勝ちに惑わされるな  ー世界の決勝に届いた戦法ー

私はマジック:ザ・ギャザリングにて年に1回行われる世界選手権で準優勝を果たした。私はプロツアー(以下PT)という年に3回行われる世界大会で好成績を出してトントン拍子で世界選手権に出場した…というわけでなく何度も失敗して、敗北してきた。そのたびに反省して次の大会に備えるということの繰り返しだった。そしてその繰り返しが私を強くして今回の世界選手権の準優勝まで漕ぎつけたのだと自負している。

今回はそんな失敗を反省したことで習得した戦法を解説する。

有利って本当?

TCGである以上運が存在する。例えデッキの相性が良かったとしても負け越してしまう事があるし逆もまたしかりだ。また自分と相手のプレイングに差があった場合でも相性を覆してしまう。基本的なことであるが、それを念頭に入れてデッキの評価、調整を出来ている人はどれほどいるのだろうか?

「〇〇(一番使われているデッキ)には有利」とよく聞かないだろうか?それは本当だろうか?分母が多いデッキなので初心者がコピーして使いやすく、結果そのデッキの使用者のプレイスキルの平均が低くなっていたり、たまたま運で勝った時の印象が強いだけでないだろうか?理論的にどう有利か考えたうえで言えている人は少ないように思える。また考えていたとしてそれが正しいかどうかも怪しい。

しかしそれは仕方ないのだ。勝つことを目的にTCGをやっている人が大半でありデッキの評価に勝敗に応じてバイアスがかかるのは当然だからだ。またTCGは様々な要素が関わる為、全てを合理的にまとめることはほぼ不可能である。

しかしそれでも勝敗のバイアスに影響されず、少しでも理屈を詰めていかなければ勝てないのがTCGだ。

評価の見誤り

私はあるPTに向けてチームメンバーの1人とデッキAとデッキBの対戦練習を行った。その際、私が扱うデッキAが全勝した。デッキAに不利ならばデッキBは選択肢から外すべきだという判断になったが、結果としてはデッキBが有利であり、PT優勝はデッキBであった。

大会が終わったあとに勝ったデッキを練習しておけば良かったなどの議論は結果ありきの話なので意味は薄い。だが調整方法を顧みるのは今後の調整の糧になる為効果的だ。

リストは最適であったか?プレイは最適だったか?引きは悪くなかったか?

顧みると、私はデッキAを良く調整していたためデッキAのリストは最適化されていた。一方デッキBは適当に大会で活躍したリストをコピーしたもので、とても最適化されているとは言えなかった。デッキBを使う側が慣れていなかったこともあり、プレイが良くなかった。これらの要素に加えて引きムラもある。これでは勝敗だけで相性を表すことはできないだろう。

そうであったにもかかわらず、私が全勝したという事実のみに着目して相性を決めつけたことが失敗であった。勝敗のバイアスに大きく影響されてしまったのである。

正しい評価を下すための戦法

このままではまた勝敗のバイアスに影響されて評価を間違えてしまう。そこで私は2点の戦略を考え、世界選手権で実行した。

①対戦相手の動きを想定して最適なプレイ、カード選択を見つける。

①は実際に行われているゲームの内容だけではなく、
・相手にあるカードが今使われたらどうなるか?
・自分のカードが別のカードだったらどう変わるか?

これらを意識することである。実際にその場面に遭遇できれば良いが、試行回数をこなしてもその場面になるかどうかはわからない。あらゆる状況を想定したいのであれば、そういった場面であると想像するしかない。

相手のプレイする可能性のあるカードを想定して、その中で脅威となるカードを理解する。そうすれば脅威となるカードに対して効果的なプレイ、カードを選択できる。

また自分の持っているカードから逆算して相手のどのカードに有効かも考えることもできる。相手のプレイするカードに対して持っているカードが有効でなかった場合、他のカードであったら有効ではないかを検討できる。

逆に有効なカードが多すぎるのも考えものである。対面のデッキに対してのみ強くなっていて他のデッキに弱くなっていないだろうか?他のデッキに対して有効で、対面のデッキにもそこそこの効力のカードの検討を視野に入れることができる。

実際の対戦からだけでなく、一人回しも効果的である。一人回しならば最初から最後まで相手のプレイを想定できる。また対戦相手がいないので短時間で多くの試行回数を重ねられる。TCG故に机上だけでは理論を詰める事が難しい要素があるが、試行回数を重ねることで経験で補うことができるのも良い。


ここまで読んでわかったと思うが、まず相手のデッキやカードの性質を理解する必要がある。どのゲームレンジで戦うのか、軸となるカードは何なのか。

また理解するだけでなく効果的に対策できる術を考慮する必要もある。
さらに対戦中はそもそもそれらのことが頭から抜け落ちていて考えすらしないということも頻発する。

知っておくべきことや考えるべきことが多く自分一人ではカバーしきれないだろう。そこで②である。

②自分と対戦相手を含めない第三者によりゲームを見てもらい、フィードバックを聞く。

②はゲーム参加者の意見だけではなく
・多くの人の考えを知る。
・ゲームをプレイしていない俯瞰した視点だからこそ見えてくる意見を聞く。

を目的とする。

プレイングやデッキ、カードの性質、対策は多くの人から意見を聞き知見を広めることが有効だ。ゲームをプレイする2人だけだと固定観念に囚われて同じような意見しか述べられない可能性がある。1人だけでも別の意見を述べてくれれば視野は広がり、それが最善な選択の可能性がある。

ゲームをプレイする側としない側の違いは実際にプレイしている点と、感情の昂ぶり度合いの2点である。

プレイする側はカードをプレイするアクションで思考のリソースを使用している。そして勝ちたいのでゲームが動くたびに一喜一憂し、感情が思考に影響を与え思考力が低下したり、合理的でないプレイを度々もたらす。

一方プレイしない側は俯瞰的にみられるだけの思考リソースがある。自分の事ではないので勝敗は気にせず考えが感情に左右されることはない。俯瞰した視点でゲーム内容を読み取ることができるので合理的な意見を出しやすい。第三者がいた場合、「全勝したから有利!」といったゲーム感を考慮しない結果のみを見た合理的でない私と対戦相手の意見に反対意見を述べてくれた可能性は高い。

私達はゲームをプレイする 2人以外にも2人ほどゲームを見て意見を述べる人がいるようにして練習した。これらのフィードバックで得られる情報は勝敗のバイアスがかかっておらず効率的に情報を精査でき、理論的に正確な評価が下された。


私は①と②の戦法を実践し、世界選手権に出場する4人と他20人弱の仲間たちで調整を行い、様々なデッキ、カードを試行錯誤した。対戦や一人回しであらゆる状況を想定すること、対戦中に第三者からの意見を聞くことで少ない時間で正確なデッキ、カード、プレイの評価を下した。そして多くのメンバーからの意見を吟味して調整を重ねた結果生まれたデッキは、参加した世界選手権2023でのベストデッキだったと胸を張って言える。

最後に

勝敗のバイアスにかからないようにするのは大変だ。自分の感情に逆らうようなものだからだ。強いと思っているデッキ、カードの弱みを見つける。自分のプレイの間違いを認める。またこれらの逆も精査する。どれが正しいか分からなくもなってくるだろう。そこで必要なのは信頼できる仲間だ。

TCGに明確な強さの上下はあまり存在しない。人によって優れている点が異なるからだ。仲間の良いところを理解していくことで良いところに沿った意見を信じることができる。そうすれば分からなくなったとき、仲間に頼ることができるだろう。

また信頼できる仲間ができることはモチベーションの上昇も望める。私は何度も失敗してきて敗北したといったが、それでも挑戦を諦めなかったのは一緒に調整した仲間たちがいたからだ。彼らと切磋琢磨し、助け合ってきたからこそめげずにここまでこれたのだ。感謝してもしきれない。

読者に信頼できる仲間がいるのなら是非一緒に頑張ってほしい。もしいないのであればそういった人を作ることが勝利への大きな一歩になるだろう。


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