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「どうして私はフットボールを書き続けているのでしょうか?」〜ライターなるには日記【第5回】<裏>

 早いもので2021年も残り1週間足らず。そして、今日はクリスマスである。

 しかし私は、来年1月下旬に上梓するサッカー書籍のために、執筆、執筆、また執筆である。サンタクロースも、ケーキも、ツリーも、まったく無縁のクリスマス。いや、別段クリスチャンではないし、柄でもないことも重々承知している。それでも、こんなに世の中が浮かれムードの中、ふと思うのである。

「どうして私はフットボールを書き続けているのでしょうか?」

 ひとつには、書籍が完成した時の喜び、というものがある。2021年の前半は、初めての写真集となる『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』の取材と執筆とゲラチェックに追われていた。発売されたのは7月31日。感慨に浸ることなく、今度はプロモーションと個人ECサイト『徹壱堂』での販売に注力した(というわけで、ここでも宣伝)。

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 とはいえ「書籍が完成した時の喜び」というのは、別にサッカーでなくてもいいはずだ。小説でも、グルメでも、旅行ガイドでも、もっといえばタレント本でもノウハウ本でも、書籍の制作に携わってきた人であれば、完成の喜びは等しく同じだと思う。なぜフットボールなのか、という答えにはなっていない。

 そんな時、現在進行中の書籍で編集アシスタントをお願いしている、アリサさんから質問をいただいた。アリサさんには今回、膨大な量のインタビュー起こしをお願いする一方で、まえがきとあとがきの構成をお願いしている。彼女にとっては初めてのチャレンジだったが、いろいろと思うところがあったようだ。

 質問は2つあります。これまで何度か文章を書く機会がありましたが、主にインターネット上で掲載の記事でした。今回、本作りに携わる機会をいただき、文章を書く上で意識する点が大きく異ると感じました。
 そこでひとつ目の質問は、特に「読みやすさ」と「惹きつけ方」というテクニカルな部分を教えて下さい。
 ふたつ目の質問は、ライターに今、求められるものです。記事を書いてみたいという気持ちはある一方で、人の関心を惹きつけるような企画を考えるのに苦戦しています。今はネットで簡単に、いろんな必要な情報を集められる世の中になりました。そんな中、どんなものを世の中が求めているのか。宇都宮さんのお考えで教えていただきたいです。

 ひとつ目の質問については、アリサさん自身が担当した文字起こしの原稿が、どのように原稿に落とし込まれていったかを確認すれば、ある程度は理解していただけているはずだ。「読みやすさ」や「惹きつけ方」というものは、言葉やテキストで言語化できるものではなく、プロセスの中から学んでいくほかない。そんなわけで、本稿では割愛させていただく。

 ふたつ目の質問については、きちんと答えになるかはわからないけれど、いちおうは言語化できそうだ。しかも、本稿の問題提起と見事に響き合っている。そんなわけで、さっそくアリサさんへの回答をしたためることにしたい。なお今回は、今年の国内取材の現場で撮影した写真を散りばめてみた。

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 アリサさん、こんにちは。ご家族と楽しいクリスマスをお過ごしでしょうか? 私のほうは、書籍の追い込みで日々忙殺されております。

 例年ですと、この時期も天皇杯の取材で現場に行くことも多く、それなりに社会とのつながりというものが感じられていたように思います。今年は12月19日で天皇杯が終わり、それからは毎日が原稿と向き合う日々。年内に設定された締め切りまでは、すべてのリアル飲み会をキャンセルして、茫漠とした孤独感を噛み締めながらの作業を続けています。

 さて、ふたつ目の質問にお答えしたいと思います。「人の関心を惹きつけるような企画を考える」「どんなものを世の中が求めているのか」ということですが、立脚点がマーケティングとクリエイティブで、考え方が違ってくるのではないかと思います。どちらの視点も必要なのですが、両方とも優れている人というのは、そんなに多くはないように感じています。

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 私の場合、マーケティングの素養が欠けているみたいです。素養があれば、今以上に売れる本を作っているでしょうし、そもそもサッカーというテーマを選んでいたかどうかも怪しいところです。少なくともこの国において、サッカーが一般的な「人の関心を惹きつける」とは言い難いですし、それだけ「世の中が求めている」かについても怪しいところです。

 むしろ私が最近、よく考えるのは「サッカーと社会との関わり」。サッカーの競技そのものが、面白いコンテンツであることは言うまでもありません。が、少なくともわが国において、広く関心を集めているわけではないのも事実。サッカーの魅力や奥深さを、コアなファンだけでなく一般にも知っていただくきっかけを作っていかなければ、この業界はいつまで経ってもタコツボのままです。

 すでにお気づきかと思いますが、われわれが関わっている書籍『前だけを見る力』もまた、実はそうした意識に基づきながら作られています。

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 なお、宇都宮の新著『蹴日本紀行』は、徹壱堂でお買い上げいただきますと、著者サイン入りでお届けいたします。

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