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台割の向こう側に完成品が見えた時〜ライターなるには日記【第4回】<表>

 信州に向かう新幹線の中で、この原稿を書いている。今回は『すたすたぐるぐる』の取材。 先日発売された埼玉編につづき、今度は信州・長野編ということで、北信越リーグ1部のアルティスタ浅間を中心に、東信地方を取材する。

 こちらが現在、絶賛発売中の埼玉編。このシリーズは年4冊出すとのことなので、残り46都道府県をコンプリートするのは2032年くらいになりそうだ。私がこのほど上梓した『蹴日本紀行』も、15年にわたる国内取材がベースになっている。ぜひ気長に、そして着実に続けていってほしい。

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 さて、本題。前回は「バラ売りライターがブックライターになるために」というテーマでお届けしたが、台割の重要性を語リ始めたところでタイムアップとなってしまった。今回はそのつづきとなるわけだが、あらためて私自身が初めて「書籍づくり」を経験した話をお伝えすることとしたい。

 以前にも触れたが、私のデビュー作は1998年に発売された『幻のサッカー王国 スタジアムから見た解体国家ユーゴスラヴィア』。版元は勁草書房といって、主に学術書を出す出版社だった。ハードカバーで2970円+税。今のサッカー本では考えられない価格だが、私がこれまで発表した書籍の中で、最も版を重ねた(初版が2000、2刷りが1000、3刷りが500、4刷りが250)。

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 書籍の内容は、私が初めて訪れた、旧ユーゴスラビア諸国の旅の記録である。スロベニア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、そしてセルビア──。ボスニア内戦を終結させたデイトン合意が署名されたのが、1995年12月14日のこと。私が初めて彼の地にわたったのは、それから1年3カ月後の97年の2月であった。まだあちこちに、戦闘の傷跡が残っていた時代である。

 もっとも私は戦場カメラマンではないので(渡部陽一さんに似ていると言われたことはあるが)、戦争の傷跡をカメラに収めるために彼の地に渡ったのではない。かつてユーゴスラビアというひとつの国を形成していた諸民族が、何故に憎悪を募らせた末に殺し合い、国がバラバラになってしまったのか? そのヒントを私は、それぞれの国のフットボールに求めたのである。

 国境を越えては、さまざまな人と出会い、スタジアムを訪ねては、その国独自のフットボール文化を体感する。そして旅の中で得たさまざまな経験を、写真と文章を組み合わせながら作品化していく。私の現在のスタイルは、まさにこの時に確立したと言ってよい。と同時に、私のデビュー作は自ずから「旅とフットボール」の作品となっていった。

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 なお、宇都宮の新著『蹴日本紀行』は、徹壱堂でお買い上げいただきますと、著者サイン入りでお届けいたします。

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