水原一平氏はどうやって大谷翔平選手の銀行口座にアクセスしたのか
大谷選手の通訳であった水原氏がアメリカで訴追されました。16百万ドル(約24.5億円)という不正送金額、2年強の間に19,000回もの賭け(1日平均25回)にも驚かされますが、このnoteの読者の皆さんの興味はそこではないですよね?
監査法人で30年強、うち17年をパートナーとして勤めた「てりたま」です。
このnoteを開いていただき、ありがとうございます。
2024年4月11日、アメリカ連邦検察が水原氏に対して訴えを起こしました。
日本の報道では、水原氏が口にしていた金額をはるかに超える被害額や、賭けの回数、水原氏とギャンブルの胴元との生々しいチャット、大谷選手は完全な被害者であると言い切っていることが話題になっています。
ただ、私のnoteの読者の大半は、会計士・税理士か企業で経理部門や内部監査部門にお勤めの方ですので、「大谷選手が協力していないとすると、どうやって大谷選手の銀行口座にアクセスできたのか」が気になりますよね?
先に種明かしをしますと、連邦地方裁判所に提出された刑事告訴状(CRIMINAL COMPLAINT BY TELEPHONE OR OTHER RELIABLE ELECTRONIC MEANS)にははっきり書いていないようです。しかし、ヒントはありますので見ていきましょう。
水原氏は、どうやって銀行口座にアクセスできたか
問題の銀行口座
問題になったのは、ある銀行(刑事告訴状では"Bank A")にあった一つの口座です。
それは、大谷選手が野球選手としての給与を受け取る目的で作った口座でした。
口座番号の一部をとって"x5848"として刑事告訴状に何度も出てきます。
この口座に登録されていた電話番号(下4けた0373)は水原氏のものでした。
また、大谷選手のアドレスに似せたgmailアカウントも登録されていたのとのこと。
このgmailアカウントは水原氏が作ったものか否か確証はないようです。しかし、水原氏の電話(おそらくスマホ)からアクセスできるPayPalアカウントにはこのgmailアドレスが登録されていたそうで、間違いないと思われます。
電話番号もメールアドレスも自分のものに変更してしまっていて、そもそも変更できるということはパスワードなども知っていたことになりますので、オールマイティーに何でもできることになってしまいます。
銀行口座へのアクセス
では、そもそも水原氏はなぜその口座にアクセスできたのか。
私が読んだところでは、刑事告訴状にはその経緯は書かれていませんでした。
ただ、ヒントはあります。
大谷選手自身が捜査に協力して、事情聴取を受けている部分です。
アメリカに渡った2018年ごろ、大谷選手("Victim A")がアリゾナにあるBank Aの支店で口座を開設した際、水原氏が通訳として付き添っていたとのことです。
大谷選手は、(大谷選手らしいというか日本人らしいというか)当時英語はさっぱり分からなかったし、今もよく分からないと言っています。
水原氏は横にいただけでなく、大谷選手に確認しながら銀行の係員と話してセットアップしていったと考えられます。
そこでIDもパスワードも目にしたことでしょう。
銀行の記録によると、口座開設からずっとこの口座にインターネット経由のアクセスはありませんでした。
はじめてアクセスがあったのが2021年10月。水原氏が問題の胴元とWebサイトでつながった直後です。そして翌11月、はじめての不正送金が行われます。(刑事告訴状21(d))
水原氏はどうやって隠してきたか
だいたいの不正には隠蔽工作が伴います。
水原氏の場合も例外ではありません。
銀行とのやり取り
Bank Aの記録により、何度か"x5848"口座の件で大谷選手を名乗る人物から銀行に電話があったことが分かっています。
いずれも水原氏の電話番号からでした。
一度は電話での送金指示がうまくいかず、口座が凍結されてしまったことがありました。水原氏はさぞ焦ったことと思います。
水原氏は同じ日に銀行に電話します。
別の係官が電話に出て、水原氏は大谷選手の生い立ちに関する質問に答えたりして、凍結解除に成功しています。
(刑事告訴状 22(a), (b))
代理人からの質問
大谷選手のスポーツ代理人("Agent 1")は、大谷選手の税金などの面倒を見る専門家の手配もしていました。
その中で"x5848"口座の存在を知り、水原氏に何度か質問しています。
水原氏は、このように答えたとのこと。
訳すと「ああ、それは『プライベート』な口座で、翔平は誰にも見られたくないんだ」というところでしょうか。
代理人が大谷選手に直接確かめることはありませんでした。
水原氏に聞けば何でも英語で答えてくれるので便利だったようです。
会計等専門家からの質問
代理人の手配により、大谷選手には記帳代行、税務申告、資金運用の専門家が付いています(それぞれJ.C.、K.F.、B.L.)。
いずれも"x5848"口座の存在を知り、自らの責任を果たすために内容を知ろうとします。
記帳代行専門家、資金運用専門家は"x5848"口座について代理人に質問しました。
代理人から水原氏の説明を伝えられ、それで引き下がっています。
(刑事告訴状27、29)
税務申告専門家は大谷選手とのミーティングが予定されていましたが、病欠とのことで水原氏が一人で現れます。
そこで"x5848"口座の内容が分からないと税務申告を誤るおそれがあると説明しましたが、水原氏はその口座では利息は発生しておらず、寄附なども行っていないと回答しました。
(刑事告訴状28)
先の代理人もこれらの専門家も日本語ができず、コミュニケーションはもっぱら水原氏との間で行われていたとのこと。
これが不正の隠蔽を容易にしたと考えられます。
お断り
2点お断りというか、補足があります。
参考にした"CRIMINAL COMPLAINT BY TELEPHONE OR OTHER RELIABLE ELECTRONIC MEANS"について、「刑事告訴状」という訳は正しくないかもしれません。
日経の記事では、「米連邦裁判所に提出された資料」としています。
また、この書類では、その性質上当然ですが、かなり記述は慎重になっています。
例えば、「水原氏が電話した」とは言わず、「電話番号XXXXから電話があった。XXXXは水原氏の電話に関連付けられた番号である」といった具合です。
ちょっとまどろっこしいので、この記事では端折って書いています。
おわりに
この刑事告訴状は、難解な法律用語は使われておらず、とても読みやすいと感じました。
また分量も37ページと、この手の書類としてはコンパクトになっています。
興味がある方は、読んでいただくと新しい発見があるかもしれません。
冒頭に引用しましたが、再掲します。
https://www.espn.com/prod/styles/pagetype/otl/2024/240411_ent_mlb/2-24MJ2125-complaint-mizuhara.pdf
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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これからもおつきあいのほど、よろしくお願いいたします。
てりたま
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