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挑戦と応援と実践、そして出会い~テラロック2nd~

 オープンイノベーション地域交流会、改め、寺西ロックフェスティバル(テラロック)。改め過ぎた感の否めない混沌としたイベントが21日、高松市内で再び開かれた。2度目の正式開催となった今回のテーマは「冷笑はいらない、熱源であれ」と、音楽性は無いものの、かなりRock調なものとなった。この抽象的なテーマのもと、多彩なゲストがどう呼応し、どのような化学反応が生まれたのか。先輩から最近もらったヘッドホンでRockを聞きまくるライター、ジョニー田中がリポートする。

opening;【挑戦と応援をそれぞれにする人が集まれば、自然に行動につながる】

 「本当にやりたいことは何か」「失敗や笑われることを恐れていないか」と疑問を投げかけ、「情熱を持ち、応援する仲間がここにいる!」と力強く呼びかけるムービーが流れ、参加者は真剣なまなざしを向け続けた。そして万雷の拍手が起き、第2回テラロックの幕が上がった。

 主催者の寺西康博氏が冒頭、早口でまくし立てたのは、

・社会にはびこる同調圧力に対する危機意識
・挑戦する人を全力で応援したい
・ここにできたネットワーキングの力を信じ、さらにその次へ歩を進めるという決意

の3点について。主催者がいきなり予定時間を超過するという圧倒的な熱量を見せつける。

panel-discussion;【やりたいことがあるなら、やれ!】

 そして始まったのが、香川県を中心にすでに大活躍している3人をゲストに招いたパネルディスカッションだ。登壇者は以下の通り。

中橋恵美子さん NPO法人「わははネット」理事長
 「子育てをもっと楽しく!」をモットーに、親子がより生きやすい社会を作るため、情報発信に始まり、居場所づくり、イベント企画など、全国でも先進的な支援活動の数々を香川から実践する。

徳倉康之さん 株式会社「ファミーリエ」代表取締役
 職業は「お父さん」。家族生活や子育てについて、日本に生きる一人ひとりがより良く意識できる生き方を考え、実践し、広める活動を、様々な形を模索しながら実施している。2019年には新たに任意団体「Kids Friendly Club」を立ち上げた。

宮武将大さん 一般社団法人「hito.toco」代表理事
 12歳で不登校となり、20歳までひきこもり生活を送る。就労移行支援などを行う法人を2016年に立ち上げた。元当事者としてできる支援は何か。思索を繰り返し、次々と行動に移す。どのような働き方や生き方が広がっていくのか、次の時代を見据え、あらゆる人が生きやすい社会を目指し奮闘を続ける。

 モデレーターを務めたのは浜谷栄彦氏。共同通信社高松支局のベテラン記者だ。「すでに一歩を踏み出し、実績を残している方々。なぜチャレンジできたのかをここで聞き出したい」と力強い言葉でスタートを切る。

 「自分が子どもを産んだ後で、見える景色が変わり、わからないことだらけだと衝撃を受けた」と、挑戦を始めた当時について語る中橋さん。女性用トイレにすらベビーキープがなかった、といった数々の苦労エピソードを披露し、「自分の困りごと、不便なことで、でも私が悪いみたいに言われてしまう時代だった。そこに対する正義感や怒りはあった。でも、社会を変えようなどと考えていたわけではなかった」と振り返った。

 「起業するために香川に帰ってきた」と語る徳倉さん。時代に先んじて育休を取得した経験や、NPO法人「ファザーリング・ジャパン」事務局長としての仕事が現在の仕事を形作っている。「社会を変えるビジネスを担った。それをベースに起業ができないだろうか」と考えたという。

 元不登校、ひきこもり経験者として支援活動を行う宮武さんだが、学生時代は「感情移入してしまうので、支援をするのはむしろ嫌だと思っていた」と明かした。しかしある時期、支援者から不登校になった子の気持ちについて相談を受け、「僕が不登校になってからもう十数年が経っていながら、こういう子の気持ちがわからない人がまだいることに驚いた」と危機感を抱く。必要な支援を十分に受けられなければ、人生の選択肢が少なくなってしまうと指摘し、「チャレンジできる場をどんどん作りたかった」と思いを語った。

 浜谷氏は最後に、「新しいことを始めるにあたり、1人ではしんどい。仲間が必要だと思う。どのように支援を集めるのか」と投げかけた。徳倉さんは「仲間は(必ずしも)要らない」と断言。中橋さんは「自分がやるかやらないか、という話。仲間がいるからやるのではない」と応えた。

 宮武さんはこの問いに対し、「就労移行支援の事業を始めるにあたって、仲間を集める必要性は出てきた」と経験を語る。徳倉さんは「仲間が要る人もいるが、この2人(中橋さん、徳倉さん)は要らなかった。社会起業家的な人にはそういう傾向があるかもしれない。社会がニーズをくみ取る前の段階だから」と分析した。

 浜谷氏はディスカッションを終え、「挑戦したいことがあれば、とにかく『やれ!』ということだ」と力を込めた。寺西氏は「先に一歩踏み出し、前を走る人たちが、どのような化学反応を起こすのか。それをこのテラロックでやっていきたい」と今後に向けた意気込みを改めて述べた。

pitch-battle【熱狂と冷静に彩られた若手らのチャレンジ構想】

 休憩をはさんで始まったのは、これから活躍の場を広げようと企む若手8人(6組)のピッチ。寺西氏が厳選した登壇者たちは、いずれも非常にクオリティが高いのは言うまでもなく、それ以上に熱量の高さが感じられた。それぞれの質疑で熱く応援する声が続いた一方で、ビジネス観点の冷静な指摘も出ていたことは忘れてはならない。若い挑戦者に対し、心からの熱い応援や支援と、冷静な知的フィードバックが折り重なることが本当の後押しになるのではないだろうか。

 ここからピッチ内容についてお伝えする。なお、応援者がより増えるよう、動画を撮影してYouTubeにアップロードし、埋め込んだ。ぜひ観てほしい。「ライター業の放棄だ」との批判は覚悟の上だ。もちろん、それぞれに短い文章は添える。

1.清水悠平さん
 世界を変える起業家を支援するために起業することを決めた、夢見る起業家のタマゴ。270株式会社の設立を準備中。またプライベートシアタールームという、不純な心を持つ人間にはいかがわしく見えるビジネス構想も温めている。22歳。

プライベートシアタールームについて質問が集中。観られる映像のジャンルや料金を質問していた参加者は、いいお客さんになる可能性が高いかもしれない。ジョニー田中は、起業支援についてもっと聞いてみたかった。

2.村山淳さん
 アートの力や自らの人文系の知識を融合させ、地域の自然と文化を掘り起こし、底力を発揮させたい。今は高松市塩江町地域おこし協力隊。今年中に法人化し、民間で持続させていきたい考え。

「学業とビジネスのギャップは感じないか」との質問に対し、「フィールドワークの気分でやっている。アウトプットが論文なのか、イベントなのか、の違いしかない」と達観したコメント。

3.桜田香織さん・大江真帆さん・平元彩音さん
 香川大学法学部の3回生。「きむぜみ」。大学生が理想の仕事を見つけやすい仕組みができれば、若者が活躍し、元気な地域ができるのでは!?あまり知られていないけど実は魅力的な中小企業を「お宝企業」と名付け、宝探しのように企業をめぐるツアー企画を検討中。「友人の寺西さんに手伝ってもらった、コンテストで優勝はできなかったけど一部を実現したい」

寺西氏への感謝を口々に語る女子大生たち。「人との出会いは大切だと思ったので、テラロックに参加して力を貸してほしいと思った」。若手の離職に悩む会社経営者から「ありがたい活動」と評価。ファミーリエ徳倉さんからは「一緒に何か」と直接声掛けも。

4.大崎龍史さん
 地域に根差した新時代のメディアとなるべく航海中の「瀬戸内サニー」船長さん。船長さんというか、YouTuber。UUUMを強く意識し、「瀬戸内地域のYouTuberプラットフォームを目指す」と力強く語る。

 質疑応答では、岡山から仲間になりたいとの申し出が。プラットフォームの構築を見据え、「各地域でトップYouTuberを育てることが大事」と思いを語った。

5.今井恵子さん
 アパレル製造業のプラットフォームとなるSaaS「patternstorage」を構想し、年内にリリース予定。業界における長年の経験から、過酷過ぎる労働環境を変え、評価される仕組みを作るために奮闘する。「パターンアトリエwakka」代表。

 中橋さんが「自分のキャリアから生まれる新しい発想で、みんなの役に立つ、誰も困らない、すばらしい」と絶賛。縫製に携わった経験のある参加者から「縫製業はもうからず、つらかった。儲かるビジネスにすることが重要」と指摘があった。

6.山岡健人さん
 一人ひとりが新しい生き方を求める時代になる。プロジェクト型の仕事をよりよくある話にすることを目指すサービス「WORKATORS」をリリース。「今は限られた人しかできない0から1を作るという仕事をコモディティ化することを通じて、あらゆる貧困や格差をなくしたい。「アドリブワークス」代表。

 「この地域でなければできないことがいっぱいある」と力を込めた。参加者が地方で重要なことについて尋ねると、「起業はトライアンドエラーを繰り返すもの。辞めてもいい、逃げてもいいという自由が必要なのではないか」と応えた。

closing;【「仲間」よりもまず「出会い」が必要】

 登壇者が目まぐるしく変わっていき、熱い情報の数々が会場で宙を舞う中、ファシリテーターの谷益美氏が「どうもー」と満を持して登壇。この日急遽弟子に採った田中美妃氏が書いたホワイトボードのグラフィックレコードを示し、会の締めに取りかかった。

 そして参加者らに問いかけたのが、「挑戦に、仲間、いる?いらない?」という疑問。反応を見て、「たぶん、より重要なのは『出会い』」と指摘した。登壇者らの様々な「出会い」を拾い上げて示し、「出会いを必要としていない人は、たぶんいない。そしてここが、とても上質な出会いの場になりつつある」と述べた。

 最後にあいさつした寺西氏は、「楽しかった。自分が一番楽しんでいたかもしれない。楽しむことは大事」と、満面の笑みを見せ、達成感を全身で表現した。「ここで出会った仲間たちで、さまざまなプロジェクトを進めたい。先につなげたい」と意気込みを語った。

【取材後記】

 寺西氏は「挑戦+応援=行動」という方程式を示した。生意気ながら、私はこのように書き換えてみたい。

「挑戦×応援=各々の熱い実践→??」

 人類の歴史とはイノベーションの積み重ねであると、私は感じる。いつの時代も、他の人たちが思いつかないようなことや、やろうと思わないようなことに、敢えてチャレンジする人たちが、少数ながら存在した。しかもその多くは、全身全霊、人生を懸けて挑戦を続ける人たちだ。彼ら全員が、豊かな人生を送ることができたわけではない。だがその結果として、便利な暮らしや生産性の向上、人口の増大などにつながるイノベーションが生まれ、進歩や発展と評される歴史が刻まれてきた。

 いま、新たな時代が到来している。人口が減少に向かい始める中で、利便性の向上や、業務の効率化に、以前ほどの価値は見出されなくなっている。代わりに求められているのは、社会的意義を強く感じたり、住む場所や仕事を自由に選べたりといった、その人らしい生き方の実現ではないだろうか。そしてそれは、時には嘲笑の的となりながらも歯を食いしばって挑戦を続け、経済社会の発展に貢献してきた人たちの生き様と、どこか重なる。

 他の人たちにどう思われようと、何を言われようと、挑戦を続けることで何かを達成できるということは、どうやら間違いないらしい。これがまさに、先人から学ぶべき最も大切なことだ。

 挑戦について語り、応援の声が上がり、連携や協力も含めた実践に繋がる、そんな熱い空間となりつつあるテラロック。社会を変える何かが生まれるのではと期待させてくれる。

 私も応援を続け、挑戦を続け、実践し行動で示し続ける。