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たまには海が見たい

「海だー!やったー!海が見えたー!久しぶりに僕は海にやって来たぞー!」
と、いやいや、きゅん君、ここはいつもの、いぬうた市は、
きゅん君と、ぐーちゃんのご自宅ですよ。
すると、きゅん君、今まで楽しそうだった顔が一変して、
つまらなそうな表情になって、
「そんなの分かっているよ。いいじゃないか。僕が家で何をしようと。ここのところ、暑いせいもあって、飼い主が全然遠出をしてくれないから、こうやってせいぜい、海にやって来たゴッコをするしかないんじゃないか」
あら、それは大変失礼しました。
そうゆうことですか。
まあ、何と申しましょうか、それは悲しい話ですね。
でも、そろそろ気温も落ち着きそうですから、
海に行けるのも、もうすぐじゃないですかね。
「どうかなあ。分かったもんじゃないよ。何しろ、僕はあんまり期待しないことにしてるんだ。特に飼い主のやることなすこと全てにね。失望するのにもう疲れたし」
きゅん君はそう言うと、軽く宙に目をやりました。
その目には虚無感が漂っています。
そこに、ぐーちゃんがトコトコってやって来て、
ニヤリとひとつ笑って、こう、あおりました。
「きゅん、もしかしてお心が疲れているんじゃない?そういう時は、どうしたらいいか?ぐーが教えてあげるわ。そんな時はね、そんな時は広い景色を見るといいのよ。それは例えば海さんとかね」
それを聞いた、きゅん君は突然叫びます。
「ぐー、何てことを言うんだ!余計、海に行きたくなって来たじゃないか!あー!海ー!海行きてー!」
その、きゅん君の反応に、ぐーちゃん、とても満足そうで、
あははははー!と高らかに笑います。
「残念だわね。きゅん。せいぜい飼い主と、この暑さを恨むことね」
と、追い討ちをかける、ぐーちゃんと、
ただただ何も言えず、身もだえる、きゅん君です。
更に、ぐーちゃんが続けます。
「そんなにお海がいいかしら?ぐー、お海さんとか大き過ぎて、何考えているか、全然分からないから、あんまり好きじゃないのよねえ」
なるほど。どうでもいいから、ぐーちゃんは、
そうやって、きゅん君をからかっていたんですね?
「そうよ。でも、きゅんもお海さんに本当に行きたいのか?ちょっと冷静になって考えた方がいいんじゃない。そのお頭をお水に冷やすとかして」
ぐーちゃん、その頭はどこで冷やすのが最適ですかね。
「それはやっぱり、いっぱいお水さんのあるお海さんよ」
そう言った瞬間、またニヤリと笑って、
するとまた、きゅん君が、「あー!海ー!やっぱり海だー!」
と絶叫して、その繰り返しはしばらくと続くのでした。
きゅん君、きっとそのうち海に行けますよ。
秋の海はちょっとセンチメンタルでいいですもんね。

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