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『M-1はじめました』(谷良一 著)

【内容】
漫才コンテスト『M-1グランプリ』をつくった元吉本社員がその裏側を語る。

※ネタバレ(?)します。


【感想】
本屋で見掛けて、なんとなく気になっていた本でしたが、先日読んだ本屋大賞受賞作『成瀬は天下を取りに行く』でM-1に参加する主人公を描いていたりして、気になったので読んでみることにしました。

M-1開催以前は、漫才が下火になっていた状況を、当時やりたくない仕事をさせられていて腐っていた著者が、漫才ブームを再び起こすために何かやれという上司の命令で一人で始めたものだそうです。
色んなことをやっていたことのら結実として、M-1グランプリになったのだそうです。

冷飯を食わされていた社員が、地味な活動をしていてそれが大きな事業に育って行くという、『プロジェクトX』などでよくみる昭和の日本企業的な成功パターンになっていることも興味深いなあと思いながら読んでいました。
今の日本企業は、ギリギリの人数で、なんなら仕事しているメンバーも派遣社員や契約社員で、こんな形でプロジェクトを始めるなんてことが難しくなっているのではないか。
なぜ吉本興業が、こうした形でM-1を立ち上げられたことも興味深いなと思いました。
お笑い業界、そして吉本興業という古い日本の体質を持った企業だったりするからなのか…
M-1は忘れなければ観るくらいの感じで観ているのですが、普段、特にお笑い番組を観たりしているわけでもないのですが、色々と興味が出てきました。

今は芸能界にいない島田紳助や、セクハラ問題でメディアに出なくなった松本人志、そして吉本興業自体のスキャンダルなど、色んなことが起こって後に、改めてM-1というものを振り返ると、全く門外漢でも自分でも色んな考えや感情が渦巻く感じがありました。

また、お笑いに疎いので初代M-1王者の『中川家』優勝まで、評判を落として吉本の劇場で漫才しか出来ない状況にあったといったことなど、知らなかったなあと思ったことなどもありました。


タイトルがそのままわかりやすくキャッチなキャッチコピーになっているのも、吉本興業で色んな企画やプレゼンなどしてきて人ならではだったりするのもあるのかなあと思ったりしました。
(もしかしたら、編集者が付けたのかもしれませんが…)

運営側でしかわからない苦労や見所など、テンポよく短くまとめられていて、著者が色んな所でM-1について語っていて、それが持ちネタみたいになっているんだろうなあとも思いました。実際、どうやってM-1が出来たのか聴きたい人は多いでしょうし…
この本自体が、著者の名刺代わりになったりもするのだとも思いますし…

そういえば、7年程前に、名門大学のk大学のゼミ主催のロボットのペッパーを使ったワークショップに参加したことがありました。
ペッパーを使った漫才をやっている60代の芸人さんがいたりするという変わったワークショップでした。
その会場で、ゼミでの研究をまとめたものをスチレンボードに貼って掲示していましました。
その研究発表には、やたらにお笑いの研究をしている学生が多く、なぜk大生がお笑いと思っていたのですが…
昨年、M-1王者になった漫才師の『令和ロマン』は、k大学出身だったりして、何か若い人の漫才に対する位置付けが以前とはかなり変わってきたのだと感じたりしました。
ワークショップに行った年を調べたら、彼らが大学に在籍していた時期とも重なっていたので、もしかすると令和ロマンのメンバーもいたのかもなあと思ったりしました。

そういえば、この本の中でM-1開催の次の年の吉本のお笑い養成学校のNSCの応募者数が、前の応募人数の3倍になったということでした。95%が漫才志望者だったとのことで、M-1の影響力って大きかったんだなあと…
考えてみると『成瀬は天下を取りに行く』で出てくる女子高生の主人公は、産まれる前からM-1が存在したのだなあということに気付きました。
そう考えると頭の中でモヤモヤしていたものの幾つかのピースがハマったような感覚にもなりました。
今の若い世代の人たちの目には、お笑いのことを、稼げてお金儲けが出来て、そしてモテるフロンティアみたいな領域に写っているのではないか…
『成瀬は…』で、高校3年間、M-1に1回も1予選通過していないような上手くもない漫才をしているのに、それはそれでカッコいいみたいな感じになるのかが、謎だったりもしたので…

あとがきに、M-1のアイデアを出し、審査員としても参加した島田紳助が書いていました。
一瞬、随分前に発売された本なのかと思ったのですが、2023年発売の本でした。
島田紳助は自分がM-1から降りてから、全くM-1を観ていないのだと書いていて、なんとも言えない気持ちになったのですが…

最後に筆者がもう一度あとがきのあとがきを入れることで、なんとかいい感じにまとめていて、それはそれで興味深い本となっていました。

https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784492047552

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