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『おらおらでひとりいぐも』(若竹千佐子 著)

※ネタバレします。

【内容】
夫に先立たれ、子供たちとも疎遠 の75歳の老女桃子は、いつしか脳内で沢山の人間が語り出すようになる。

第158回芥川龍之介賞受賞作。


【感想】
老人文学としか言えないような不思議な作品でした。
一人孤独に暮らす老女の頭の中で、色んな人々が喋り出す…
実験的な作品だけど、東北方言というドメスティックな手触りもあり、読んでいて不思議に懐かしく、どこか腑に落ちる感覚がありました。

まるで本人の幻想をそのまま文章にしたようなリアリティがあり、一人の高齢女性がその内面を描いたような作品のように感じて読んでいたのですが…
一人称で語られるモノローグのようなパートと、三人称で第三者的な視点で語られるパートが交互に出てきていて、これはかなりテクニカルな作品なのだなと、今更ながら気付かされましたり
小説ならではの様々な手法を幾つも繰り出して、独自の世界を立ち上げているのだなと…

『おらおらでひとりいぐも』…
夫も亡くなり、子供も独り立ちして、自分一人で生きていく…
超高齢化社会に生きる高齢者の新たな生き方に関する新しいタイプの小説なのだったのだと思いました。

先日読んだ直木賞受賞作の『銀河鉄道の父』も宮沢賢治をテーマとした作品でしたが、この『おらおらでひとりいぐも』のタイトルも宮沢賢治の詩の一節を元にしたものだそうです。
文学の世界では、いまだに宮沢賢治は強い影響力を持っているのだと感じました。

そういえば、映像化されていたなあと思って調べてみたら、田中裕子が主演しているとのこと。どんな風に映画化しているのか気になったりもしましたが…うーん、正直映像で観るのはしんどい作品かなあと思ったりもしました。

先日読んだばかりの同じく芥川賞受賞作の『スクラップアンドビルド』が、若者から見た惨めに歳を取って行く老人を描いた作品だったのと対照的な作品であり、そうした面でも興味深く読みました。

https://www.kawade.co.jp/sp/isbn/9784309026374/

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