわかっている。ただ、うわべだけの会話や全く共感し合えない話題が何より苦手な私にとって、「微妙に仲間はずれ」なことが辛い日々だった。

最近、入社して数年でいじめられている、という投稿を見た。そんなにひどい会社があるのかと愕然としたが、確かに会社には「社風」というものがある。私も数社転職したが、それぞれの会社にははっきりと会社の雰囲気があり、そこに馴染めない人、あるいは結果を出せない人は「異端」扱いされるのだ。正直、新卒で勤めた会社で私はそのどちらにも当てはまり、「仕事ができないヤバい奴」という、会社にとっても自分にとっても最悪なポジションに位置していたと思う。

今勤めている会社でも、自分が仕事ができる方なのかは正直わからない。評価をする上司がいないので(ほど小さな会社なので)判断のしようもないけれど、今まで勤めた会社よりも理解し合える人が多いことは確かだ。だから、新卒で入った会社に馴染めない、居場所がないと悩んでいる人がいたら、それは今よくXで目にする「社会不適合者」「異常者」「弱者」なのではなく、それは環境次第でどうとでも変わるということを頭のすみに入れておいてほしいと思う。

今でも、SNSで大手や有名企業に入った周囲の人が誇らしげに仕事ぶりを投稿しているのを見ると、尊敬するとともにギュウっと心臓を掴まれるような痛みを感じるけれど、毎日ストレスなく過ごせる方法は人によって異なる。どれだけ財を成しても立派な肩書を手にしても、死んだら全て無になるのだ(子どもやパートナー、家族などに財産は与えられるけど)。死ぬまで自分が楽しく過ごせるようにしよう、と最近は割り切っている。

春になると田中ヤコブの『お湯の中のナイフ』が聴きたくなる。再生すると、あの1年目の4月、満員電車で潰されそうになりながら聴いていたことを思い出し、あのときの辛さがブワーッと蘇ってくる。

破れそうだけど 破れない
千切れそうだけど 契れない
詰まりそうだけど つまらない
暗渠は続くよどこまでも

1曲目「The Drain」の歌詞はこのように始まるが、最後はこんな歌詞で締まる。

諦めなきゃ夢は叶うし 君は君のままでいいし
明けない夜もないみたいだし
自分でいんなら それでいんじゃない

この歌詞に何度救われたことか…。

毎日悩みは尽きないが、新しい世界に踏み出したときの、先の見えない苦しみは他には味わえない。新社会人の皆さんには、どうか自分を責めずに、自分らしく生きることを第一に考えて過ごしてほしいと思います。

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