見出し画像

ブックライターとデザイナーの理想的な関係性とは?〜ライターなるには日記【第8回】<表>

 今年の「サッカー本大賞」の読者投票が、3月10日で終了した。優秀作品に選ばれたのは12作。選手ものあり、旅ものあり、歴史ものあり、ハードなジャーナリズムあり。活字離れと言われて久しい昨今だが、2021年は思いのほか、サッカー本の佳作が揃い踏みした年であったと言えよう。

 こうしてエントリー作品を並べてみると、書籍の内容だけでなく、カバーデザインのバリエーションを見比べてみるのも楽しい。手にとってもらえるチャンスを増やすという意味で、やはり書籍は「見た目」が大事だ。

 今回エントリーした、拙著『蹴日本紀行』。カバーデザインのテーマは「賑やかさとシンプルさの共存」である。47都道府県のフットボールのある風景を散りばめながらも、ごちゃごちゃしてしまうのは避けたいところ。そこで白い帯の面積を大きく取り、マスコットたちを散りばめながら黒字のタイトルをシンプルに配置するデザインが採用された。

カバー

 デザイナーには、マスコットの切り抜きカットを含めると、実に500点以上の写真データをお渡ししている。それらをバランスよく仕上げていただいたのが、tentoの漆原悠一さんと栗田茉奈さん。彼らの優れたデザインワークがなければ、これほどクオリティの高い写真集に仕上がることはなかった。

 もしもサッカー本大賞に「ブックデザイン賞」というものがあれば(ぜひ検討していただきたい!)本書は間違いなく受賞できると自負する。ちなみに帯をめくると、こんな感じだ。

画像8

 いうまでもなく書籍は、著者だけで完結するものではない。まず、優秀な編集者は不可欠。次に重視したいのが、デザイナーである。書き手の中には「自分は書くことに集中しますので、デザインは専門の方にお任せします」というタイプもいる。だが、私の場合「写真と文章」というスタイルであることに加えて、美術系大学で学んできたこともあり、かなりデザインにはこだわるタイプだ。

 もちろん、デザイナーという職能には心からリスペクトしているので、こちらから口うるさく要求することはしない。その代わり、デザイナーの人選については、編集者と慎重に行う。「この人で!」と決まったら、書籍の世界観をデザイナーに伝えて、そこから出てきたラフ案に検討を重ねてゆく。このやりとりもまた、ブックライターという仕事の醍醐味のひとつである。

 ところでブックライターは、ちょくちょくデザイナーを変えるものだろうか? それとも一度「この人で!」と思ったデザイナーに、ずっと依頼するものであろうか? 私の場合、キャリアの前半においては、典型的な後者であった。

画像7

 デビュー作となる『幻のサッカー王国』から始まって『サポーター新世紀』『ディナモ・フットボール』『股旅フットボール』、そしてミズノスポーツライター賞の大賞となった『フットボールの犬』。これらはすべて、同じデザイナーによる仕事だ。デザイナーの名は、伊藤丙雄(いとう・あきお)という。

 もっとも伊藤さんは、専門のブックデザイナーではない。名前を検索すればわかるが、彼は東京工科大学の教授であり、さらには絶滅哺乳類や恐竜のリアルなイラストレーションの大家でもある。そんな彼がなぜ、サッカー書籍のカバーデザインをいくつも手掛けるようになったのか? 本稿では、伊藤さんの最後の作品となった『松本山雅劇場 松田直樹がいたシーズン』の制作秘話から、その理由を解き明かしていくことにしたい。

画像9

【以下、OWL magazine読者のみに公開】OWL magazineでは、サッカー記事や旅記事が毎日、更新されています。Jリーグだけでなく、JFLや地域リーグ、海外のマイナーリーグまで幅広く扱っています。読んでいるだけで、旅に出たくなるような記事が盛りだくさん。すべての有料記事が読み放題になる、月額700円コースがおすすめです。

 なお、今回のサッカー本大賞で優秀作品に選ばれた『蹴日本紀行』は、徹壱堂でお買い上げいただきますと、著者サイン入りでお届けいたします。

ここから先は

2,016字 / 5画像
スポーツと旅を通じて人の繋がりが生まれ、人の繋がりによって、新たな旅が生まれていきます。旅を消費するのではなく旅によって価値を生み出していくことを目指したマガジンです。 毎月15〜20本の記事を更新しています。寄稿も随時受け付けています。

サポーターはあくまでも応援者であり、言ってしまえばサッカー界の脇役といえます。しかしながら、スポーツツーリズムという文脈においては、サポー…

よろしければ、サポートをよろしくお願いします。いただいたサポートは、今後の取材に活用させていただきます。