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【監査法人の海外駐在】ジャパンデスクの将来

シリーズでお届けした「監査法人の海外駐在」最終回。これからジャパンデスクはどうなるのか、予想します。


監査法人で30年強、うち17年をパートナーとして勤めた「てりたま」です。
このnoteを開いていただき、ありがとうございます。

これまで3回にわたって「監査法人の海外駐在」について書いてきました。

過去の海外関係の記事と合わせて、noteマガジンにしています。(全部無料です)

海外駐在の話題で引っ張って、もう4回目になるためそろそろうんざりしてきたかもしれません。今回で一区切りにします。

今回は、ジャパンデスクという仕事がこれからどうなるのか、予想します。
結論を先に言うと、縮小する方向になると考えています。


ジャパンデスク、そもそもなぜ必要?

ジャパンデスクの仕事の内容については、初回にお話ししました。

一言で言うと、「日系クライアントのよろず相談窓口」です。
この記事に、こんなコメントをいただきました。

日本企業の海外進出とともに日本人プロフェッショナルの海外駐在も進みましたが、それは日本企業の国際化の象徴というより、日本企業が本当の意味で国際化されていないことの象徴のようにも思います。(フランス・デスク、ジャーマニー・デスクってあまり聞かないもんね)

Beaverさんのコメント

例えばアメリカには、先進国から途上国まで世界中の企業が進出し、会計事務所のサービスを受けています。
では、日系企業にジャパンデスクがあるように、それぞれの国ごとに「○○デスク」があるのか。そんなことはありません。

ジャパンデスクは、次の二つの思惑から成り立っていたと考えています。

  • 海外の日系企業:
    困りごとだらけで、助けてくれる人がほしい

  • 会計事務所:
    日系企業のサービスを呼び込みたい

この両者の思惑からジャパンデスクの将来を読み解くことができます。
いずれも、ジャパンデスクの縮小を示唆しています。


ジャパンデスクが縮小する理由❶
日系クライアントの経営の現地化

海外子会社の経営陣(特に社長)を日本からの駐在員でまかなうのか、現地で採用するのか、は親会社の方針によります。

ただ、一般的な流れとしては、事業が軌道に乗れば社長を現地化し、日本人をCFOとして送り込む動きが見られます。
現地に詳しい人が経営のかじ取りをする方がよい、ということに加えて、日本人駐在員のコストが高いので減らしたいということも影響しています。
赴任時・帰任時の引っ越しや渡航の費用、住宅費・医療費など各種手当、一時帰国費用、子どもがいれば日本人学校の学費など。地域によっては、カンパニーカーや運転手を用意することもあります。

子会社によっては、経営陣がすべて現地化している場合もあります。
そうなると、「日本人に質問したい」というニーズはなく、ジャパンデスクのサポートは求められません。

日系クライアントの経営の現地化は、進むことはあっても交代すること(日本人に戻すこと)は少ないと考えられます。
ニーズが減れば、ジャパンデスクは不要になります。


ジャパンデスクが縮小する理由❷
日系クライアントのプレゼンスの低下

会計事務所にとっても、日本人駐在員を置くことはかなりのコストがかかります。
コストの内訳は、クライアントと同じ。金額水準はクライアントの方が手厚いことが多いですが、それでも合計するとかなりの額になります。

一方、ジャパンデスクがあっても、相談があるごとに報酬を請求したり、相談を見越して監査などの報酬を値上げしたりはなかなかできていません。

コスト高になるジャパンデスクを置いている理由は何か。
それは、「日系企業へのサービスを拡大するために必要な投資」と考えているためです。

ところが、今からどんどん海外に進出し、現地子会社をどんどん成長させようという日本企業は減っています。
相変わらず高いコストが発生する一方で、日系企業へのサービスの拡大は見込めず、収入の成長も見込めない。そうすると、投資を削減しようという動きになります。


ジャパンデスクはどうなるのか

ジャパンデスクに対するニーズがどう変わっていくか、上記をまとめると次のようになります。

  • 海外の日系企業:
    困りごとだらけで、助けてくれる人がほしい
    →経営の現地化が進むと、ジャパンデスクへのニーズが減る

  • 会計事務所:
    日系企業のサービスを呼び込みたい
    →日系企業へのサービス拡大が見込めず、ジャパンデスクの費用が削減される

そんな中で、ジャパンデスクはどうなっていくのでしょうか。

一つ、これはかなり前から起こっていることですが、ジャパンデスク専属の駐在が減少しています。
監査や税務などのサービスを提供しながら、ジャパンデスクを兼務するスタイルが、より一般的になると思われます。

その担い手は、現地採用の日本人と、日本から派遣されるトレイニーに移行しつつあります。
「現地採用」といっても駐在員より格下なわけではなく、現地でパートナーになって日本のパートナーより高給を取る人もいます。
また、トレイニーは日本からの派遣ではありますが、「研修」目的があるためコストを低く抑えられます。(=待遇が駐在員より劣る)

もう一つは、親会社チームからのサポートがこれまで以上に必要になることです。
これまで駐在員に「お願い!」と言えば万事よろしくやってくれたのが、ジャパンデスク専属の人が少なくなると同じようには動けません。
そこで、監査にせよほかのサービスにせよ、親会社のチームがこれまで以上に現地チームと密にコミュニケーションをとって問題を解決することになります。

これは監査で言えば、グループ監査で親会社チームの関与がますます求められていることとも方向性が一致します。


監査法人で海外派遣を目指すあなたへ

私は皆さんに海外を経験することをやたらと勧めています。
それなのにジャパンデスクは縮小、どうしたらいいの?と思われるかもしれません。

そんな皆さんには、次のように考えていただければと思います。

  • 監査・税務などの業務と兼務する駐在員やトレイニーとして派遣されるポストを目指す

  • これから日系企業が進出する国・地域では、ジャパンデスクのニーズは大きく駐在のチャンスがある

  • 日本にいて海外業務により深く関与する機会は増えている(海外派遣前に助走できる)


おわりに

どんな仕事も、時代とともに変化することは避けられません。
ジャパンデスクについても、同じことが言えます。

4回にわたって海外駐在、とくにジャパンデスクの業務についてお話ししてきました。
皆さんも海外に行かれると、少なくとも部分的にはジャパンデスクの役割を担うことになると思います。
そんな皆さんが海外を目指される後押しになれば幸いです。

<おことわり>
実はこれまでの記事で「日本人」という言葉を使うことをできるだけ避けてきました。「日本人駐在員」という代わりに「日本からの駐在員」というように。
これは、国籍、人種、本人が考えるアイデンティティーにかかわらず、日本で育ち、母国語として日本語を話し、日本の会社(監査法人)で働いている人を想定しているためです。
ところがこのシリーズでは登場する回数が多く、いちいち言葉を置き換えるとかなり冗長になってしまいます。そこで、上記の人々の大多数にとって違和感がないと思われる「日本人」という言葉を使っていますが、そのほかの人々を排除する趣旨ではありません。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。
この投稿へのご意見を下のコメント欄またはX/Twitter(@teritamadozo)でいただけると幸いです。
これからもおつきあいのほど、よろしくお願いいたします。

てりたま

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