#1733 概念型探究の理論と実践
今回は『思考する教室をつくる-概念型探究の実践』という書籍からの学びを整理していく。※海外書籍の邦訳版のため、日本で取り入れられるものだけを示すようにする。
1 概念型探究とは何か?
・探究型学習×概念型学習=概念型探究
・探究型学習のスケール
➀構造化された探究:内容・方法を教師がコントロール
②導かれた探究:内容は教師がコントロール、方法は子どもが選択
③オープンな探究:内容・方法を子どもが選択
※両極端になると「直接的指導⇔発見学習」となる。
・「概念」は入れ子構造になっており、「マクロ」「ミクロ」がある。
・概念型学習における「知識の構造」
➀事実:トピックを支える、時・場所・状況に限定される知識
②トピック:学習の具体的な焦点、時・場所・状況に限定される
③概念:1~2語の単語で表現、抽象的、時を超越する、普遍性をもつ
④一般化:複数の概念の関係を明文化したもの、転移する
⑤原理:④のように限定詞を必要としない、原則や真理
⑥理論:エビデンスに基づいた説明
・概念型学習における「プロセスの構造」
➀プロセス
②ストラテジー
③スキル
④概念
⑤一般化
⑥原理
⑦理論
2 概念型探究の概要
・概念型探究のフェーズ(行ったり来たりを繰り返す)
➀導入する
②方向を定める
③調べる
④整理する
⑤一般化する
⑥転移する
⑦振り返る(全てのフェーズで行う)
・演繹的アプローチ
➀一般化を検証する(伝達)
②事例を調べる
③一般化を実証する
帰納的アプローチ
➀事例を調べる
②パターンを探す
③一般化する
※概念型探究では「帰納的アプローチ」を重視する。
※どちらも「相乗的思考」を必要とする。
・概念型探究の文化の構築
➀心を開く:複数の視点や異なるアイデアを進んで検討する
②エビデンスに基づく:主観で判断せず、客観的に行動する
③粘り強さをもつ:諦めずにチャレンジし続ける
3 概念型探究の計画
・単元計画のステップ
➀単元名を決める
②概念レンズを決める
③単元マップをつくる
④主要概念とミクロ概念を特定する
⑤単元の領域を決める
⑥一般化の文を書く
⑦思考を促す問いをつくる
⑧必須内容を決める
⑨主要スキル、主要ストラテジーを決める
⑩最終的な評価課題、評価規準を作成する
⑪学習経験を設計する
⑫単元の概要を書く
・思考を促す問い
➀事実に関する問い:転移しない、事例に関係する
②概念的な問い:転移可能、三人称および現在形
③議論を喚起する問い:正解がない、意見が分かれる、➀②どちらでも可
※「概念の定義を問う問い」もある。
・一般化の分解→概念的な問い
➀分解する一般化を選ぶ
②その一般化の文から、概念を取り出す
③追加の概念を特定する
④重要な概念的関係を考える
⑤概念間の関係を問いとして書く
・子どもに辿ってほしい「一般化の順序」を決めておく。
※「知識ベース」と「プロセスベース」の両方で考える。
・カリキュラムマネジメントの方法
➀先行単元
②同時進行単元
③発展単元
※「単元配置図」を活用する。
4 導入する
・目的
➀感情と知性の両面から子どもを単元に惹き付ける
②子どもの既得知識を活性化し、「何を既に知っているか」を知る
③子どもの最初の疑問、質問を促す
・導入ストラテジー
(1)意見型
①四隅の討論(議論を喚起する主張)
②主張のスケール(同意、頻度、重要性、精通度)
(2)経験型
③シミュレーション ④実験・観察
(3)ディスカッション型
⑤発散→収束(ブレーンストーミング→KJ法) ⑥問いづくり
5 方向を定める
・目的
➀概念形成ストラテジーを用いて、概念レンズ・主要概念について共通理解する
②「調べるフェーズ」において扱うことのできそうな事例を導入する
・概念レンズ:単元に方向性をもたらす
主要概念:単元に枠組みをもたらす
・概念的思考のレベル
➀概念形成(個々の概念形成)
②一般化(2つ以上の概念の関係性)
③転移(一般化の新たな文脈への転移)
・概念形成の方法
➀明確な定義を伝達する
②最も分かりやすい例を取り上げる
③あてはまる例とそうでない例に分ける
④概念の特質を強調する
⑤例を事実レベルと概念レベルで比較する
・概念形成のアプローチ
➀演繹的アプローチ:定義に触れる→あてはまるかそうでないか分ける
②帰納的アプローチ:あてはまるかそうでないか分ける→定義を構築する
※どちらを活用してもよい。
・概念形成のストラテジー
(1)分類型
①フレイヤーモデル(定義、特徴、あてはまる例、そうでない例、概念)
②概念の四分表(あてはまる3つの例とあてはまらない1つの例)
③ベン図(重なり合わない、一部重なる、含まれる)
(2)描写型
④グループ分けと名前づけ ⑤定義を考え、仲間と交流する
(3)序列型
⑥スケール配置 ⑦ダイヤモンドランキング ⑧概念グラフ(2軸)
6 調べる
・目的
➀事例について調べ、単元の概念につなげる
②さらなる問いを喚起したり、レベルを上げたりするような事例を提供することで、子どもの理解を広げる
③教科型スキル、教科横断型スキルを習得する
・ケーススタディーのアプローチ
➀照準を合わせたケーススタディー:クラス全体で各事例を学習する
②足場を組んだケーススタディー:全体で1つの事例を調べたあと、個人やグループで別の事例を調べる
③ネットワーク型ケーススタディー:それぞれの興味に応じて事例を調べ、事例間のつながりを探す
④真のつながり:新たな事例に触れたあと、既知や現在の状況につなげる
⑤ハイブリット型アプローチ:①~④の中の複数を組み合わせる
・「探究のスキル」を習得するだけではなく、「スキルの一般化」も図る。
・調べるストラテジーとリソース
(1)紙媒体
①書籍 ②新聞・雑誌・文献 ③文学 ④手紙・日記などの一次資料
(2)ICT
⑤検索エンジン ⑥VR ⑦プログラミング
(3)視覚的リソース
⑧動画 ⑨画像
(4)経験的方法
⑩実験 ⑪工芸品 ⑫生き物の世話 ⑬校外学習 ⑭奉仕体験
(5)人的資源
⑮ビデオ会議 ⑯電話 ⑰インタビュー、調査、アンケート
7 整理する
・目的
➀事実と概念の両レベルにおける思考を整理する
②様々な媒体や教科領域を通して、概念やアイデアを表現する
③文脈におけるスキルを認識し、分析する
・オーガナイザー:複数の事実を概念のレベルに変容させるための手段
・事実的知識を整理することで、認知的負荷を軽減させる。
・整理ストラテジー
(1)比較用オーガナイザー
①相互比較表
(2)プロセス用オーガナイザー
②ネットワークモデル(ツリー型、スター型、ダイナミック型)
③流れ図(線形プロセス図、循環図、因果関係図)
(3)要約用オーガナイザー
④視覚的メモの活用 ⑤注釈をつける
・表現ストラテジー
➀社会的ごっこ遊び
②言語表現(活動ブック、漫画、手紙、日記)
③モデル化(具象、図解、抽象)
8 一般化する
・目的
➀複数の事例の間につながりとパターンを見出す
②転移可能な概念的理解を明瞭に表現し、正当性を裏付け、伝える
・一般化の別名
➀概念的理解 ②ビッグアイデア ③中心的アイデア ④探究テーマ
・概念的理解を阻害するパターン
➀「整理するフェーズ」で終わってしまう
②転移可能な概念的理解のレベルに行くための思考法を指導していない
③演繹的アプローチをしてしまっている
・力強い一般化を作成するヒント
➀明瞭な動詞表現
②一般的な三人称代名詞
③必要に応じて限定詞を使用する
④能動態
⑤2つ以上の概念を含む
⑥現在形の時制
⑦判断や価値観が入っていない
・思考の足場づくりのための問いかけ
➀「どのように?」
②「なぜ?」
③「だから?」
・子ども個々が見出した一般化について、互いにディスカッションさせることが重要となる。※教師は「相乗的思考」を促すために、「例えば?」などの問いかけをする。
・一般化のストラテジー
(1)思考の足場をつくる問い
①概念的な問い
(2)思考の足場をつくる概念プール
②概念プール ③穴埋め文 ④グループでつながりをつくる
(3)思考の足場をつくるパターンやつながりの探究
⑤概念マップ ⑥パターンorつながり探し
9 転移する
・目的
➀一般化の妥当性を検証し、正当性を裏付ける
②一般化したことを新しい出来事や状況に応用する
③経験、理解に基づいて、予測や仮説を立てる
④学んだことを意味ある行動に移す
・転移のストラテジー
(1)一般化の検証と正当性の裏付け
①一般化のテスト(新しい事例でテストする)
(2)新しい出来事や状況の理解
②新しい事例とのつながり ③時事問題への応用
(3)予測と仮説の作成
④「もし~だったら」の問いに答える ⑤検証可能な仮説
(4)学習内容の応用と行動
⑥パフォーマンス課題 ⑦作品づくり ⑧子ども主導の行動
10 振り返る
・目的
➀子どものエージェンシーの感覚を育てる
②学習のプロセスを計画し、モニタリングできるようにする
③探究の進行中、終了時に学習の進捗状況を個人や集団で評価する
・振り返りのサイクル
➀計画 ②モニタリング ③評価
・振り返りを取り入れるときのポイント
➀ルーチン:毎回行う
②ディスカッション:振り返りを交流する
③ミニレッスン:メタ認知の知識や方法を指導する
・「メタ認知のスキル」を習得するだけではなく、「スキルの一般化」も図る。
・振り返りのストラテジー
(1)全般的
①振り返りについての一般化 ②質問文を活用した振り返り ③学習日誌
(2)計画
④課題分析 ⑤評価規準の共同作成
(3)モニタリング
⑥終了時の振り返り
(4)評価
⑦事前・事後の振り返りの比較 ⑧チェックリストとルーブリック
⑨プロセスに関する振り返り
11 おわりに
今回、概念型探究について学ぶ中で、ある気付きを得た。
それは、「概念型探究」の理論は、ウィギンズ&マクタイの「逆向き設計論」に似ているということだ。
①一般化の文→永続的理解
②概念的な問い→本質的な問い
③転移のストラテジー→パフォーマンス課題
とそれぞれが対応していることが分かった。
世界の教育の潮流的に、コンテンツベースの教育は終わりを告げ、「コンピテンシーベース」あるいは「コンセプトベース」に舵を切る必要があることを痛感した。
日本の教育でも、「画一的な一斉授業」はオワコン化しつつある。
これからは、「探究的な学び」が中心となっていくだろう。
今回整理した「概念型探究」の理論を実践に応用することができれば、教科教育であっても、総合的な学習の時間や生活科であっても、「探究的な学び」をデザインすることができる。
その際に、
➀導入する ②方向を定める ③調べる ④整理する
⑤一般化する ⑥転移する ⑦振り返る
というフェーズをもとに、単元をデザインするようにしていきたい。
しかし、過去の記事でも指摘したように、日本の教育では「概念レンズ」「主要概念」を規定することが難しい。
現時点では、教科等特有の「見方・考え方」がそれに該当するが、やや抽象度が落ちる。
「方向を定めるフェーズ」や「整理するフェーズ」「一般化するフェーズ」を中心に、「見方・考え方」を働かせることが肝になるだろう。
いずれにしても、「事実的知識」を網羅的に暗記する時代は終わりを迎える。
概念的知識を帰納的に発見し、それを別の文脈に転移させる「概念型探究」の実践こそが、これからの時代に求められる教育の在り方ではないだろうか。
ぜひ、もっと理論を深く学び直し、実践に生かしていきたい。
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