日向 都

あれこれ考えがち。人、お仕事、お酒、ごはん、小説、短歌、漫画、お笑い、ミュージカル、映…

日向 都

あれこれ考えがち。人、お仕事、お酒、ごはん、小説、短歌、漫画、お笑い、ミュージカル、映画、ゲームが好きな頭でっかちでゆるいおたく。東海大学日本文学科卒。中古文学専攻。卒業論文のテーマは「蜻蛉日記論-道綱母の無自覚な実子への〈加害性〉を中心に-」。

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高校中退して人生詰んでた機能不全家庭育ちが、大学進学を決め、希死念慮から逃れられるまでの話

十年前のあの日、大袈裟でなくて、わたしは生きていていいのだと、世界から許されたような気持ちになった。 自我のないわたし 物心ついたときから母親の言う「あなたの好きにしなさい。」は「私の望みを自分で読み取って、そのように行動しろ。」という意味だとわたしは知っていた。 そうして小学生の頃に「進学先はあなたの好きなようにすればいい。」と言われたわたしは、寝ることや遊ぶことを諦めようと一生懸命に努めながら、中学受験に向けて勉強した。 勉強ができないというわけではなかったが、要領は

    • 短編小説・刺し違える覚悟などないままに

      「新年度」から「新」が消え去ったくらいのこの時期は、どうにも疲れる。 おそらく現代日本に生きる人の多くには経験があるだろうが、嵐と真夏のあいだに梅雨寒が挟まるような不安定な気候と五月病があいまっただるさを覚える。 それは湿気のせいもあり、なんだか水浸しにされてふやけた脳があたまの中でぱんぱんに膨れているような感覚だ、美紀は思う。 頭が重いから、身体まで重くなるようだ。 だが、それを素直に口に出そうものなら「ふしぎちゃん」「変なたとえ」下手したら「変わってるアピールなの?」と小

      • 好きなだけ落ち込んでいい日記

        二日連続で、夕飯を戻してしまった。 梅雨の低気圧にはめっぽう弱い。 この時期の低気圧による頭痛は目眩と吐き気を連れてくる。 ついでに風邪までひいたようで、この二週間は関節痛と喉痛と微熱までおまけでついてきた。 ベッドで横になり、タコ殴りにされているような全身の痛みをやり過ごす。寝返りをうつたび身体がきしむ。ここ一年は不眠気味なせいで、どんなに体調が悪くても上手には眠れない。 でも身体を起こすと目眩がひどくて吐き気までしてくるので横になるほかないのだった。 ただ、身体にこ

        • 短編小説・ようちゃんが泣いている

          ママのことが、よくわからない。 土曜日の昼過ぎ、おなかがすいたの、とママに伝えると、ため息で返された。 「もうね、ママ、いやになっちゃった。」 ママにそんなこといわれるの、はなもいやだ。 でも、ママがどうしたら「いや」じゃなくなるのか、まだたった五年しか生きていないはなにはわからない。 おなかがすいたのがだめだったのか、わからないけど、もしわからないって口にだしていったらお母さんら大きな声でなにかを叫び出したあと、はなの頬を引っ叩いたり、はなのおなかとか背中のあたりを

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          短編小説・いつかあなたが刺される前に

          「あなた、ほんといい加減にしないといつか刺されるよ。」 友人の亜紀にいつもの飲み屋へ呼びつけられたわたしは乾杯してからレモンサワーを一口飲むなり、想像していた通りの話をしてきた彼女にいった。 「だって、かわいいんだよ。」 物騒な脅し文句にたいして甘えた声で弁明する亜紀だが、その甘さは長い付き合いのある、しかも異性愛者の女であるわたしには残念ながら通用しないものだった。 いや、その甘さが通用しているからこそ、亜紀にどのような話をされるかとわかったうえでわたしはまた彼女に

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          アロマンティックな自分のまとまらない考え

          しいていうならアロマンティックで、 アンチロマンティックラブ・イデオロギーで、 アンチナタリストであるわたしがどうしても 色恋が介在した瞬間、人と人との結びつきを下等なものだと見なしてしまう話 恋愛、結婚、出産、そんなに素敵なものですか? この世の全員ではないと理解しているが、恋愛に基づく関係性こそ、人と人との結びつきで最も深く、尊いものだと認識している人間は少なくない。 たしかに現代日本の社会において最も簡単に番をつくることが可能なのは基本、恋愛関係をベースにした男

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          短歌・自己陶酔

          自己陶酔に浸りきった恋愛って他人事なら楽しいよな、しょうもなくて。 わたしたち二時間半の映画ならいま何分のとこにいますか まだ知らないわたしを教えてくれる人そのまま深くに沈めてほしい なによりも愛しい自分を黙らせるいつかに嘘のずっと一緒ね いつもより刺激の強いキスをするラムネの瓶で欠けた前歯で インターの周りに建ったお城すら好き同士しか夜は眠れない 自意識を持て余すから輪の中にいれば窮屈 逃げれば孤独 デタラメに撒いた宝石なにひとつ手渡すことはできないけども

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          昇進したら適応障害になった話と「メンタルの弱さ」について

          「メンタルが弱い」という言葉の意味 わたし自身は他人から「メンタルが弱い」とよく言われるし、自分自身でも屈強な精神を持てているとは絶対に言えないので、間違いではないと思う。 しかし、そもそも「メンタルが弱い」というのはどういう意味なのだろうか。 おそらく表面的な事象としては、落ち込みやすくて気分屋であり、それを隠しきれないし、結果として人への態度や仕事の質にむらがでる。同時に気分の落ち込みにより思考も圧迫されて視野が狭くなる部分もある。 その事象を深掘りせずにただ言語化

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          サイコスリラー×百合『毒娘』の話と女性が女性に愛されることの難しさの話

          まず最初に わたしは百合、すなわちGL(ガールズラブ)といわれる女性同士の関係性を描いた物語が大好きだ。 小学生の頃に「初恋の男の子と再会したと思ったら本当は女の子で!?でも胸のときめきが抑えられない……わたしも女の子であの子も女の子なのに……友達なのに……どうしよう……😣✨」というような少女漫画を読んで以来、女性同士の入り組んだ感情そのものが性的嗜好にぶっ刺さったまま20年近い人間である。 ただ百合といってもオタクによって捉え方はさまざまだ。 淡く幼い恋愛感情だけを百

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          わたしの愛するアリ・アスターみの詰め合わせこと『ボーはおそれている』の話

          『ボーはおそれている』作品としての魅力 賛否両論だが、アリアスターが『ヘレディタリー/継続』や『ミッドサマー』のヒットを経て、思う存分に好きなことを表現しようとした結果、きちがい毒母の集大成を魅せてきたという点だけで個人的には2,000円以上の価値があった。 「罪悪感で子を支配するヒステリックな親」「主体性を持つことを許されず幼児性を保持したまま歳を重ねた子」という親子像は機能不全家族への解像度があまりに高い。 正直いえば経験者かと疑わざるを得ないレベルだ。 ただずっと

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          短歌・どこかへいきたい

          死にたいというより、ここじゃないどこかへいきたい。消えてなくなりたい。 消えたいけど、消えられない。 それならいっそ一生懸命に生きたいと思う。 うっかりと飛び立ちそうな日々君が文鎮となり朝ここにいる 掌の豆腐を賽の目切りするたびにかちりと指輪が泣くことの意味 懐で髪を梳かれる二十四のわたしの中でずるいと泣く子 重さとはあたたかさだと胸に抱く君のあたまに夜ごと教わる 憶えなどない青春を追思して服に着られることすら妬む 身分証よりも年齢確認にはしゃぐ心が証する年端

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          短歌・愛しい君たちへ

          肌あぶる陽を蓄えたアスファルト面影もなく犬は寝そべる 真っ青なシーツに波をたてている君にほんとの海を見せたい なぜイカは足がやっつもあるのかな言われもするかなよっつだけかと じゃあねって別れるていで君の手は離さないままという試み 自らを人と信じていたいのか犬は鏡にしっぽを隠す 一撃で討たれる危機に恍惚と弛緩が及ぶ耳かきの謎 神である僕が浮かべた銀河系すべて混ぜればミルクコーヒー ごはん前マテ最中の犬みたい早く会いたい駅南口 寒暁の冷たい道を素足でも浮かれ歩くは

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          幼稚な万能感を抑えきれない上司が鬱陶しいなという話

          自分を棚に上げ、自信過剰でマウンティングばかり。そんなマチズモ思想の強い男性が優位性を示すのに女性部下は格好の餌食なんだろうなと男社会なブルーカラー職に就いてしみじみ思う。 昔から控えめで実直な人間が好きだった。 自分の実力や努力をひけらかして承認を得ようとしなくとも、ただひとりで真っ直ぐに前を見据えて道を歩む人間の存在に救われるから。 運動は得意なはずなのに、体育のチーム戦で他の子のように人を押し除けようとはせず一歩下がりながらも活躍していたあの子。 授業のグループ発

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          短歌・初恋

          陳腐でもありきたりでも的確だ言い古される訳はあるから 「好かれたい」その瞬間に人は死にのっぺらぼうのマネキンと化す ほろ酔いで詠んだ短歌は漏れもなく人に見せたら余裕で死ねる まどろみを刺す稲妻は吉報か?画面の割れたアイフォンセブン ねえもっとわたしのことを構ってとアイフォン越しから君はキスする 夢ごこち夢にみたほど夢のよう夢とは知らず夢を見ていた 空箱とバレないように煌やかなギフトラップを施すあなた さよならを繰り返したくないがゆえ人は結婚するのだろうか また

          短歌・初恋

          短歌・山のうえに建つ学舎にて

          大学生という身分にあぐらをかきながら、芽生えたばかりの自我と幼稚な反抗心を持て余す 「渋滞の大和トンネル誰のせい?」「昇りを進む王蟲の群れさ」 白魚の指に憧れつのらすも我が手はまるでクリームパンで 生きているだけで偉いと褒めてくれ僕にはそれで精一杯だ 責任を取れないのなら黙ってな他所の人生背負えんのかよ 目が合えば挨拶すべきわかってる故にそらすのコミュ障なので サークルやゼミで恋する僕たちは狭いケージで番うネズミか 生産のラインにすらも載れぬくせ量産型だと笑うさ

          短歌・山のうえに建つ学舎にて