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『なつぞら』とばんえい競馬とスカイアースと〜コンサだけではない北海道フットボールの旅

「や〜さ〜し〜あ〜の〜こ〜に〜も〜お〜し〜え〜〜たい〜」
 ということで、NHK朝ドラの主題歌をリフレインさせながら、帯広での旅の話を始めることにしたい。サッカーファンにとっての「北海道遠征」というと、たいていの場合は札幌ドームでの日本代表戦、あるいは北海道コンサドーレ札幌のホームゲームということになろう。私自身、ここ10年の間はずっとそんな感じだった。

 北海道でサッカーといえば、間違いなくコンサ。それは誰もが認める事実である。しかしながら、北海道はとてつもなく広大だ。いくら「北海道」を名乗っても、コンサは釧路や旭川や夕張では試合をしてくれない。もちろんこれはコンサ側の都合によるものではなく、札幌以外にJリーグを開催できる競技施設がないからだ(2016年以前には、函館や室蘭での特別開催の実績はある)。

 そんな中「北海道から第2のJクラブを」目指す動きが、帯広で静かに進行している。それが、北海道十勝スカイアース。現在、北海道リーグを首位爆走中、リーグ3連覇は間違いないと目される強豪である。もっともJFL昇格を目指す地域CLでは、北海道勢は常にアウトサイダーという位置づけ。Jリーグはもちろん、全国リーグ(すなわちJFL)に羽ばたいていくのも、北海道勢には決して容易なことではない。

 今回のスカイアースの取材の成果は宇都宮徹壱ウェブマガジンにて来週掲載予定だが、本稿では帯広滞在中に出会った風物を写真とともに振り返ることにしたい。そして十勝の豊かな風物のみならず、多くのサッカーファンには馴染みのない北海道リーグについても触れておこうと思う。北海道のフットボールは、コンサだけではない。そこには道外の人間には想像がつかないくらい、実にディープで味わい深い世界観が広がっているのだ。

 8月24日、とかち帯広空港に到着。帯広を訪れるのは2007年以来、実に12年ぶりである。ちょうど朝ドラ『なつぞら』の舞台が十勝ということで、空港内にはポスターが所狭しと貼られてあった。思わず「なつよ……」とつぶやいてみる私。

 リムジンバスに乗り込んで帯広駅へ向かう。案の定、車内放送はスピッツの『優しいあの子』がBGMになっていた。帯広は今まさに『なつぞら』一色。しかし「空と大地(=スカイアース)」のことで頭がいっぱいの私は、ふと久保田早紀の『異邦人』を口ずさみたくなる。

 帯広駅前に到着後、重たい荷物を引きずってスカイアースの事務所に向かい、最初のインタビュー取材を行う。こちらは昨年のポスター。前クラブ代表の藤川孝幸さんは昨年、56歳の若さで死去。城彰二スーパーバイザーは現在、藤川さんの意志を継いでGMを務める。

 取材が終わったのは18時近く。すでに周囲が夕闇に包まれる中、ポッカポッカと蹄の音が。振り返ると観光用の馬車であった。北海道では「どさんこ」と「ばん馬」の二種類をよく見かけるが、こちらは少しほっそりしているので前者と思われる。

 翌日は日曜日。北海道リーグを取材するべく、帯広駅から根室本線に乗って幕別駅を目指す。当地は完全なる車社会で、列車の本数は極端に少ない。目的地までわずか2駅だが、これを逃すと次の列車は2時間後なので、ヒヤヒヤしながら乗車。

 幕別町はアイヌ語の「マクンベツ」(山際を流れる川)に由来。パークゴルフ発祥の地としても知られ、駅前には記念彫刻が置かれている。道行く人がほとんどいないので、いささかシュールな光景。ここから徒歩で、会場の幕別町運動公園陸上競技場に向かう。

 北海道リーグは、なぜか午前10時キックオフが通例となっている。この日の試合は、帯広青年会議所が設立した十勝総合スポーツ構想実行委員会が主催する「とかスポ」として開催。早朝にもかかわらず、850人もの観客が来場した。

 この日、スカイアースが迎えたのは、北蹴会岩見沢。上を目指すチームと目指さないチームとの実力差は、ここ北海道リーグでも例外ではなく、12−0という一方的なスコアに終わった。リーグ3連覇は間違いないスカイアース。だが、全国への道は決して容易ではない。

 試合翌日の月曜日は観光。といっても帯広の観光スポットは非常に限られている。土日月にばんえい競馬が行われると聞きつけて、バスに乗車して帯広競馬場へ。観光客向けのレストランや土産物屋、そして鉄火場特有の場末感がセットになった不思議な空間である。

 一般的な競馬とは異なり、ばんえい競馬は重たい鉄ソリを引いて行われるので、文字通りの馬力勝負となる。ここでは足が短く胴が太いばん馬が用いられるのだが、重たいソリを引く姿が何だか気の毒に思えてきて、わずか2レースで席を立ってしまった。

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