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元気になる

見慣れた路地に見慣れない花が咲いていて
きっと通り過ぎてきたはずの毎日の中で
その日は不意に写真を撮った

気まぐれだったのだと思う

仄暗い空と建設中の鉄骨

軋む音が聞こえるような錆が進んだ橋

そんなものばかりのカメラロールの中に
一輪だけ花を閉じ込めた
眺めていた
そこだけの彩りに眼を摘まれた

次の日も、その次の日も、その路地に花を撮りに行った
私が様子を見に行くたびに
その花弁はより美しく、眩しく輝くようになった

毎日、毎日写真を撮りに行った
いつのまにか、そうして気づく
私のカメラのフォルダは、その花で一面が埋まっていた
花々を眺め、また気づく
花弁はその美しさを
眩しさを
最初から持っていたのだと
輝くようになったのではなく、私の目が晴れていったのだと
変わったのは花ではなくきっと、私だった

晴れた目で見た空はそれは広く青かったことを、私はようやく思い出した

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