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名前で運勢が変わるか?(15):名前は運命の一部か?<上>

●出生タイミングと運命

占星術についての素朴な疑問のひとつに、「出生の年・月・日・時間が同じ人たちは、運命も同じになるのか」というのがあります。

大著『神の国』で有名な聖アウグスティヌスは、富裕な家庭に生まれた友人と、同じ日の同じ時間に生まれた奴隷とが異なる人生を辿たどったことに気づき、占星術信仰を捨てたそうです。[*1]

仮に人間には与えられた運命があり、その一端を読み解く神秘の技術が占星術だとしたら、同じ年・月・日・時間に生まれた人は、みな同じ運命になるはずです。

しかし人間には自由意志がありますし、個性が違えば人生の岐路で異なる選択をするでしょう。出生の日時が同じからと言って、別の人間が全く同じ人生を歩むなど、にわかには信じられません。

●運命が名前を選ぶのか?

ですが、占星術が示すのは人生のパターンに過ぎないとしたら、話は少し変わってきます。出生時の境遇等はいわば初期条件であり、その差が富裕な家庭の息子と奴隷の息子との唯一の違いという可能性もあります。

聖アウグスティヌスは、占星術に見切りを付ける前に、初期条件の異なる二人の人生パターンが似通っていないか、よく調べてみるべきでした。

というのは、同じ年・月・日・時間に生まれた人が、同じような人生パターンを歩むことが確かにあるからです。

しかも、よく似ているその人生パターンの中に、しばしば奇妙な「名前の一致」(人名や名称の一致)まで現れてきます。まるで運命の方が名前を選んでいるように見えるのです。

ここで取り上げるのは、三組の別々に育てられた一卵生双生児のケースです。彼らは出生環境も受精の瞬間も同一であり、遺伝的要素が共通という点を除けば、理想的な条件を満たしています。[*2-4] [注]

●ジム・ルイスとジム・スプリンガー

1939年8月生まれのジム・ルイスとジム・スプリンガーは一卵生双生児です。彼らは生まれてすぐ別々の家庭、ルイス家とスプリンガー家に養子に出されました。ところが、ふたりとも偶然に新しい親からジムと名づけられました。

二人は39歳まで生き別れでしたが、その間の職歴は二人とも最初は保安官補、次がガソリンスタンド勤務、その次がマクドナルドのハンバーガー・ストア勤務でした。

二人とも同じ銘柄のビールを飲み、同じ銘柄の煙草を吸い、二人ともチェーン・スモーカー。毎年夏の休暇はフロリダの同じ海岸で過ごし、どちらも車はシボレーです。

どちらも離婚歴がありましたが、最初の結婚相手の名前はどちらもリンダ、再婚相手の名前はどちらもベティ、息子に付けた名前がどちらもジェームズ・アラン、飼っていた犬の名前がどちらもトイだそうです。

ここには名前の偶然の一致がたくさんでてきます。自分の名前(ジム)は本人の希望ではありませんし、最初の結婚相手も再婚相手も、名前が同じである以前に、結婚成立を大きく左右するのは相手の意志です。

同じ銘柄のビールや煙草を好んだのも、ことによると運命がその銘柄名を選んだのかもしれません。

●ダフニー・グッドシップとバーバラ・ハーバート

1939年生まれのダフニー・グッドシップとバーバラ・ハーバートも一卵生双生児です。

バーバラは生まれてすぐ養子に出され、自分に双子の姉妹がいることを知ったのは20歳の時でした。二人が初めて会ったとき、二人とも髪を同じ色に染め、同じ色の服、同じ色のジャケットを身につけていました。

二人とも16歳の時にダンス・パーティで将来の夫と出会い、20歳の時に結婚し、子供はどちらも初子を流産した後、男、男、女の順で生まれました。二人とも地元の政府の活動家で、夫もそうでした。

また、二人とも15歳の時に階段を踏み外して足首を痛め、シルチェスター地区に住んだことがあり、同じ大衆作家の作品を読み、同じ婦人雑誌を購読していました。二人の養母は同じ生年月日で、どちらも彼女らが成人する前に亡くなったそうです。

二人とも子供の時はガールスカウトのリーダーで、同じ化粧品メーカーに勤めたことがあります。バーバラは結婚してハーバート姓になるまではサンドルという名前でしたが、ダフニーが子供時代に育った場所がサンドルです。この名前は苗字としても、地名としてもかなり珍しいものだそうです。

これらの一致点のいくつかは、共通する遺伝的要素やテレパシー等で説明できるでしょう。しかし結婚や就職などは、相手方が受け入れてくれなければ、こうした一致は起こりません。

名前の一致も、シルチェスターとサンドルだけでなく、大衆作家、婦人雑誌、化粧品メーカーの名前も同じはずです。

●ドロシー・ローとブリジット・ハリソン

ドロシー・ローとブリジット・ハリソンも別々に育てられた一卵生双生児です。

二人ともたまたま1962年の1年間だけ日記をつけましたが、日記帳に記入した日もまったく同じ、日記帳の作りも色も同じでした。二人とも子供の時にピアノの練習をしましたが、同じ年にやめました。二人とも派手な宝石類が好きでした。

子供の名前には、それぞれが男の子にリチャード・アンドルーとアンドルー・リチャード、女の子にキャサリン・ルイーズとカレン・ルイーズと名付けました。

ドロシー・ローは、カレンの名を初めキャサリンにするつもりだったのが、親類の機嫌を損ねないために変えたそうです。もし、親類が出しゃばりさえしなければ、どちらもキャサリン・ルイーズだったはずなのです。

そして二人ともつける香水が同じ、ぬいぐるみ人形を集める趣味も同じ。飼っている猫の名前はどちらもタイガーだそうです。

ここにも名前の一致がいくつもでてきます。子供の名前や猫の名前だけでなく、香水の名前も同じはずです。はたしてこれらが単なる偶然なのかどうか。

●名前も運命の一部なのか?

以上の例には、人名、ペットの名前、地名、商品名など、「名前の一致」が頻繁に現れています。詳しく調べれば、未発見の「名前の一致」がまだまだ出てきそうです。

ひょっとして、「名前」には人知の及ばない宇宙的意味があるのでしょうか。名前なんて好きなように付けられると思えても、そんな気がするだけで、実は一定の選択枠から出られないのかもしれません。

そして「偶然」という言葉も、私たちが説明できない事象に対して、便宜的に使用している呼び名に過ぎないのかもしれません。

だとすれば、運命こそが幸運や不運の原因であり、名前も運命の結果でしかない、ということになります。つまり「名前で運命を変えようなんて根本的な勘違い」ということです。

名づけの「名前」も、本来はその子の才能を発見してあげるのと同じように、見つけ出すべきものなのかもしれません。

==========<参考文献>==========
[*1] 『告白(上)』(聖アウグスティヌス著、岩波文庫)
[*2] 『超オカルト』(コリン・ウィルスン著、ペヨトル工房、1993年)
[*3] 『世界不思議百科』(コリン・ウィルソン+ダモン・ウィルソン共著、青土社、1997年)
[*4] 『恐怖の偶然の一致』(TBSテレビ編著、二見書房、1993年)
[*5] 『改訂版 大予言の嘘』(志水一夫著、データハウス、1997年)

==========<注記>==========
[注] 遺伝的要素やテレパシーの可能性も排除できるケース
 これら三例よりさらに興味深い「赤の他人で誕生日が同じ」というケースもあるが、証拠能力に乏しいため、本文では割愛した。この場合、一卵生双生児ではないので、遺伝的要素やテレパシーの可能性も排除できる。もし裏付けが取れていれば最良の実例になったのだが、非常に惜しい。折角なので内容をご紹介する。[*5]

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1939年、ニュージャージー州の病院で、出産のために通院していた二人のエドナが偶然出会った。彼女らは生年月日も生まれた時刻も全く同じだった。しかも、どちらも夫の名前はハロルド、夫の職業も乗っている車のメーカー・車種・色も同じであった。また、二人のエドナはどちらもキリスト教の同じ宗派に属し、それぞれの夫は彼女等とは異なるが、夫同士が同じ宗派に属していた。どちらも犬を飼っていたが、ほぼ同じ大きさの雑種で、歳も同じ、名前はどちらもスポット。そして、同じ日の同じ時間にどちらも女児を産み、出生時の体重もほぼ同じであった。かくして、親子二代で同一のホロスコープを持つ組合せとなった。
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 この話は『自分で天球図を描こう』(J・F・グッタヴェイジ著、1968年)で紹介されたが、『大予言の嘘』(志水一夫著)によると、チャールズ・J・カズー博士とスチューアト・D・スコット=ジュニア博士の二人によって「証拠能力に乏しい」と批評され、1975年の改訂版ではこの記事が削除されたとのこと。

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