絶滅危惧種「おばあちゃんのお茶請け」

 子供の頃、よく客が来た。近所の人たちは玄関先で。親戚などは居間で。仕事関係の人などは客間へ。通されるところはそれぞれだったけれど、お茶とお茶請けが用意されるのは同じだった。
 お茶請けは小さな皿に盛り、どんどん出した。漬物や煮豆、ちょっとしたお惣菜、甘く煮た果物などだ。
 私も家族に連れられ、近所や親戚の家を訪ねた。連絡なしである。突然の来客なのに歓迎してもらった。次々にお茶請けが出され、食べきれなかった。
 祖母はお茶請けをいくつも用意していた。連絡なしの客でも対応できた。
 母の時代になると、客が家に上がることは減った。連絡なしで行き来することもなくなった。
 しかし、お茶請けづくりは終わらない。会合などでお茶請けを持ち寄る習慣があったからだ。美味しかったらレシピをもらって自宅でも作る。
 会合でのお茶請けは、全員に行き渡るように大量に必要であり、なおかつ、他の人とかぶらないように、ちょっと珍しいものを用意する必要があった。母は負担に思うこともあったようだ。
 この習慣も今はほぼなくなった。我が家に突然の来客があっても、私はお茶請けを用意できない。お茶請けは消えたものと思っていた。
 数年前、仕事で訪れた山あいの村で、お茶請けをいただいた。小さな皿がいくつも並ぶ。どれも美味しい。おばさんのおしゃべりも楽しい。
 懐かしく美味しい「お茶請け」文化。絶滅危惧種ではあるが、もう少し、残っていてほしい。







































































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